オオカミは想いを馳せる 4

抗体を注射されてから最初の1週間、体調にこれといった変化は無かった。特に調子が良くなるわけでもなく、副作用が現れるわけでもなく、変化の無い日々が続いた。

しかし、10日が過ぎる辺りから体調は少しずつ快方に向かっていった。処方される1日3回服用の薬を飲まずとも、意識の混濁やその他の症状が発症することが少なくなり、最終的にはまったくなくなった。

A大学附属病院での定期検診の際にも、細菌の減少と髄液の増加が確認され、担当医は驚きを隠せないといった様子だった。(榊から担当医に抗体注射のことは話さないように口止めされていたため、担当医は急激な回復にさぞかし驚いたことだろう。)

2週間を過ぎる頃には定期検診でグレード2の診断がくだされ、それは数字上でも病状が治っていっていることを示していた。

まるで「生きていける」ということの希望の光がいっぱいにさしたようで、いつもの帰り道すら素晴らしい景色に見えた。

これからどうやって生きていこうか?ということに思いを巡らせ、この先の未来を思い描く幸せに満ち溢れていた。

心配していた副作用は、ほとんど無かった。

嗅覚が敏感になるということは無かったし、体毛が濃くなるということもほとんど無いように感じた。

その他、自分で想像していたような「オオカミになる」というような現象は無かった。

一安心し、これからの生き方を本格的に模索し始めた頃、体中を強烈な痛みが襲った。

それは体の中の骨が軋むような激痛で、ベッドから起きられないほどだった。

関節の節々が軋み、顔が熱い。

体中を突き刺さすようなチクチクとしたような痛みが襲う。

救急車を呼ぼうにも、指一本動かせないような状態で、声すら出せずに丸2日ベッドで苦しみ抜いた。

痛みに気絶し、目を覚ましたその時、目に飛び込んできたのは真っ白な体毛に覆われた肌と、明らかに変形してしまった手足、そしてそれはまるでオオカミのそれだった。

かろうじて2つの足で歩くことはできるものの、四つん這いで歩く方が楽だと本能的に理解していた。

どこからどう見ても、真っ白い巨大なオオカミ。

不思議なもので、あまりにも常識から逸脱したことが自分に起こりすぎていて、逆に状況を冷静に受け入れることができた。

ただその一方で、自分をこんな姿にした榊に対して強い怒りが沸き上がってきた。

姿が分からないように長袖・長ズボンの服装に手袋、顔にはマスクとサングラスと帽子といった「いかにも怪しい姿」に変装し、ふらつく足取りでA大学附属病院へと向かった。

続く

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