人間は総体、心と身体は一致している
「健全なる精神は、健全なる身体に宿る」
かつて小学校や中学校時代に教科書か、校長先生の朝礼で聞いたか。出どころは記憶が定かではありませんが、とにかく馴染みある文章です。定期テストや受験勉強でも「体力がなければ勉強できない」なんて親から言われていた覚えもあります。
「脳を鍛えるには運動しかない!」では、運動をするのは脳を育ててよい状態に保つためである、と冒頭に記されています。運動をすると脳に入ってくる刺激がニューロンの結合を強めることが科学的に証明されていて、授業が始まる前の朝、長距離走を実施した学校では生徒の成績が向上したという報告もあります。
無極大陸での話。極地では長い間テントを張って、風、雪、氷の嵐が通り過ぎるのをじっと待たなければいけないときがあります。そんなとき、辛抱強く、最後まで自分を見失わずに耐え抜けられるのは頑強な体を持ったたくましい人、ではありません。
生きるので精一杯。そんなとき人間はどうしても、体裁をかまうことをしなくなります。身だしなみ、ひげ、髪の毛、おはよう、いただきますといったあいさつ。極限状態でこれらの行為は劣後します。生きるのが優先されるのは必然。私なんかは絶対にそっちのタイプの人間です。
ですが、ほんのわずかな水で顔を洗い、髪やひげを整える。「おはよう」「ありがとう」と礼儀正しく人と接する。こういう社会的マナーを身につけた人が意外にしぶとく、厳しい環境下で最後まで弱音を吐かず、したたかに耐え抜くことができるそうです。
「夜と霧」は、ナチスドイツの、ユダヤ人に対する残虐な殺戮、その地獄から奇跡の生還を果たしたフランクルという著者が残した記録。アウシュヴィッツでの極限状態で彼が心がけたのは「感動すること、喜怒哀楽といった人間的な感情を大切にすること」でした。何か毎日、ひとつずつおもしろい話、ユーモラスな話を作ってお互いに披露しあって笑おうと。乾きつつある心にみずみずしい感受性を取り戻すことが、人間の魂を支えるために重要な役割を果たすというエピソードです。
心と体は一致している。このような研究や歴史的事実に触れると、そんな感想を持たずにはおれません。絶えずストレスに悩まされている人の歯はよくないと言われています。人間の体には、ホメオスタシスという「バランス」を回復していこうとする自然の摂理が働いています。人間は総体。健全なる精神は、健全なる身体に宿るのです。
ひるがえって私はというと、ワクチンを接種したことで身体に倦怠感を覚えたときのことを思い出しました。身体にウイルスを投与する、つまり健全な身体を弱らせることで、メンタルまでもおかしく。3日間ほど仕事に手がつかず、大好きな読書にもまったく集中できない事態に陥りました。心と体は一致している。人間は総体であることを実感した瞬間でした。
仕事や人間関係でストレスを感じたら、無理せず、自分を認めてあげて、たまにはゆっくり労るように、心を休める。部活などで身体に極度の疲労を感じたら、焦らず騒がず、回復に努める。精神と身体のつながりを常に意識したセルフマネジメントを忘れないようにしたいとあらためて感じています。
久保大輔
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