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問いを立て、意識の変容を起こす:ファシリテータースクール チェックイン

正解のない問いをめぐって、さまざまな人が安心して対話・創作に参加できる場をつくる技術「ファシリテーション」。「THEATRE for ALL ファシリテータースクール」では、その方法論について思考を巡らし、さまざまな人が参加する対話型ワークショップを企画・運営するための心構えや知見を身につける。

「アクセシブルな対話のワークショップの実践」に向けて、2021年3月16日にスタートした本スクールのオリエンテーションでは、運営であるTHEATER for ALLと株式会社MIMIGURIのメンバーが参加し、ファシリテーションをする上での基本について、集まった21名の受講者にレクチャーを行なった。


■チャットイン|アートへのアクセシビリティを高めるには?

はじめに、今回のワークショップにおけるファシリテーターである株式会社MIMIGURI・臼井隆志から受講生に向け「今の気持ちをオノマトペであらわすとどんな言葉になる?」というお題が提示された。参加者はzoom上のチャットに「もそもそ」や「わくわく」「ニューン」といったオノマトペを投稿し、これからスタートする3カ月間の授業への感情を表現した。

アイスブレイクが済んだあと、臼井は今回開催される「THEATRE for ALLファシリテータースクール」の目的について、オリエンテーションを行なった。

THEATRE for ALLのコンセプトは「劇場体験にアクセシビリティを」。アクセシビリティとは、近づきやすさ・アクセスしやすさのことである。ウェブサイトにおける読み上げシステムや代替テキスト、点字ディスプレイなどもアクセシビリティに該当する。

彼らがスクールを開催し、ファシリテーターを育成するのも、根底には人々の芸術へのアクセシビリティを向上する、という目的がある。なぜなら『現代アートは敷居が高い』という抵抗感も、アクセスを遠ざける一つのハードルだからだ。

芸術を敷居低く体験できるようなラーニングの場を提供し、スクールの参加者にはファシリテーターとして、ぜひワークショップを開催してもらいたい。そういった想いから、スクールが開講されたという。

本スクールの学習目標は、アクセシビリティとファシリテーションを掛け合わせた、新たな知を生み出すことだ。誰かがリーダーシップをとるわけではなく、ここでは講師陣もインプットとアウトプットに参加しながら、同じ目線で問いに対する答えを探求する。

そして、3ヶ月の受講を通し「アクセシブルな対話のワークショップ」をグループで企画し、実験を行うことを活動目標に据え、実際にワークショップを参加者自身が企画できるフェーズに入ることを目指す。

■レクチャー①|参加者に変容を起こすための4つのプロセス

レクチャーの冒頭、受講生たちは何人かのグループに分かれ、以下の二つの問いについて、各々の意見を交換しあった。

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例えば、臼井の理想のファシリテーターとは「熟練の宮大工さんみたいな存在」。動きに無駄がなく、素早く的確にこなしていくような存在だという。

受講生はグループごとに対話しながら、ファシリテーションとアクセシビリティの共通点や相違点、といった概念について、お互いの意見を交換しながら考えをブラッシュアップしていった。

■レクチャー②|場に応じて“芸風”を使い分け、参加者に問いを立てること

ファシリテーションを担う際、重視すべき要素は4つある。

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ファシリテーター含め、参加者全員で主体的に考えること。参加者全員で知恵を持ち寄って新しいアイデアを生み出していくこと。いきなり社会実装せずに実験を繰り返すこと。そして、日常の延長に位置づけつつも、違う視点で物事を考えること。これらの要素を大事にしながら問いを立て考えることが、ファシリテーションで重視すべき要素である。

また、ファシリテーターにはそれぞれ問いを立てるうえでも個性がある。人によってテンションの高い問いを立てるひともいれば、穏やかな問いを立てる人もいる。それを臼井をはじめとするMIMIGURIのファシリテーターたちは「ファシリテーションの芸風」と呼ぶ。

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ファシリテーターの「芸風」を分析すると、リーダーシップをとる「触発」タイプや、カウンセリング的な問いかけを行う「傾聴」タイプなどに分類される。臼井は感情型で、触発と傾聴の中間地点。場の雰囲気やテーマによって芸風を変えることもあるという。

■レクチャー③|ワークショップを“参加者の目線”で解体するには

臼井は続けてワークショップを「参与観察」するポイントを解説する。「参与観察」とは、ワークショップに実際に参加しながら、ファシリテーターがどのようにワークショップを組み立てているか、プロセスを俯瞰して観察する行為を指す。臼井がワークショップに参加する際にチェックするポイントは4つある。

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まず捉えるべきは、どのようなプロセスで活動が設計されているかだ。つまり、どういった流れでワークショップが進行するか、シナリオの構成を読み解く。シナリオの多くは事前に設計されている場合もあれば、即興的に対話が進む場合もある。ワークショップを観察するときは、何が即興で何が即興じゃないか、ということを考える。

次に、言葉や活動を通し、何が問われているのかを考え、ワークショップに埋め込まれている問いを探り当てること。

そして、参加した自分自身や参加者の中にどんな変化が起こったか、変容が起こらなかったとしたらそれはなぜか、といった「変容が起き、学習をする要因となった」ことを考える。それは問いの場合もあるし、プロセスの場合もある。

最後に、どういったポイントで触発されたか。言い換えると「インスピレーションが起きたシーンはどこか」ということだ。誰が何を言ったときにテンションが上がったか、逆に心が離れた瞬間はどこだったか、を参加者の目線で分析する。

これらの4つを洗い出せば、単にワークショップの外から見た構造だけではなく、どういったムードやテンション、流れで起きているかを考察し、取り入れることができる。

■リフレクション|受講生に変容が起こった2時間のオリエンテーション

受講生らは再びグループに分かれ、以下について対話をおこなった。

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受講生からは今回のレクチャーを受け「わけのわからない状況にみんなで一気に飛び込んでみるようなワークショップも実験的に作ってみたい」という声や、「構造や枠組みを意識していくと、リサーチしやすそう。同時にその中で余白や遊びを作っていくかの面白さがあるのでは」という積極的な意見が上がった。

一方、自身の芸風についてのディスカッションを行なったグループもあり「傾聴することによって話を引き出す、という意味では、傾聴と触発が表裏一体なのでは」という新たな発想が参加者から生まれていた。

また、MIMIGURIの田幡祐斤からは、受講生とのコミュニケーションを通し「レクチャー内容に対して単に『ファシリテーションってそうなんすね!』というノリよりも、それを参考に、自分を再解釈して整理していたことが印象的だった」という感想が上がった。

最後に、受講生らは冒頭と全く同じ質問「今の気持ちをオノマトペで表すとどんな言葉になる?」にチャットで回答し、講義は終了した。彼らの発するオノマトペには「ごくごく」「ウィーンウィーン」のほか「どこどこ」「ずんずん」など、冒頭に上がったフレーズよりも、一層ダイナミックな表現が見受けられた。

受講生たちの意識に、ファシリテーターとしての「意識の変容」が起きたオリエンテーション。「いろいろな方との対話を通して、新たなものの見方との出会いが生まれることが楽しみだ。」という感想もあがった。

受講生たちは、ここからTHEATRE for ALLで開催されているワークショップに参加する「リサーチ」と呼ばれるプロセスに進むことになる。今回の対話のなかで起きた「変容」は、今後新しいワークショップを思考するための、大きな糧となるだろう。


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