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書店と家賃

地方の書店が苦境で続々と閉店しているというニュースが↓↓

かつては日本中の町や駅前にあった個人書店や5軒くらいの地方チェーン。
それらがどんどんなくなっています、なんて随分前から言われてることですがまだまだ続いている状態です。

理由は色々あって、この記事で挙げられているAmazonや電子書籍の普及はどちらかというと「欲しい本が町の書店まで届かなくなった」からAmazonや電子で買うという結果になったに過ぎず、その前にとにかく地方の書店まで本が届かなくなった、もしくは届くのがものすごく遅くなった、というのがまずあります。

なんで届かなくなったというと、配送を行なっているトラック便が減ったからです。本や雑誌が飛ぶように売れていた時代はとにかくトラックを出しまくって日本中に配送していた取次ですが、それが売れなくなってくると便の本数を減らしたり積載量を減らしたりするのは当たり前。当たり前なのですが地方の書店はその割を食らって注文した本が全然届かなくなることが日常となりました。記事にある「客に頼まれた本をAmazonで買って渡す」書店というのは結構前からあり、取次に頼むと10日後到着(もっといえば本当のところいつ届くかわからない)の本をAmazonで注文すると翌日に届くわけで、この時代にわざわざリアルの書店に来てくれ本を注文してくれる貴重なお客さまのことを考えるとこっそりAmazonで買ってでも注文に素早く対応したい気持ちはわかります。そうでないとその貴重なお客さんは残念な気持ちを持ちながらもAmazonで本を注文するようになってしまうでしょうから。しかし気持ちはわかるにしても「それでいいのか」案件ではありますよね……。

また、到着が遅くなってしまったのは便の問題ですが、そもそも本が売れづらくなってきた時代に在庫を嫌がる出版社があまり在庫を持っていなくて送れないことや、取次への在庫も出したがっていない上に、取次も在庫を抱えたがらないという状況もあります。ないもんは送れないですね。みんな在庫こわいのだ。

この手の話はニワトリタマゴで売れなくなったから運びづらくなって売れづらくなるという負のスパイラルを見事に描いているところです。

でもおそらくこの辺りの店頭売りが苦境の理由として飛び抜けているわけでは実はありません。こういった地方の小売さんはだいたい「卸」で食べています。そんなに客が来てそうにはとても見えない酒屋さんや米屋、八百屋が長年営業しているのはだいたい近所の飲食店にまとまった量を卸してるからです。これを出版界では「外商」と呼び書店も他の小売の例に漏れずこの外商の売上が相当大きい。

で、酒屋さんが飲食店に卸しているとすれば本屋はどこに卸しているのか。

それは「学校」と「図書館」。

〇〇小学校の教科書は〇〇書店さんが仕入れて学校に卸すということに決まってるんですね。教科書と共に図書館に置いてある本もその書店さんからだいたい仕入れていて、地方の書店と学校には強い結びつきがある。そもそも明治維新の時にこれから尋常小学校というやつを作ってそこで教科書というものを使って子供たちに勉強させるからその仕入れをする本屋というものを作れ、という明治政府のお達しに従って地方の商売人たちが本屋を始めたという日本の歴史があるので、その時からの強い結びつきなんです。都市部の本屋と違って地方の書店は学校のためにこそある。

そしてご想像の通り、それが少子化の影響をもろに被っています。経営的にいえば教科書や図書館への納入は子供の人数にほぼ比例する定期収入。ヒットやブームのあるなしで売れたり売れなかったりする店頭の本とは訳が違います。

また外商はお得意さんへのご用聞きの機能も持ちます。もう随分前に亡くなってしまった自分の婆さんが元気だった頃、毎月1回書店のおっちゃんが定期購読してた「月刊文藝春秋」を配達しにくるのですが、そのついでに「こういう本も好きじゃない?」と見繕って持ってきて婆さんが楽しそうに吟味して買ってました。実に素晴らしい昭和の文化だったと思うのですが、こういう商売も当然もう途絶えてしまっている。

都市部やチェーンの大きな書店はこの外商がいまだに健在で、紀伊國屋書店さんなんて売上の半分が外商なんだそうです。もちろん紀伊國屋書店さんがうちの婆さんみたいなのを細かく訪ねて売っているわけではなく、彼らの太客は企業です。企業がまとめて買う本だったりを仕入れて渡してるんですね。経済誌を毎号社員分購入してる会社なんかもあったりしたそうですが、それも雑誌不況に加えてとどめのコロナ禍(出社しなくなると雑誌もいらない)で随分減ってしまったとは聞きます。

そしてそんな都市部の大型書店も閉店が増えています。
例えばMARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店が来年閉店することを発表しました。

電子マネーの手数料の問題とかが指摘されていて、確かにそれも大きな問題なのですが、この件についてはそもそも東急百貨店が閉まるんだからそれはそれだけの話だろ、と書店苦境と直接結びつけるのはどうなんだ、と庇いたくはなりますが、まあ全体的に書店が苦境なのは確かです。

で、この記事でもさっきの記事でも指摘されていない隠れた大きな問題が「家賃」じゃないかというのが今回の本題。

渋谷店さんが閉店してしまうのは東急百貨店の閉店と連動しているので仕方ないのですが、移転先が見つからなかったり新しく建つ施設に戻ってこれなかったりするのは大きく家賃の問題があると思われます。

渋谷店さんがそうだというわけではもちろんないのですが、本がものすごく売れて書店にものすごくたくさんの人々が訪れていた昭和の頃、書店は考えられないくらい安い家賃で百貨店に入居していたと聞きます。

「シャワー効果」なんて言って一番上の方のフロアに書店を置き、そこを訪れたお客さんがシャワーのように階下のいろんなフロアを巡る。そんな消費行動が確立されていたため、シャワーの元となる書店はものすごく優遇されていて、中には家賃0円なんて書店さえあったと噂に聞きます。

ところが当然今はそんな時代じゃない。そもそもそういうのがなかったって家賃というのは建物が新しくなれば高くなるのは当然のこと。今の渋谷なら尚更です。跳ね上がった家賃とのところに再入居するというのはなかなか現実的ではないでしょう。

自分は東日本大震災の後しばらく大船渡に仮設で再建された商店街へボランティアに行っていたのですが、それなりに店が入ってなかなかの賑わいをみせていたその商店街は10年が経って国が新しい施設を作り、仮設の解体を決めたところで崩壊してしまいました。仮設のときはタダみたいな家賃だったのでみんな頑張れていたのですが、新しい施設はものすごく家賃が高く、とても入れたものじゃなかったのでみんな廃業するか他に行ってしまったと。寓話みたいですがよくある話です。百貨店に戻ってこれない書店もちょっと似ているかもしれません。

また、この家賃の話は地方の書店にも大きく問題となっています。書店とは日本の文化を支える存在。百貨店にとってはその施設の格を大きく高めるので優遇されていたという一面もあるのですが、地方の書店にとっても当然その地域の文化を支える存在でありました。

ですので、ここもやはり大きく家賃が優遇されていることがあったそうです。地方の大家さんにとって自分の物件に書店が入居しているのは誇らしいことであったようですし、我が町の文化を支えるというのは当然誇っていいことです。

ところが、しばらく前なのですがこういう話を聞いたことがあります。地方といえど大型都市でしかも割といい場所に出店していた書店が閉店するとき、どうして閉店になっちゃったんですか?経営は良いとはいえなくてもそこまで悪くなさそうでしたが…と聞くと、竹村さん、実はここだけの話なんですが、ここ大手のドラッグストアチェーンに狙われちゃいまして、とんでもなく高い家賃を提示された大家さんが、今まで相場に比べて格安の家賃で貸してきたけど、ごめん!この家賃提示されたらもう断れないわ……と頭を下げてきたそうです。

もちろんそれと同じとは言わずとも相場の家賃を払えばなんとかそのままいられたのかもしれませんが、それをしてしまうと、この先相場に合わせて毎年のように家賃が上がっていってしまうわけで、これはもう泣く泣く閉店するしかない、と。

というわけであまり触れられないですが書店不況のひとつの理由として家賃が大きくあります。いまだに元気に営業している書店には家賃なしの自社物件も多いんじゃないでしょうか。自分の家でやってる飲食店と同じ構造ですね。

そう考えると、食べログやgoogle map、Instagramの普及で飲食店が2F以上や裏道の物件でもわざわざ探してきてもらえるようになったみたく、書店も家賃の安い場所を探して営業するようなスタイルになっていくのでしょうか。実際にこだわった在庫構成でそういうビジネスをする新刊書店や古本屋さんも増えています。そして渋谷や新宿から随分書店が減りましたが、駅前の商業ビルじゃなくても戻ってきてくれるといいですね。新宿のブックファーストさんなんてちょっと駅から遠目ですけどめっちゃ頑張ってていつも混んでます。

今回は大型書店にとっても小型書店にとっても利益率を大きく左右する「家賃」の話でした。それではまた。




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