15年経っても忘れない地獄の新人研修①
今まで色んな仕事を経験してきた中でも、鮮明に覚えているある会社の新人研修。時代も進み、ブラックな企業体制への見方も少しずつ変わってきていますが、まだまだ氷山の一角に過ぎません。
今では笑って話せますが未だに同じような会社で働いている方、一刻も早く辞めることをオススメします。
研修前:地獄への招待状
まだそれは入社式前の数週間のこと。座学の内定者研修も終わり、仲の良い同期と顔と名前が一致してきた頃、会社から正式な通達が手元に届いた。
【内定者合同宿泊研修のお知らせ】
1週間、県外の研修施設で同期全員が集まり泊まり込みの合宿を行い、入社式前に社会人としてのマナーや心構えを先輩社員から教えてもらう…という主旨の内容だった。
学生じゃないけど社会人でもないこの緩さ、実家を離れて新しい生活、新しい会社で新しい出会い…キラキラした毎日に浮かれていて、もはや研修さえも楽しみになっている自分がいた。
たぶん、挨拶の練習とか電話の取り方とかやるんだろうな。終わったら外に出掛けられるかも!空き時間にみんなでご飯食べに行くのも楽しそう!とワクワクしながら荷造りを終えた私。
この思想が学生気分…しかし、その時は何にも分からなかった。
研修1日目:課せられた課題
そして研修初日。スーツケースをコロコロ引いて、同期と指定された集合場所まで向かう。周りを見ると、他にも同じように大きめの荷物を持った人がちらほら。
いつも研修で会う同期の顔は分かるけど、話したことない人もいる。同期の人数は80人程。もうこれだけでちょっとした村が出来そうな人数で、この研修で全員集合すると聞かされていた。
まだ見ぬ世界を前に、みんなの顔は明るく、緊張と期待が混じった気持ちを胸に集合場所に到着。ついに社会人への第一歩、研修施設の扉をいざ開けると…
「ここから先は一切私語を禁止します。」
…!?
この一言で世界が変わった。何だこの張り詰めた空気は…目の前にはズラッと20人ほど会社の上層部が並び、険しい顔で仁王立ちしながらこちらを見つめている。
「新入社員のみなさんは、そのまま荷物を持って大研修室に集合してください。」
一言も発せるような雰囲気ではなく、先程とは打って変わって静かになった私たちは互いに顔を見合わせながら無言で研修室に向かう。玄関から左手の廊下の突き当りに、大学の講義をするような大きなホールに辿り着いた。
待機していた別の社員に奥から順番に詰めて座るように案内され、席に着く。目の前に用意されていたのは、白紙のA4レポート用紙、鉛筆、研修中の注意事項の紙、何も入っていない謎の茶色い紙袋…そしてゼッケンだった。
よく見るとゼッケンの隣に何かある。短く切ったクリーム色のリボンテープが9枚と安全ピンが9個、透明な袋にまとめられていた。何に使うんだろう…。他の同期もどこか不安そうな顔で席に着き、説明を待つ。
全員が揃ったところで、40代くらいのガタイの良い男性が壇上に上がり、表情一つ変えずにマイクに向かってこう言った。
「これから入所式を行います。みなさんには、目の前にあるリボンに1から9まで数字を書き、ゼッケンにつけて生活していただきます。数字は今日から行う課題の数です。全てクリアしないとこの施設から出られません。」
まるでミステリー小説のデスゲームの参加者になったような気分だった。明るいと思った社会人の扉を開けたら、待っていたのは過酷なスパルタ研修だった。
第一の課題:挨拶
入所式が終わった後、重い足取りで指定された部屋に向かう。荷物を置いて動きやすい服装に着替えたら、再度研修室に集合するようにと言われていた。リボンが付いたゼッケンを片手に持って眺めてみた。私の番号は49番だ。
社会人たるもの、挨拶が基本だとよく言われている。いかなる時も丁寧に礼儀正しく、マナーをわきまえて行動することが期待されている。そんな説明とともに発表されたのは、第一の課題「挨拶」だった。
「こちらで5人一組に分けました。本日から同じチームとして行動を共にしていきます。研修中はお互いに助け合ってください。」
ゼッケンを付けた他の同期も、部屋の空いてるスペースを使って名前を呼ばれて5人ずつで固まった。さらに各チーム一人ずつ担当のリーダーが付く。良かった…チームで行動となるとちょっと心強い。不安が少し解消された。
しかし何のためにチームにしたのか、その理由を思い知らされることになる。この課題はチーム戦、出来る人も出来ない人も全員同罪…連帯責任だ。
課題のクリア条件は、社会人の基本の挨拶4種類を全力で身に付けること。①おはようございます
②ありがとうございます
③かしこまりました
④いらっしゃいませ
5人横一列に並んでこの挨拶を3セット、リーダーの前で練習する。全員同じタイミングでお辞儀し、頭の角度と腰を曲げる位置、肩の位置が少しでもずれていたらやり直しになる。ある程度揃ってきたら、本番の部屋(?)に向かい練習の成果を見せて審査員からOKが出たら合格というルールだった。
「おはようございます!」
リーダー「声が小さい!!」
「おはようございまぁあす!」
リーダー「そんなんじゃ聞こえないんだよ!!!」
「おはようございまああああああす!!!」
睨まれながら大声で畳みかけられ、リーダーにしごかれる私たち。どのグループからもほぼ叫び声のような声しか聞こえてこなかった。施設の周りは森に囲まれていて大声を出すには打ってつけの場所だった。
これ新人研修か…?かなり疑問だったが、ここで躓くわけにはいかない。とりあえず課題をクリアしないとここから出られないし、まだ初日だから体力もあった。それから30分ほど練習し、本番部屋で試してみようということになった。部屋の入り方、列の並び方、身だしなみなども審査員(役員社員)に見られている。
「〇班、よろしくお願いします!!おはようございまああああああす!」
審査員「横田(仮名)のゼッケンの紐が外れてるから不合格」
「えっ…」
連帯責任。あっけなく5秒で落ちてしまった。しかも他人のミスで…この本番部屋チャレンジは1日1回しか受けられないらしい。今日はもう受かるチャンスが無い。
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