見出し画像

12月12日実施 [THEATRE for ALL_OpenLaboratory#01] イベントレポート 前編

初めまして。THEATRE for ALL LAB研究員の小黒(おぐろ)です。現在休学中の大学四年生です。大学では社会と文化について学んでいます。THEATRE for ALL LABではコミュニケーションチームのアシスタントとして、障害当事者の方やそのサポートをされている方を中心にアクセシビリティについての取材から記事作成、掲載までのディレクションを担当しております。

さて今回は、2020年12月12日(土)に、LABメンバーが主催し開催したイベント、「THEATRE for ALL_OpenLaboratory#01」の様子を、前編・後編に分けてお届けします。今回は前編です。

【目次】
第1部 THEATRE for ALLとは? 〜気づきを生み出す、みんなの劇場〜 
第2部 触ること、イメージすること 〜広瀬さんのワークショップ〜
第3部は後編に収録されています(後編は後日掲載いたします。)
「THEATRE for ALL_OpenLaboratory」とは
このイベントは、身体・環境・言語など、様々な理由からこれまで芸術鑑賞しづらかった方とも一緒に、劇場体験や芸術鑑賞体験を楽しむ方法を考えていきたい!という思いから始まりました。全3回のシリーズ企画として、舞台芸術へのアクセシビリティを増やすために何ができるか?ということをオープンに議論していきます。

公式アドバイサーとして、生活介護事業所カプカプ所長の鈴木励滋さんをお迎えしつつ、毎回ゲストの方をお呼びして議論を深めていくトークイベントです。今回、THEATRE for ALLメンバーからは、プロジェクトディレクターの金森さんと、事務局運営統括の兵藤さんが登壇しました。

THEATRE for ALL 公式アドバイザー 鈴木励滋(すずき・れいじ)       1973年3月群馬県高崎市生まれ。1997年より地域作業所カプカプ(現在は「生活介護事業所カプカプ」)の所長を務め、ワークショップを基軸に芸術と福祉の活動を展開し、各所でアドバイザーを務める。演劇では『ユリイカ』『月刊ローソンチケット』劇団ハイバイのツアーパンフレットなどに寄稿。『生きるための試行 エイブル・アートの実験』(フィルムアート社、2010年)などにも寄稿。師匠の栗原彬(政治社会学)との対談が『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』(学芸出版社、2016年)に掲載された。


記念すべき第一回のゲストは、全盲のフィールドワーカー、国立民族学博物館准教授の広瀬浩二郎さん。

画像5

(ご著書『それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!』を持ち、微笑まれていらっしゃる広瀬さんの写真)

第1回ゲストスピーカー 広瀬浩二郎(ひろせ・こうじろう)
著書『それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!』『触常者として生きる』『目に見えない世界を歩く』『身体でみる異文化』『さわる文化への招待』など、多数。2009『障害者の宗教民俗学』明石書店。京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学後、京都大学文学部研修員、花園大学社会福祉学部非常勤講師を歴任。2001年より民博で勤務。専門:日本宗教史・民俗学(日本の新宗教・民俗宗教と障害者文化・福祉の関わりについての歴史・人類学的研究)

広瀬さんのご活動については、「100の回路」の記事でも取り上げさせていただきましたので、こちらも合わせてご覧ください。(下にリンクがあります)

 第1部 THEATRE for ALLとは? 
〜 気づきを生み出す、みんなの劇場 〜


第1部では、まず、THEATRE for ALLプロジェクトのディレクターである金森さんから、THEATRE for ALLを始めた背景についてお話しました。

金森さんにとって、THEATRE for ALLの立ち上げ以前から重要なキーワードだったのは、「劇場と身体」。劇場が子どもの頃から好きだった金森さんは、建物や戯曲がなくてもたちあがる劇場ってどうつくるんだろう?と、チンドンやをやったり、また、誰にでも身近なファッションの中にある劇場性・演劇性に惹かれ、これまで様々な事業立ち上げや広報をしてきました。どのコンセプトも、従来ファッションと言われて想像するものとは異なっており、興味を惹かれます。

・「ファッションがあれば世界は劇場になる」というコンセプトのもと、2001年に設立したファッションブランド「THEATRE PRODUCTS」 http://www.theatreproducts.co.jp/
・従来考えられている義足と、異なる義足の美意識を提示した、「義足のファッションショー」 https://www.youtube.com/watch?v=G4Ca27zirlk
・農場で馬や羊たちと行うファッションショー「SPECTACLE IN THE FARM」 http://archive.precog-jp.net/ja/projects/spectacle-in-the-farm/ 
・老いや障害、様々な身体をもつ人たちが自分らしさを表現し、多様なウォーキングを繰り広げる「オールライトファッションショー」 http://drifters-intl.org/event/category/performance/1216

画像3

(金森さんが自身のこれまでの取り組みを紹介する様子をうつしたZOOMの画面です。船の上や農場や体育館など、様々な場所で行ってきたファッションショーの写真を紹介しています。)

このような事業に携わる中で、ランウェイを歩くモデルさんの「理想の身体」とはまた違った、それぞれの人の生き方が体現されるような身体やファッションのあり方や、ファッションショーを作っていくプロセスの中にある多様な身体の可能性、ドラマをもっとお客さんに共有したいと思うようになったと言います。
そのような、様々な身体の在り方、人生のあり方を表現できる場所としての「劇場」をつくっていくという思いが、今のTHEATRE for ALLになっています。

金森さんのTHEATRE for ALL立ち上げへの思いは、こちらに詳しく取材されています、よろしければご覧ください。(下にリンクがあります)https://note.com/precog/n/n089b6f132581


続いて、THEATRE for ALL 事業統括の兵藤さんから、これまでのprecogやTHEATRE for ALLでのバリアフリーの取り組みについてお話ししました。

precog(プリコグ)は、主に演劇やダンスのイベントの企画や運営をするパフォーミングアーツの制作会社です。2019年、兵藤さんはprecogとして、「True Colors Festival 超ダイバーシティ芸術祭 -世界はいろいろだから面白い- 」という日本財団主催のパフォーミングアーツのフェスティバルで事務局運営を担当していました。

画像6

(「True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭 – 」にて運営を行う兵藤さんの写真です。「手話通訳者は舞台上で動き回ります」と書いてある紙を持っています。)(提供:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS 撮影:冨田了平)

兵藤さんは、このフェスティバルの運営を通じて、自分自身の世の中を見る視点が変わったそうです。「この道路は、どうしてここで点字が終わっているんだろう?」「どうしてこんなところに段差があるんだろう?」そんな風に世界の見方が更新されていくこと、新しい価値観を発見していくことの面白さは、兵藤さんにとっては、アーティストの作品制作に関わる中で感じてきた面白さと共通する感覚であるといいます。

そんなprecogが現在行っているプロジェクトが、THEATRE for ALL。このプロジェクトで目指す「バリアフリー」「アクセシビリティ」も、健常者が障害のある人をサポートするというような一方向的な考え方ではなく、違う身体を持った人の世界の見方を共有し合うことで、お互いに新しい世界が見えるという考え方に基づいています。


気づきで繋がり、皆で面白くしていく劇場づくり

THEATRE for ALLという名前には、「製作者側への気づきを共有する場」「そこからコンテンツを生み出す場」「その先にいらっしゃるお客様とつながる場」を目指し、このプロジェクトに関わるみなでALLな劇場を目指していきたい、そんな願いがこもっています。

だれでも、いつでも、どこからでも。ひとりひとりが繋がれる”劇場”。
環境や身体のちがいから劇場を訪れなかった人が、別の方法で”劇場”にアクセスするようになれば、ひとりひとりの日常もひとつひとつの作品も、もっとおもしろくなるはず。(サイトトップページの言葉より  全文はリンクへ https://theatreforall.net/ )

配信・ラーニング・調査の3つの事業の軸で、THEATRE for ALLは動いています。お二人の話を聞いて、視聴者のみなさんにとっても、制作スタッフやアーティストなどのつくり手のみなさんにとっても、THEATRE for ALLが互いの理解を深められる、豊かな場となれるよう、チームの一員として私も頑張っていきたいなと改めて思いました。


第2部 「触る」こと、「イメージ」すること 
〜 広瀬さんの触覚ワークショップ 〜 


さて第2部では、お待ちかね、ゲストの広瀬浩二郎さんに、お話とワークショップをしていただきました。広瀬さんは歴史研究者でありながら、ユニバーサルミュージアムの第一人者として触覚コミュニケーションを普及するべく活動をされています。

まずは、広瀬さんご自身のアクセシビリティに対する問題意識についてお話くださいました。
「アクセシビリティという言葉が多く使われるものの、どこか健常者と同じように障害者が楽しめるようにする、というニュアンスが悪気なく含まれている時が多い」と広瀬さんは言います。しかし、本来は、マジョリティに合わせるのではなく、選択肢を増やすことがアクセシビリティを増やす活動であるはず。その考えで、広瀬さんは触覚の楽しみ方を広めていらっしゃいます。

また、マジョリティ側からの押し付けが問題になる一方で、障害当事者がバリアを作ってしまうこともあるそうです。「どうせ健常者は当事者じゃないから障害のことはわからない」ということを障害当事者がいってしまうのではなく、健常者を「目の見える視覚障害者」「耳の聞こえる聴覚障害者」として対等に議論できる世の中を一緒に作っていくことが大切。」だと。
広瀬さんの触覚普及の活動は、視覚偏重の現代で、あえて「触る」という選択肢を持ち込むという活動であり、また、障害のある人もない人も「触る」ことを通じて一緒に考えていく場作りなのだなと感じました。


踊るように触る・触るように躍る

THEATRE for ALLが劇場にまつわるプロジェクトであることにかけて、広瀬さんは、触るということについて、2つの視点から説明してくださいました。


視点1:踊るように触る/存在するものを把握するための触り方
広瀬さんが椅子を触っている様子をイベント参加者でみる時間がありましたが、全身をつかって触っていく様子はさながら踊っているかのようでした。見えない人が物を把握するために触っていく過程には、いくつかのステップが存在するそうです。椅子を触ってみる場合だと、

・まずは手のひらで全体で大まかな形や大きさを把握するために触る。(全体を撫でているような感じ)
・細かいところを指で触り、解像度を上げていく。(指で質感や硬さも含めて細かく見ていくような感じ)
・最後は座り、背中やお尻で触る。(手だけではない、全身の皮膚を使って物を感じるような感覚)

そうして、触ることで一点一点情報を積み重ねていき、自分でイメージを創造(create)して椅子だと認識しているそうです。 


視点2:触るように躍る/触ることから形のないものを想像する 先ほどは存在するものを創造(create)しましたが、今度は、目には見えないもののイメージを想像(imaginate)します。

広瀬さんが取り出したのは、土器。なんと広瀬さんご自身の作品だそう。その作品を触り、土台を作って紐を積み上げてツルツルにして穴を開けて、と作った過程の手の動きを思い起こし、追体験をする。これがイメージの想像です。

画像5

(広瀬さんがご自身作の土器を持っていらっしゃる様子。両手の手のひらで持ち上げるのがちょうどいい大きさです。点字をイメージしたという突起が、側面に隙間なく並んでいます。)

そして、追体験は、自分の体験を思い起こすに止まりません。例えば、縄文土器。中側には指跡が残っていることが多く、その指跡を現代を生きる私たちが触る時、何千年前の縄文人の指の動き、生活、存在に思いを馳せることができる。このことを広瀬さんは「縄文土器を触ると、縄文人と握手できる」と表現されていました。

触ることで時空を超えて想像(imaginate)を跳躍させることができる。視覚だけでない、全身を通じた想像の仕方はとても豊かでロマンチックな体験だと思いました。


実は、視覚より触覚が早い?

その後も、広瀬さんは、いくつかの実演ワークを通して、普段からのご自身の情報の積み重ね方を教えてくださいました。

おもむろに急に木刀を取り出し、司会の篠田に斬りかかる広瀬さん。鋭い「エイッッ」と言う声がインターネットの海を超え、東京にいる私のところまで声の球が飛んできました。(広瀬さんは関西にいらっしゃいました。)

広瀬さんは実は、長年居合道と合気道をたしなんでいらっしゃる武術家でもあります。相手の呼吸や声の間合いといった聴覚情報を察知すると、視覚情報よりも実はずっと「早く」相手の動きを読むことができるということを全身で表現してくださいました。

さらに触れた点を感じながら動くゲームを通じて、聴覚情報よりもさらに早いのは「触覚」であるということを実演してくださいました。(向かい合った2名が手首を合わせて、片方が頭部をチョップ攻撃、片方が防御に回るというゲーム。手首を合わせた状態からスタートすることで、皮膚感覚から相手の動きを察知し、防御側は防御をする。ちなみに広瀬さんはとても早い動きで、篠田さんが相手では歯が立たない。)

画像2

(ワークの中で、広瀬さんの腕を折ろうとする、必死の形相の篠田さんの写真です。)

身体の違いがある人同士のコミュニケーション手段として「触れる」こと。

視覚に障害のある人のための「補助」としての触覚ではなく、互いの関係を作るために、身体の楽しみを広げていくために、触ることを普及していきたいというのが広瀬さんの思いです。

ミニワーク:言葉を使わずにものを説明してみる「椅子ってなんだろう?」
最後に、広瀬さんは数名の参加者に「椅子」と言う言葉を使わずに椅子を説明してみてくださいというお題を出しました。ものを「もの自体」を示す言葉を使わずに説明することを、広瀬さんはヘレンケラー体験とよんでいます。

画像4

(ヘレンケラーが水を触っている様子のイラスト)


ヘレンケラーがそれまで文字としては認識していたwaterを触って初めてそれがwaterだと認識する、「井戸端の奇跡」の話は有名。しかし彼女は急に水がわかったのではなくて、水にまつわる様々な感覚、体験を積み重ねてその結果、井戸でピンときたのだろうと広瀬さんは言います。参加者にも、椅子との体験から言葉を紡いてみてもらいました。
 
最初の参加者は、「お尻をつけて体重をかけるもの」と説明。それに対し、広瀬さんは、「なるほど、それもひとつの説明ですね。ただ、座るものであるという前提を理解した方の回答ですね。例えば縄文人が椅子を触ったらと考えると、すぐに座るものだとはわからないかもしれない。」

次の参加者は、「体を支えるもので、仕事をする時に必要なもの」と答えました。広瀬さんは「どのように使うのか、というのもひとつの説明の仕方ですね」とコメントしたのち、自分で触る様子を見せてくださいました。椅子を触りながら、質感やサイズ感を実況中継していくのが広瀬さんスタイル。様々な異なる体験をしてきた人同士が、椅子ひとつについて話し合ってみるだけこんなにも言葉が違っているのか、というのは面白い発見でした。

この記事を読んでいらっしゃる皆さんも、「椅子」と言う言葉を使わずに椅子を説明してみてくださいね。

以上がイベントレポート前編となります。後編は後日公開いたします。

THEATRE for ALL 最新情報は、下記のSNSからもご覧いただけます。ぜひチェックしてみてください。

twitter https://twitter.com/THEATRE_for_ALL
facebook https://www.facebook.com/THEATREforALLproject
instagram https://www.instagram.com/theatre_for_all

また、noteと同じ記事をアメーバブログでも掲載しています。視覚障害をお持ちのパートナーさんから、アメブロが読みやすいと教えていただいたためです。もし、アメブロの方が読みやすい方がいらっしゃれば合わせてご覧くださいね。
また、こんな風にしてくれたら読みやすいのに!というご意見あればできる限り改善したいと思っております。いただいたお声についても記事で皆さんに共有していきたいと思いますので、どうぞ教えてくださいませ。

https://ameblo.jp/theatre-for-all

執筆者

小黒典子(おぐろ・のりこ)
立教大学社会学部4年生。マイノリティや文化、アートと社会の関係について学ぶ。昨年就活をする中で自分を見失い、休学中。最近座りすぎで痔ができないか心配。趣味はイラストを描くことと、国内外のファン活動を調べること。今回はイラストも描かせていただきました。イラストは常時依頼を募集中です!ぜひインスタグラムへ https://www.instagram.com/_hata.hata_


■ この記事は、令和2年度戦略的芸術文化創造推進事業『文化芸術収益力強化事業』バリアフリー型の動画配信事業によって制作されました。

画像7



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?