デビュー作が最高作となったオペラ作曲家たち⑤ 意外な大作曲家も実は・・・
今回ご紹介したのは“デビュー曲のほぼ一曲だけ”で名を残した作曲家たちです。たくさんの名曲を世に出した作曲家は当然最高傑作もある程度キャリアを重ねてから作曲しています。
でも私の主観ですが、ただ一人だけ、数多くの名曲を作曲しながら実はデビュー曲が最も素晴らしいのではないかと思える人がいるのです。
いきなり最高傑作を生みだしてしまった大作曲家
その人とはメンデルスゾーン(1809~1847)。ヴァイオリン協奏曲や結婚行進曲などで有名な作曲家です。
他にも数々の名曲を書いており、“一発屋”には程遠いイメージです。
勿体ぶらずに曲名を言いましょう。
その曲とは『夏の夜の夢』序曲(1826年)です。
早熟すぎる天才、メンデルスゾーン
なんとメンデルスゾーン17歳の時の作曲です。
ただし彼は大変早熟な人で、それまでにもたくさんの曲を作っていました。
ですがそのほとんどは、大変裕福な家庭であったメンデルスゾーン家のプライベートな場で発表されたものでした。
この曲も元々は姉と並んでピアノを弾く連弾用に作曲されましたが、その出来があまりに素晴らしかったのでオーケストラ曲に作り直されたものです。
ちなみに1826年はまだベートーヴェンが生きている年で、ほんの2年前に有名な第九交響曲が初演されたばかりでした。
またドイツ・ロマン派オペラを確立した作曲家ウェーバーが早世した年でもあります。音楽の歴史はまさに古典派からロマン派への過渡期真っ最中だったのです。
そんな時代に若き天才メンデルスゾーンは時代を先取りしたロマンチックすぎる曲をデビュー早々に作ってしまったのです。
この時代に、この年齢で、この表現!!
『夏の夜の夢』とはシェイクスピアの書いた劇の名前です。
物語のあらすじを説明すると長くなるのでこちらを参照してください。
妖精の王と王妃の夫婦喧嘩に、人間のカップル2組、君主や職人たちが入り混じって、森の中での不思議な一夜が繰り広げられます。
“序曲”と言うからにはオペラ化したのかと思いきや、これは“演奏会用序曲”と言われるもので、何らかの情景やイメージを単体の曲として作ったものです。
メンデルスゾーンは『夏の夜の夢』の物語をこの一曲に表しました。
夏至の日の静かな夜のムード、妖精たちの壮麗な世界、妖精のいたずらから職人の一人がロバに変えられた時のいななきの声などが生き生きと描写されています。
しかもそのメロディの素晴らしいこと!
この幻想的で音色の豊かな曲がまだベートーヴェンが生きている時代に作られたとは信じられません。しかも17歳の少年の手で!!
神様に愛された作曲家は言うまでもなくモーツァルトでしたが、メンデルスゾーンも神様から霊感を授かったのでしょうか?
彼はこの後も名曲を連発していきますが、38歳という若さで亡くなってしまいます。ですが私はモーツァルトの時のような残念さはあまり感じません。
彼の最高作は既に17歳で作曲していたのですから。
序曲以外は後年作曲。バレエも20世紀に作られる。
実はこの曲の17年後に彼は劇中のいくつかの場面に音楽を付けていて、それらを組曲として演奏されることも多いです。有名な『結婚行進曲』もこの中の一曲です。
またそれらの曲と、彼の他の曲も使って演じられるバレエもよく上演されています。
最後にこのバレエの映像で序曲を聴いてみましょう。
妖精たちの姿がいかに生き生きと音楽で表現されているかがわかると思います。
この作品のいろんな動画の中でも最も美しい妖精の王(ロベルト・ボッレ)と王妃(アレッサンドラ・フェリ)でどうぞ。
『デビュー作が最高作になったオペラ作曲家たち』5回シリーズは以上です。
他の回を見ていない方はぜひ下記リンクから読んでみてくださいね。