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くそみたいな中1

祖父母の体を駆け巡る旅行好きの血は意気揚々と母をスキップし、容赦無く孫の私に引き継がれた。インドアな両親に育てられ、休日は自分の部屋にこもってタスクを完了したい私であるが、旅行は別物である。
特段、1人で行く旅を愛している。
というか、最近愛し始めたところなのでどうかアイツはにわか旅行好きだと指差して笑ってください。


まだまだ私は、その魅力を知り始めた段階に他ならない。


文法なら知っているが喋れはしない典型的な日本人である。英語の話だ。
中学生になったとき、知っている人がだれもいない学校へ入学したことをきっかけに何かスタートしてみようかなと思ってバスケ部と吹奏楽部の体験入部をしてみた。


1日目に行ったバスケ部は、体育館のステージ前と後ろの入り口に置かれた赤いコーンの間を何度も全力疾走する先輩の顔によったシワを見て、今自分がさせられているかったるい筋トレは建前に違いないと察して入部するのをやめた。汗かいて前髪崩れたらどのタイミングでアイロンしたらいいんだろうとか考えていた。普通に土日に部活があると知って衝撃を受けたのも事実である。
甘っちょろい考えの私は体験筋トレの途中から入部する気は一切なくなって気が緩み、2年生の先輩の前髪があまりにも短すぎたので「それ、美容室で失敗されたんですか・・?」と聞いてしまった。人生のやらかし発言のひとつである。普通に気になっただけなのに、日本語って難しい。


2日目に行った吹奏楽部は、顧問の先生が意地悪そうなおばさんだったので続けていくのは難しいだろうと決めつけてやめた。
いや、本当の理由は、私と同じように体験入部にきていた同級生たちがあまり自分と気が合わなそうだったからだ。
あの頃の私は、髪質やメガネの度数や靴下の丈で人間の価値を決めつける最低な奴に他ならなかった。
吹奏楽部に入部するこの子達は、好きな男の子を花火デートに誘ったりしないんだろうな。大学卒業して初めてできた地味な彼氏と結婚してなんとなく子供産んで、食器を全部プラスチック製に買い替えてファミリー用のでっかい車のローン組むんだろうな。


私の、それはそれはちいちゃい世界で判断するこの世は、凍ったルッキズムが一度全てドロドロに溶けて埃を含んでいつの間にか変な形に固まってしまった、不純物だらけのそれそのものだった。


思春期全開のかったるさマックス我が結局入部したのは英会話部だった。自分でも意外だったが、決め手は週2の鬼ゆる部だったことと、仲良くしてもらっていた超可愛い女の子もそこに入ると言ったから。なんか帰宅部はダサいけど毎日全力で汗拭くのもだるいし、週2で字幕の映画見たりクリスマスハロウィンのお菓子パーティーしたりでALTのカナダのおじさんと仲良くなれるのはお得じゃん?と思って入部した。

私はこの部活で初めて、意識して人をいじめたことがある。また別の投稿に書こうと思う。


そんなこんなで英会話には少し触れていたこともあり、正しい発音がどうだとかを思春期なりにほんの少しは学んだ、つもりだ。


でも、恥ずかしかった。

英語の時間に教室で英文を音読しなければならないタイミングで、例えば「ウォーター」を「ワタ」と発音すること。きっと先生は褒めてくれるだろうが、そんな英語習いたてのガキが知った顔して良さげな発音したらクラスメイトに冷ややかな目で見られるに違いない。
そう思って、人前で凝った発音を一切できなかった13歳の私は、23歳の私の中にもまだ生きている。


だから、1人旅が好きなのである。


ここまで読んでこいつさぞかし自分の英語の発音が上手いと思い込んでいるなと考えた方に謝りたい。

マジでそんなことはない。
ちゃんと下手くそである。

所詮平成終期の学校教育を受けただけの人間。大して努力もしてこなかったので私の英語力は乏しい。


でも、1人だと、私は出川になれるのである。

見られて恥ずかしい聞かれて恥ずかしいとか一切合切全部デリートして、私は出川になれる。現地の人と魂で会話できるのである、1人なら。
ここなら鬼の巻き舌で発音しても誰も目を丸くしないし、ワタと言って水を買うことができる。通じなかったらPapagoでどうにかすればいいし、何か親切なことをしてもらったらセンキューのthankとyouの間を少し開けてかっこよくお礼が言える。エクスキューズミーじゃなくて、試しにイクスキューズミと言ってみることもできる。

それが、とてつもなく楽しいのだ。


13歳のちいちゃい世界は確実に今の私の一部であって全部である。
あのとき何にも考えず、教室で皆の前で巻き舌したりthって言ってみたりしてたら私はもっと違う大人になれていたのだろうか。クラス公認の秀才Iくんは帰国子女だったのでthで発音しても当たり前のように受け入れられていて、私も海外生まれがよかったというよりも「帰国子女」の称号が欲しいと心底思っていた。本当しょうもない。


この年齢になって異国の地でひとり自分を爆発させることにハマっているのは中学生の頃の反動に違いない。あの頃素直に育った私の同級生たちは今何をしてストレス発散しているのだろう。というか、私のじいちゃんとばあちゃんはどうしてあんなにも旅行好きなのだろう。戦争中、死と隣り合わせで生まれた2人に、ルッキズムも拗らせた思春期もないだろうに。









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