水産業の経済事情(SDGs14.b　その4)

2019年の初セリで出てきたクロマグロ。そのサイズは278㎏、3億3360万円の値段が付きました。1ネタ8.7g（※１）とすると31954貫。1貫あたり１万440円にもなります。しかもこれはネタの原価だけの話で職人さんの調理代、シャリ代などは含まれません。魚は世界的に人気の商品です。その成長ぶりは右肩上がり、まさにうなぎ上りといったところです。そうかんがえると漁師はさぞかし儲かっているんだろうなと思われるかもしれませんが、そうでもありません。2019年の漁師の平均年収は234.8万円（※２）。年間100万の収益しかもらえない漁師もいます。ほとんどが年金や補助金で何とかつないでいるのが現状です。朝早く起きて、いるかいないかわからない魚を追い求め、バケツ一杯のイワシを取ったとしても100円にも満たない状況を見ると若者が根付かないのもわかる気がします。ではなぜ利益にならないのかみていきましょう。

よく挙げられるのは水産業の構造です。生産者である漁師は獲ってきた魚を港でおろします。いわゆる「水揚げ」です。水揚げされた魚は売りやすい単位にして発泡スチロールなどの箱に詰められて、セリと呼ばれるオークションが始まります。このセリではセリ人という人が取り仕切って、このセリに参加できる特別な権利を持っている買い手に売ります。この買い手のことを仲買人と言います。見事セリで高値をつた仲買人は商品を受け取り、発注元の買出人に引き渡したり、自分のお得意先に売ったりします。

名護漁業協同組合オフィシャルサイト　魚市場とは
http://jf-nago.jp/%E3%82%BB%E3%83%AA%E5%B8%82%E5%A0%B4/

そうした4～8人ほどの間に入った結果、食卓に並ぶわけです。間に人が入ってるということはその分コストがかかるので、お店にサンマが1匹100円だからと言ってすべて漁師の売上ではないのです。漁師がもらえるお金は店頭価格の30％くらいと言われています。（※３）バケツ１杯のサンマを取ったとしても100円にもならないときもあります。

確かに漁業を含めた水産業には中間業者が多いのは確かです。でもこの中間業者の人たちはちゃんと必要だから仕事として存在しているのです。漁業は自然の生物と戦って獲得する、この地球上で唯一残された狩猟活動です。いわば人間と自然とが真正面からぶつかり合い、自然と直接知恵比べができる最後の戦いなわけです。相手はあのすばしっこい魚たち。大漁になるか不漁となるかはどんなに経験を持つ漁師でも読み切れるものではないのです。計画的に魚が獲れるのであれば、いいのですがそうはいかないのです。そこでどんなに魚がいても売りさばくコネクションを持つ仲買人や値段をうまくコントロールしてを売りさばいてくれるセリ人がいるからこそ漁師は安心して魚を獲ってこれるのです。

中間業者が必要だといっても、魚の値段がなかなか上がらないのはなぜなのでしょうか？それは魚が群れで動く習性を持っていることも関係しています。通常の商売ではレアなものほど高く、日常よく使うものは安くなるようになっています。そのため数を限定して販売したり、その商品が手に入らなくなったときに売ることで金額をはねあげることができたりします。魚は同じ場所からほとんど動かない定置魚と季節によって場所を変える回遊魚がいます。この回遊魚が季節によって日本で獲れたり獲れなかったりので「旬」が生まれるわけです。でもこの旬の魚、獲れるときはいっぺんに獲れて、取れなくなったら全くいなくなるわけです。大漁になるときは周りでも大量に出回ってしまうので価格は安くなってしまい、価格が上がってくるともうその魚がいないという状況になってしまうのです。さらに無秩序に好き勝手に魚を捕る、海を知らない新参者の外国の漁船が増えたことも悪化を助長させています。どこからまぎれたのかわからない密漁や闇の漁業補助金によって桁違いに安い魚が市場に出回ることで、値下げ競争に歯止めがかからない状況になっているのです。そしてこの外国の安い魚を実現させているのが、漁業の強制労働なのです。

※１、1ネタあたりのグラムスシローとくら寿司　「価格帯」と「シャリ」から見えた戦略の“決定的”な違いとは
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/31/news013_4.html
※２、農林水産省　「令和２年漁業経営統計調査結果」2019年漁船漁業個人経営体の漁労所得。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/gyokei/attach/pdf/index-2.pdf
※３、農林水産総計　食品流通段階別価格形成調査
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/syokuhin_kakaku/attach/pdf/index-4.pdf