オオカミは想いを馳せる 2
健康診断の結果を受けての再検査で、余命半年と知らされたの1ヶ月前のことだ。
細菌性髄液衰退症のグレード4。
それはほぼ「死刑宣告」であり、どうあがいてみても現在の医療技術では手の施しようが無い状態なのだった。
悪あがきをするように、ネットで調べた有名病院を片っ端から受診してみたものの、やはりくだされる結果はどこも
か同じだった。
両親を早くに亡くし、遠縁の顔も見たことの無い親戚しかいない自分には頼る身内もいなかった。
会社は早々に辞め、もはやヤケ酒に近い形で連日連夜飲み歩いた。
絶望的なこの状況の中、「老後のため」に貯めておいた貯金を使い切って、遊び尽くして最期を迎えることがせめてもの楽しみだったのだ。
そんなある日、いつものように早い時間から居酒屋で一杯目のビールを飲んでいた時のことだ。
不意に見知らぬ番号から着信があった。
「もしもし?」
電話は、少し前に手当たり次第に受診した病院の中の一つからだった。
A大学附属病院。
電話の相手はそう名乗った。
ただし、その後に「先進医療研究開発部」という聞き慣れない部署名がついていた。
「どんな要件ですか?」
病院からの電話ということで、自分の中に小さな希望の光が輝き出したのを感じていた。
電話の相手の男は医療従事者というよりは、車のディーラーのような軽快で高い声のトーンで話し始めた。
「この度は、大変残念なことでございました。心中お察しいたします。私どもの病院としましてもこの度のご病気に対応できず誠に残念に思っております。」
形式ばった挨拶にもどかしさを感じ、少しイラつきながら言葉を返した。
「要件はなんですか?」
電話の相手は何が可笑しいのか少し笑った後、こう切り出した。
「実はですね、当病院では先進医療技術の開発に力を入れておりまして。お客様のように不治の病に冒されてしまった方々に対して、私どもの開発したまったく新しい医療技術をご提案させていただいております。」
「重篤なご病気にかかり、既存の医療技術からは見放された方々に対して、新しい角度から治療の可能性をご提案しております。」
「つまり?」
「ええ、かいつまんで申し上げますと、私どもの開発した新しい医療技術の試験をしてみませんか?というお話です。」
「それはどういうことですか?」
「ええ、つまりですね、私どもの開発した医療技術の試験体になってみませんか?というお話です。」
「患者」ではなく「お客様」という言い方に違和感を感じながら電話相手の話を聞くうちに、自分の中にかすかな希望と「やけっぱち」のどうにでもなれという感覚が湧き上がるのを感じていた。
続く
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