文化

 レシピに忠実であろうとする彼がとても可愛い。鮭とほうれん草のクリームパスタを作ろうとして、レシピにあった「鮭200g」にできるだけ近づけるために、スーパーの鮮魚コーナーでお魚のパックとにらめっこする。189g……まあいいか、許してやろう。と、そんな調子なのだ。

 大さじ小さじや計量カップなどなど、これまで目分量で生きてきた私が必要としなかったものたちを購入したのはもちろんここ数ヶ月のお話。彼の言う通りにしてきちんと量るようになると、なんと、お料理がとても楽しくなった。理由は多分、美味しく作れるようになったから。なんて単純、でも真理。

 細かくて丁寧な彼に、私はとても感謝している。出会わなかったら知らなかったはずの素敵な世界に、今生きている気がするからだ、なんとなく。コレが私だなんて決めつけずに、たとえばちょっとしたアドバイスでトイレットペーパーをダブルからシングルに変えてみるような、選択肢を全部体験してみてから決めるくらいの、心の余裕を持てるのは幸せなことだと思う。

 私の尊敬しているとある脚本家さんは、昔の音楽を聴けないらしい。理由は、過去が好きじゃないから。新しい音楽をたくさん取り入れて、自分の文化を止めない。昔は良かったなんて言わない。その話を聞いて、流行り物に食いつく人をミーハーだと言ってどこかそれを馬鹿にしていた頃の私は、文化を自らとどめて広い世界を見ようとしなかったのだと気づいた。全部試してみないとわからないのに、知ったふりをするのはもうやめようと思えたのは、その脚本家さんのおかげだ。全部知らないと本質なんて見えない。

 付き合っていると、他の人よりもずっと真っ直ぐその人のことを見つめることが多い。誰も知らない内面が垣間見える瞬間もある。そしてたまに、その人のことを全部知っているんじゃないかと錯覚することさえある。だめだなあ。そんなことに満足を覚えようとするのではなく、もっと知りたい、もっと知ってほしいの気持ちを止めずに、これからも、とそんなことを願い続けるほうがずっと素敵。

 何が言いたいか。だいすきな人の存在は、やっぱり最高なのだ。文化がとまらない日々が愛おしいのだ。

 ちなみに私は、トイレットペーパー、元ダブル派の現シングル派です。


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