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【怖い話】旅館での体験

だいぶ昔の話だが、当時仲の良かった友人と、奮発して高級旅館へ1泊したことがあった。そこは古くからある旅館のようで、内装はしているが木の温もりを感じるような風呂付きの部屋だった。私たちが泊まった部屋は広く、寝室は別になっており、食事も部屋食になっていた。外観はとても伝統のある素敵な旅館だったが、私は中に入った瞬間何か違和感を感じていた。

「さっきは凄かったよね〜!」

友人が言った。実は旅館へ到着する前に立ち寄った喫茶店で、オーブだらけの写真を撮っていたのだった。私だけ撮ったのか、友人も撮れたのかは忘れてしまったが、店内の写真はオーブだらけで真っ白になっていた。その後に旅館へ来たので、ここでも撮れるんじゃないかと言われて、私は部屋のあちこちを撮影してみた。すると、ある場所にオーブがたくさん出ていた。

「うわ〜、ここでも撮れた!!」

当時はオーブが撮れたからそれがどうしたという感じで、あまり凄いことだとは思っていなかった。友人も気にしない性格で、ただただ面白がっていた。

部屋で食べた夕食に感激をしながら時間はあっという間に過ぎ、2人で語りながら部屋に付いていたお風呂や予約制のお風呂を堪能し、寝る時間になった。

寝室は部屋が別になっており、トイレと通路を挟んで反対側にあった。お酒もだいぶ入っていたので友人はすぐに寝たのだが、私は眠れなかった。なぜなら寝室の戸を挟んだ通路に嫌な気配がしたからだ。ずっと通路をウロウロしているような、何人もの足音が聞こえた。なぜか寝室には入ってこない。又は入ってこれない何かが置いてあるのか。

人はこんな時に限ってもよおしたくなる。でもすぐそこには霊がいる。私は漏れる手前まで我慢した。どうにか朝までもってくれないか。砂漠にいる自分を想像し体に染み渡るようなイメージもしてみた。しかし現実は変わらなかった。

「いってやろうじゃないの!!」

半透明で整った霊の姿が見える私でも、やはり霊は霊なのだ。この時期はまだ怖いという意識が強かった。私は意を決して戸を開けた。すると、霊はいなかった。なんだ、消えたのか。ホッとしながら私はトイレへ向かった。便座に座っていると、みるみるうちに息が詰まるような空気に変わった。当時は2月だったのだが、さらに寒い。

「ヤバい、見つかった!」

私は慌てた。霊の波長に合ってしまった。波長が合うとあちらからも私が見えてしまう。布団へ戻りたいがまだ戻れない。溜まりに溜まった膀胱は、止めどなく出ている。数人の視線を感じた。早く逃げないと。そう思いながら私は必死に思い出せるお経を唱えていた。

ようやく膀胱も落ち着き、浴衣を直した。寝室まではすぐそこなのだが、とてつもなく遠い気がする。戸さえ開ければ大丈夫、そう言い聞かせて私は目をつぶり戸の方へ体を向けた。

トイレのドアを開けると、更に空気が冷たく重かった。ここで目を開けたらいるんだろうなと思いつつ、目は閉じたまま記憶を辿った。その間、何かがまとわりつくような重さと、耳元に囁くような音を感じた。しかし寝室の戸に手が触れて開けたとたん、静けさが戻った。そこには友人のいびきが響いていた。

「あー、良かった。巻き込まれなかった。」

そして私はまた眠りについた。

次の日、友人に夜の出来事を話した。友人は何も感じず、よく眠れたようだった。そんな会話を笑いながら話し、髪を乾かそうと洗面台へ行った。するとそこには40〜50代のグレーのスーツを着たおじさんが私を横からガン見していた。半透明で無気力、無表情な顔。まさにそれは幽霊だ。昨日ウロウロしていたのはこの人かもしれない。なぜ朝から出てくるんだ、幽霊は夜中に出るんじゃないかと、ドライヤーで乾かしている間、ガン見するおじさんにイライラしながら、私もガン見した。

この頃からだろうか、幽霊にだんだん説教をするようになったのは。ずっと怖いと思っていた感覚が怒りに変わったのは。言葉は聞こえないが無表情で訴えてくる彼らを、私は怖いと思っていたのだが、よくよく考えてみたらなぜ怯えなければいけないのかと気付いた日でもあった。そうやって人は強くなるのかもしれない。皆さんも幽霊に出くわしたら逆ギレしてみると案外いなくなるかもしれないので、是非やってみてほしい。


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