Nozomi Watanabe

Nozomi Watanabe

最近の記事

破壊神は眠ったままで

宇宙のはるか彼方。 7つの太陽が照りつけ、乾いた砂と鉄に覆われたジキシという惑星でそれは産まれた。 手にした者がひとたびそれを天高くかかげれば、空は雲に覆われ、嵐がふきすさび、雷鳴が轟く。 その絶対的な力を用いれば宇宙の支配者になることなど容易く、今までに沢山の者がそれを用いて宇宙を支配しようと試みた。 しかしその有り余る力は決して1人の者に操れるはずもなく、ある者は手にした瞬間に命を失い、またある者は自らの力によってその身を滅した。 それは、一見何の変哲も無い棒だ

    • セカンドキャリア

      まさか私がテレビに出る存在になるなんて思いもしませんでしたよ。私みたいな普通のサラリーマンが人気者の有名人になるなんて。 ちょっと私の自己紹介をさせてもらいます。 長野の田舎で育ち、大学進学で上京し、卒業後は東京のメーカーに就職しました。 妻とは友達の紹介で知り合って、1年交際した後結婚しました。 子どもは2人。長男と長女です。親バカと言われるかもしれませんが、2人ともなかなか容姿端麗、頭脳明晰で出来が良い子ども達だと思います。 ごく普通に日々を送って、それなりに幸

      • オオカミは想いを馳せる エピローグ

        二匹の白い毛をしたオオカミが、街を一望できる山の中腹から「下界」を眺めている。 年老いたオオカミが、若いオオカミに話しかけた。 「お前は、人間の頭脳は素晴らしいものだと言ったな。」 「ええ。あの優れた頭脳があったからこそ、人間はここまで文明を進化させることができたのですから。」 年老いたオオカミは黙って若いオオカミの顔を見つめると、話を続けた。 「人間の頭脳など、たいしたことはない。先入観や、短絡的な考え、楽観的観測等によって脳など簡単に騙される。一見思慮深く、長い

        • オオカミは想いを馳せる 5

          すっかりオオカミになってしまった姿を見て、榊は目を丸くした。 あまりの驚きに声も出ないといった様子でこちらを見たまま固まっている。 部屋の中には巨大なオオカミと榊だけ。 今にも掴みかからんばかりのこちらの様子に怯えたのか、榊は一・二歩後ずさりした。 それを見て、怒りの言葉が出るよりも先に榊に飛びかかった。 ガシャンという激しい音を立てて、近くの机の上のペン立てや書類が床に落ち、それと同時に榊は床に倒れた。 その上に馬乗りになり、鋭い犬歯が生えた口を榊に向けて開く。

        破壊神は眠ったままで

          オオカミは想いを馳せる 4

          抗体を注射されてから最初の1週間、体調にこれといった変化は無かった。特に調子が良くなるわけでもなく、副作用が現れるわけでもなく、変化の無い日々が続いた。 しかし、10日が過ぎる辺りから体調は少しずつ快方に向かっていった。処方される1日3回服用の薬を飲まずとも、意識の混濁やその他の症状が発症することが少なくなり、最終的にはまったくなくなった。 A大学附属病院での定期検診の際にも、細菌の減少と髄液の増加が確認され、担当医は驚きを隠せないといった様子だった。(榊から担当医に抗体

          オオカミは想いを馳せる 4

          オオカミは想いを馳せる 3

          「この度は私どもの試験にご協力いただきまして、誠にありがとうございます。私は担当させていただきます榊(さかき)と申します。」 40代後半とおぼしき榊は、医療従事者というよりはコテコテの営業マンのような男だった。 短髪に色黒の肌、背はそこまで高くない。 髪はあきらかにワックスをつけすぎていて、それがテカテカと光っている。 一体どういうセンスならそれを選ぶのか?というデザインのゴツい腕時計、そして明らかに年齢には不釣り合いの若者向けデザインの紺色の細身のスーツを身にまとっ

          オオカミは想いを馳せる 3

          オオカミは想いを馳せる 2

          健康診断の結果を受けての再検査で、余命半年と知らされたの1ヶ月前のことだ。 細菌性髄液衰退症のグレード4。 それはほぼ「死刑宣告」であり、どうあがいてみても現在の医療技術では手の施しようが無い状態なのだった。 悪あがきをするように、ネットで調べた有名病院を片っ端から受診してみたものの、やはりくだされる結果はどこも か同じだった。 両親を早くに亡くし、遠縁の顔も見たことの無い親戚しかいない自分には頼る身内もいなかった。 会社は早々に辞め、もはやヤケ酒に近い形で連日連夜

          オオカミは想いを馳せる 2

          オオカミは想いを馳せる 1

          二匹の白い毛をしたオオカミが、街を一望できる山の中腹から「下界」を眺めている。 若いオオカミが、年老いたオオカミに話しかけた。 「人間というのは本当に頭の良い生きものですね。」 「その頭の良さを用いて様々なものを作り出し、自分たちの思うままに世界を創造しているように思えます。例えば、僕たちはいまだに山の洞穴や、木の陰、林の中の窪みなんかをねぐらにして生きているけど、人間は家を建てて快適に暮らしています。僕たちオオカミには、いまだにその技術・知識すらありません。」 年老

          オオカミは想いを馳せる 1

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言 その4

          「人気がでると、オナラの音が入っただけのCDでも売れるようになる。」 by アップサイドダウン峰藤(日本のパンクロックバンド「ザ・マッスル・ホイッスル」のボーカル) 1980年代後半に荒々しい演奏とひねくれたメロディーでヒット曲を連発したザ・マッスル・ホイッスル。 パンクロックなのに「売れて」しまったため、それに困惑したボーカルの峰藤がその葛藤を言葉にしたもの。 ザ・マッスル・ホイッスルの代表曲は、「You can’t stop you」、「斧をトマホークと言うとかっ

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言 その4

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言 その3

          「お札なんて使わなければティッシュと一緒だ。」 by マイケル・イーストエンド(アメリカの経済学者) いつの時代もお金は私たちにとって無くてはならないものだが、時にそれは私たちを支配する。 1970年にマイケル・イーストエンドが残したこの言葉には、そんなお金(お札)に対しての痛烈な皮肉が込められている。 イーストエンドにまつわるエピソードで面白いものが、実際に彼の財布のお札で鼻をかんだ友人に激怒したというものがある。

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言 その3

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言集 その2

          「人間なんて誰でも屈折しているものです。人によってその屈折の具合いが多少違うだけなのです。」 by フランケン・シュバイツァー(ドイツの物理学者) 「超光化学熱伝導論」で有名なフランケン・シュバイツァー。 1923年、ドイツのアルンハイデ大学で行われた講演会にての言葉。 自らの研究分野を人間に重ね合わせた、いかにも彼らしい名言だ。 シュバイツァーは生涯を通してソーセージしか食べなかったことで有名だが、一説によると隠れてよくウィンナーも食べていたとのこと。

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言集 その2

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言集 その1

          「僕らが起きている時に限らず、寝ている時も見れる唯一のもの。それが夢だよ。」 by エドワード・ワイズマン(イギリスの詩人) 知る人ぞ知る、イギリス近代文学詩のロマン派、エドワード・ワイズマンの言葉。 1917年、当時の恋人に「いつまでも夢を見てないで働いて欲しい‥」と言われた際に放った一言。その真意は不明だが、何やら胸に響くものがある。 ワイズマンの代表的な詩集は「鼻言葉はEYE」、「今日も昨日の晩ご飯と同じメニュー」、「硬い四角のやつ」などがある。

          誰が言ったか分からないありがたそうな名言集 その1

          いわし雲

          一時期の猛暑は過ぎて、空を見上げればいわし雲。 季節は少しずつ秋へ向かっているようだ。 いわし雲を見ると、いつもおばあちゃんを思い出す。 ひねくれ者で、愉快で、おしゃべりで、いたずら好きで、怖い話が大好きで、とても優しかったおばあちゃん。 「よくきたなぁ。まず、ゆっくりしてぃけぇ。」 遊びに行くといつもそう言って迎えてくれたおばあちゃん。 最近、「おばあちゃん」の声が聞こえたり、「おばあちゃん」の姿を目にしたりする。 歯磨きをしている時 信号待ちをしている時

          嗜好

          7階建てのビルの屋上。 危険防止の柵の向こう側に立ち、今にも飛び降りようとしている20代の女性がいる。 「何が原因なんだ?死ぬことはないだろう?」 藤沢は、そんな使い古された言葉しかかけることができない自分を滑稽に感じた。 真夏の営業。 汗だくになりながら、一軒一軒飛び込みで商品を提案する毎日。 そんなある日、営業先のビルの上に、今にも飛び降りようとしている女性を見つけたのだった。 考えるより先に体が動くとはこのことで、汗だくになって屋上まで階段を駆け上った。

          私が集めた怖い話 ②お母さんが来てくれる

          昔から怖い話が好きで、人から聞いたりネットで調べたりして収集しています。 私が収集した怖い話をお話していきます。 ②お母さんが来てくれるこれは、まだ年号が昭和の頃、地方の田舎であった話。 東北のとある県の田舎に、3人家族が住んでいた。 父親と母親と5歳の男の子の3人家族。 父親は朝早くから出かけて行き、夜遅く帰ってくる建設現場の仕事をしていた。 父親が働きに出ている間、母親と男の子は2人で父親の帰りを待っていた。2人の様子はとても仲良しで、近所の人も微笑ましく見守

          私が集めた怖い話 ②お母さんが来てくれる

          私が集めた怖い話 ①地元の友達の弟の話

          昔から怖い話が好きで、人から聞いたりネットで調べたりして収集しています。 私が収集した怖い話をお話していきます。 ①地元の友達の弟の話 私の地元の友達が実際に体験した話。 その夏、Yの家(実家住まい)に夜中に警察から電話があった。 なんでも、Yの弟が交通事故を起こしてしまい、事故現場に来てほしいとのこと。 Yと父親、母親の3人は急いで現場に向かった。 幸いYの弟はほとんど怪我が無く無事だった。 弟の車は対向車線にはみ出し、中央分離帯の垣根に突っ込んでしまってい

          私が集めた怖い話 ①地元の友達の弟の話