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Air auf der G-Saite

「人は亡くなったらどこへ行くの?」

小さな小さな手をそっと握りながら、その質問者に私は答える。

「きっとね、人も、ネコも、めだかも皆、亡くなったら同じところに行くんだよ。」「…どこ?」「あのお空の、虹の向こう、だと思う。」

たまたま空には大きな虹が架かっていた。虹の橋を渡る、とはよく言ったものだ。実際あれは、私たちの知らない世界へつながる橋なのだろう。でなければ何故、あんなにもうつくしい見た目をしているというのか。

「虹の向こうには、何があるの?」

彼女の別珍の黒のワンピースからは、急な訃報に急いだ彼女の保護者の困惑が、ありありと見えるかの様だった。しかしながらこのいたいけな幼女には、愛らしく上等な素材の、このワンピースがよく似合う。さっき細い煙となって空を目指した故人もまた、彼女のワンピース姿を見、目を細めて「可愛い、」と呟くことだろう。

「…皆が、生まれてくる前の姿に戻れる場所があるんだと思う。」

私はそっと、彼女の肩を抱いた。この小さな子に、私の言いたいことが伝わるかはわからない。それでも私は、せめて真摯に答えようと思った。

「本当は皆、神様の子どもなの。こっちの世界で人間として生まれてきても、ネコやめだかとして生まれてきても、虹の向こうに帰ったらみーんな、光に包まれた『神様の子ども』に戻るの。」

そう伝えると彼女は、不思議そうに虹を見つめた。彼女はきっとその小さな瞳で、虹の向こうの世界を垣間見ようとしているに違いない。

「神様の子どもに戻ったら、わたしのこと、忘れちゃう?」

そう、小さく呟いた彼女は、なんだか妙に大人びた表情をしていた。

彼女は「忘れられてしまうこと」への寂しさについて、この齢にして既に、想像を巡らしている様だ。

「…ううん、たとえうっかり忘れてしまった様に見えたとしても、必ず心のどこかに、あなたのことが遺っているはずよ。」

私の答えに、彼女はほっとした様にほほ笑む。ああ、彼女は忘れられたくなかったのだ—細い煙となって空へと昇っていった、あの人に。

「そうしてまた、神様に新しいからだを貰って、空からこっちへ降りてきて—私たちと同じ世界のどこかに生まれるの。」「…じゃあ、また生まれてきた時には、私に会いに来てくれるかな?」

彼女はそう言って、空を見上げる。虹は神々しい程に大きく、逞しいけれど優しい景色を空に描いている。私たちは二人、しばらくの間、そうして二人きりで虹を眺め続けた。

いつかまた、逢える日が来る—それを願う気持ちが二つ分、虹の橋の下、蒲公英の様にひたむきに咲いている姿を、きっと虹の向こうから、あの人も見ていてくれたはずだ。


#曲からイメージして書いたよ


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