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綺譚 眷属たる狼が継ぐ、失われた山神の伝説

日本の大都市・東京の西部には、奥深い森林地帯がある。
林業が盛んなこの土地で、現代の狼伝説があると聞いたら、どう思うだろうか。

そんな「現代の伝説」を語ってくれたのは、東京の山間部で林業を営む30代の男性である。
ここでは仮名として、三ツ谷崇(みつやたかし)と呼ぶことにしよう。

引退間近の父親から家業を引き継いだという三ツ谷は、同じ林業を営む30代・40代の若手事業者、あるいは地域にUターン・Iターンでやってきた若手とともに、林業をリニューアルして盛り上げる活動に着手している。

その活動自体も面白いが、何よりも彼の話で興味深いのは、狼の話であった。

異形とも言える狼は、通常の狼よりも一回り大きいのが特徴だった。
三ツ谷が山で荷積みをしているときにやってきた。

三ツ谷はこう語る。

「最初は山犬のでかいものかと思いました。しかし、どうも様子が違うな、と」

動物学者や狩人でなくても、さすがに自分が仕事場とする山の動物については、かなりの知識を持ち合わせている。
鋭い体つきは、やはり野犬のそれとは、だいぶ違う。
そのために狼だと目星がついた。

しかしそれ以上に目を引いたのは、全身灰色の胴体に、一筋の太くて白い線が入っていることだった。
筆で一本線を描いたようなそれは、どうやらそこだけ体毛の色が違う。

「人に例えたら、オーラが違うとでも言うべきですかね。
 あ、狼だ、と気づいたら、目を合わせてきた感じがしたんです。
 すると、その瞬間、ぼくはびしっと動けなくなりました。
 分かりませんけど、ものすごい武道家に狙われた感覚じゃないですかね」

ただ、襲いかかってくるとか、そういった恐れは感じなかったという。
しばらくじっと見られた後、ある瞬間から、狼から放たれていた雰囲気が急に変わった。
すると、狼は足音を立てることもなく、静かに向こう側に走り去っていった。

その日の夜からだった、と三ツ谷は言う。
夢の中に、その狼が現れるようになったのだ。

最初のうちは、狼のその姿を見せるのみ。
しかし登場する回数を重ねていくと、その狼は今度は夢の中で、何かを語りかけるようになった。
判別はできないものの、どうやら助けを求めているらしい。

さすがに普通の夢ではないと分かり、三ツ谷は妻や自社の会長を務める父親に相談した。
妻は健康状態が問題だと思ったようだが、この土地の森の特性を知り尽くして長い父親は、違った反応を示した。
「それは、神社の宮司さんに相談するべきじゃないか」と。

「ああ、その狼、山神さんにおつきの精霊かもしれませんね。
 眷属(けんぞく)ですかね。おそらくね」

宮司の山根(やまね・仮名)は、三ツ谷の説明を聞くなり、そう言った。
要するに神様のお使いということになる。
なお山根家は代々、この神社の宮司を引き継いでいる。

伝承の話をかいつまむと、明治期よりも前、この神社は山神信仰の象徴だった。
むしろ昔は神社という形態をとっておらず、何かを神の象徴として扱っていたようだ。
しかし、明治政府が発令された神仏分離令(神道と仏教を混合した信仰形態を分離する命令)が引き金だった。
どうやら何かの問題を指摘され、この拠点が潰されそうになったところに、当時の宮司(山根の先祖)が、機転を利かせて神社として塗り替えることで生き延びた。

ではその信仰の象徴とは何か。
山根宮司は「山の働き全体を、人智を超えた知性とみなしていたようだね」と付け加える。

雨が降り、山の土に蓄積される。
そして山のてっぺんから水がしたたり落ちて河をなし、それが流れて人々に水を供給する。
水が滋養を与えて山菜や木の実が採れ、イノシシやシカ、キジなどの肉を供給してくれる。
田畑をつくれば、そこから穀物が生まれる。
生えて成長する木を使って家を作り、家具を作る。
集落で足りないものは木を加工して売る。
そうやって土地の人を生かしてくれている山の絶え間ない活動は、確かに人間の知恵を超えている。

狼を初めて見てから数週間が経過した、ある日のことである。
秋も深まり、山の空気には冷たい刺激も感じられるような時期だ。

ここ数日は夢を見る頻度が減っていた。
そんな折に、三ツ谷が森で作業をしていたところ、目の前に再び狼が現れた。
現れたというより、狼が現れるのが、事前に分かったというべきか。
「何となく今日は会う気がする」という感覚があったのだ。

その狼は明確に語りかけてきた気がした。
「こっちに来てくれ」と言わんばかりの態度だ。

ただ、そうは言っても相手は獣である。
こちらから危害を加えるつもりはないが、念のためナタを抱えて狼に近づいていく。

狼はこちらをたまに振り返りながら、森の間の小径を少しずつ進んでいった。
その様子は、まったくもって山道に詳しい専門家に見えた。

3,4メートルほどの距離を保ちながら、しばらく歩き続けた先にあったのは、朽ちた樫の木だった。

丈が2メートルくらいのところから上が折れていて、その大きな幹は横たえられたまま原型を留めないほどに崩壊していた。
それに対して根っこのほうはしばらく生命力を残していたようで、まだ樹の幹としての体裁を保っている。

狼はその木の根っこの脇で、まるで忠犬のごとく姿勢よく座っていた。
よくよく木の根っこを見てみると、そこには何か光るものがあった。
近づいて見てみると、それは湧き水だった。
不思議なことに、木の根っこの裂け目から、奇麗な湧き水が出ているのだ。

狼はこれを見せたかったのかと思った。

その後、狼は音もなく素早く駆け去っていった。

三ツ谷はその夜から、明晰な夢を見ることが増えていった。
「山が我々の神。我々が使えるべき神。水を育みこの土地にもたらす」
「でも今は下りてこられない」
「昔、森が破壊された。森が信仰の森であるためには、人が手入れをする必要がある。そうでなければ、信仰の森にはならない」
「森に手を入れる人が必要だ」
「森を作るそなたを見込んで託した」

三ツ谷は、枕元にメモを置き、夢を見るたびに、その内容を書き留めることにした。
山根宮司から、「夢見術」について書かれた書籍を借りたところ、そこに書かれていたノウハウである。

昔々、シャーマンと言われる人々は、夢から必要な情報を得て、それを原因不明の病気にかかった人の治療や部族の采配、例えば農作物の作付や雨乞い、隣の部族からの侵入をどう撃退するかといったことに生かしていたようなのだ。
さらに熟達すれば、夢の中で敵を倒してしまうことも可能らしい。
その場合、敵の側では、内部で混乱が起き、攻めに来られなくなるようだ。
まさに戦わずして勝つ、である。

ちなみに山根宮司は今でこそ子どもが二人いる初老の男だが、若き頃はバンドマン、その後40代半ばまでは音楽のプロデューサー業を営んでいたらしい。
「音楽のインスピレーションを夢から得たい」と思って、本の通りに一生懸命取り組んだ。
だが彼には合わなかったようで、結局、本棚の肥やしにしていたようだった。

三ツ谷はその記録を山根宮司に見せた。
彼と議論を重ねるうちに見えてきたのは、次のような仮説である。

おそらく神道や仏教が広まる以前、ここの土着の神は山そのものであった。
明治維新後の神仏分離政策をきっかけに、その土着の神を潰して信仰の軌跡でさえもなくしてしまおうという動きがあったようだ。
しかし、山根の先祖がこの信仰の拠点を神社と変えることで、生き延びることに成功した。

また、これは不思議な仮説だが、森は人が手を入れることで「進化」するものであり、人が適切に手を入れることでようやく森が維持され、その結果として山が神の依代(よりしろ)として機能する。
ただ、林業が盛んな土地とはいえ、1970年代以降は国内林業も海外産の隆盛や後継者不足により、苦境に立たされている。
そのため森が放置されがちになった。

こうした諸々の事情で、元々信仰されていた山の神の功徳が、この土地に下りにくくなった。
眷属である狼は、神の功徳がこの土地に行き渡ることを願っている。
狼はこの状況を懸念し、林業を営む若手の三ツ谷に近づいた――。
このようなものである。

「宮司ともいろいろ推測を重ねたんですけど、どうやら僕ら人間は不思議なもので、神に支えられているようでいて、神を支えてもいるようなんです」と三ツ谷は語る。

三ツ谷は山根宮司と議論をしながらこの仮説に行き着いたとき、林業という「ただの仕事」に、自分の深い生き方と目標を発見したようにも思ったのだという。

これまでの人生で、神のことなど考えもしなかったという。
ところが、眷属たる狼は、神を降ろすことを手伝える人間を探していた。
林業を営む三ツ谷が、ひょんな「事件」を通じて行き着いたのは、人も自然も、神とは決して縁遠いものではないという事実だった。

狼はいまでもたまに三ツ谷の前に現れる。
全身灰色の胴体に入った一筋の太くて白い線を何気なく見せ、そして音もなく去って行くのだという。

(了)

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