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あなたの仕事を通して「誰が、なぜ喜ぶのか」

「アスクル」は今もよく利用されているのでしょうか?オフィス用品、事務用品、文具などを取り扱い、主に法人向けにサービスを展開している企業。社会人一年目のころ、アスクルの便利さに驚いたことを覚えています。名称の由来は「明日来る」 必要な備品が「明日必ず届く」サービスです。

アスクル登場以前、事務職員もしくは総務担当者にとって備品購入はひとつの、ちょっと骨の折れる仕事でした。社員から頼まれる、例えば文具だけならまだしも、書類を整理するファイルなどは数が増えるとかさばるし重さもバカになりません。メモを片手に買い物に出かけるときの憂鬱、重たい袋を持って会社に戻り、階段をあがる苦労。買い物を依頼する社員の後ろめたい気持ち。

そんなリアルな現場をイメージして、事務職員の「課題」を洞察して事業戦略をたて、独自の価値を深いレベルで顧客に理解させることにアスクルは成功したんだと思います。顧客の心をつかむリレーションがファンとリピーターを増やし、さらに口コミで新規顧客を増やすという好循環です。

本質的な顧客価値を突き詰めるとは「誰が、なぜ喜ぶのか」をリアルにイメージすること。そしてそのイメージが「コンセプト」となり、顧客に提供する価値の定義になります。優れたコンセプトが筋の良いストーリーを駆動し、売上につながる。安売りしたり、押し売りしたりせずとも、アスクルの世界観(コンセプト)が言葉や画像、映像を通して顧客に浸透し、売れていきます。

ビジネスはすべてコンセプトから始まります。コンセプトをないがしろにしたままストーリーを描くのは至難の業。描けたとしてもそれは砂上の楼閣です。すべてはコンセプトから、つまり「すべてはコンセプトのため」と言っていいでしょう。

既述のとおり「誰が、なぜ喜ぶのか」をイメージすれば必然的に、「誰を相手にしないか」も規定されます。全員に愛される必要はありません。この覚悟がコンセプトを考える上での大原則。「誰に嫌われるか」をはっきりさせることは、コンセプトの構想、設計にとってとても大切なことです。

人はなぜ喜び、楽しみ、おもしろがり、嫌がり、悲しみ、怒るのか。何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないのか。

ストーリーとしての競争戦略」にはこう記載されていました。切れば血がでる。そんな生身の人間の動きや気持ちを捉えるもの。人間の変わらない本性を捉えたコンセプトが事業、ビジネス、経営の肝になります。

また、こうしてまとめていくと、顧客のニーズをもれなくだぶりなく拾い上げられなければコンセプトは出てこない、といった印象を与えるかもしれません。そしてそれは間違いではないのですが、間違いでもあります。Apple社は、顧客調査やアンケートを実施しないことで有名です。顧客のニーズは置いておいて「俺はこれをやる」という責任感が伝わってきます。そもそも私たち消費者は、「買うこと」や「自分のこと」で頭がいっぱい。つまり責任を持たない私のような消費者が言うことに、企業が過剰な期待を寄せるのはちょっと危険ということですね。

「スタバ」の「第三の場所」というコンセプトは、お客さんの声や言葉から見つかったコンセプトではありません。アンケートで知れるのは、「もっとこんな味を」「あんなメニューはないの?」「もうちょっと安くしてほしい」「充電はできる?」といったことくらいではないでしょうか。声を寄せ集めてもコンセプトにはなりえず、答えは結局、お店を経営する人たちの頭の中にしかありません。

アスクルも同じです。クローズアップされるのは総務担当者の課題。確かにしんどい仕事だけど「そういうもの」として処理し、さして疑問に思わなのが事務職員の一般的な姿だと思います。つまり「アスクル」というコンセプトは、「誰が、なぜ喜ぶのか」を軸に考え出された売り手の責任が反映された言葉であり、顧客に聞いて出てきた言葉ではないということです。

ひるがえってスポーツビジネス。往々にして「誰が、なぜ喜ぶのか」を競技に依存しがち。もちろん競技性の魅力が人々を興奮させ、購買につながることは否定しません。ですが「今のところスポーツに興味がない人たち」を振り向かせ、スタジアムに誘導する理由(誰が、なぜ喜ぶのか)は競技ではない何かに求めざるを得ません。さもなくばファンが小規模で固定化し、排他性と高年齢化を招いてしまう。「スポーツファンにチケットを売り、リピーターになってもらうのが仕事」という視野狭窄から抜け出すことができません。

なかなかまとまりませんが、要は仕事を通じて何がやりたいのか?これが「誰が、なぜ喜ぶのか」につながるような言葉を探し当てることがまずは重要ではないかということです。長くなりすぎたのでとりあえず今日はこの辺で。

久保大輔




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