決して届かない恋文
今も何処かで生きる君へ
また、肌寒い季節になってきたね。
春の終わり頃の穏やかな風を感じさせる君になら、かつての私は上手く自分の事を話せていたような気がする。
そんな君に「好きだと言われた人を好きになる」と言われても、私は最後まで君に自分の気持ちを伝えることができなかった。
そうこうしているうちに、君に好きだと言う人が現れて、君はどこか遠くに行ってしまった。
あまり人を好きにならない私だけど、君のことは本当に好きだったのだろうと今なら言えるかもね。そしていつだって、私が好きになる人は私を好きにならない。
私は好きになった人と、早く終わることを願い続けるようなしょうもないセックスをして、挙げ句金をせびられ、連絡を断つみたいなくだらない恋愛ばかりで、過去のこととはいえ、セックスも乞食もなかった君の事をふと思い出して泣きそうになった。
そんな、くだらない遊びをしてきた人たちも数年後にはちゃんとした恋愛をして、一丁前に結婚して、家族を作っていて、そんな人並みの幸福の最中にいる。私はというと、どうも彼らの中から完全にいなかったことになってる。
人の心は移ろうものだから、それはそれでいいとは思うんだけど、せめて君くらいみんな誠実に、私を人間扱いしてくれたらよかったのに、なんてたまに思う。
とりあえずは、君にの誠実さに免じて総ての最悪な失恋を赦そうと思うけれど。
君もきっと彼らと同じように今はどこかで知らない人と幸せな明日を夢見て生きているのかな。
もし、あの時君と少しでも心が交わせていたら、なんてありえない想像をして、なんとか明日を生きてみる。
それでも、心が駄目になりそうな時、君が一本だけくれたキツいミントの煙草を私は自分で買って時々たまに吸っている。全然好みじゃないけどね。君は彼女の為に禁煙成功したのかな。もうそれすらも知る術は無いし、知ったところで何も変わりはないけど。
今はまだ思い出せる過去も、きっといつかは頭の片隅からも消えてしまって、こうやって君に届くことのない手紙を書くこともなくなるのだと思うと切ない。
先に、人の心は移ろうものだって書いたけれど、変わらないものがあるとするなら、どんな些細なことでも、それが本物だったって思ってみたい。
でも結局、今を生きている君のことなんて私は全く知らないし、私の空想の中に生きている君が好きなんだと思う。
だから、たとえこのテキストが何かの弾みに君の目に止まったところで、それは君に宛てた手紙ではないから、見なかったことにしてほしいな、なんて思う。
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