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「over30割」について

100年後の日本よりも、
10年後の自分たちのほうが重要だ。

 「over30割」は劇団のこれからを考えての企画である。
 京都特有の事情なのかもしれないが、多くの小劇場演劇で当然のように学生≒若者は割引価格で観劇できるようになっている。しかし、これは劇団経営にとってほんとうに利益のあることなのだろうか。
 観劇習慣のある若者〈A〉は、何を観に行くか選択するとき、500円程度の割引には強い影響を受けないだろう。観劇習慣のない若者〈B〉は、いくら安くても小劇場など絶対に観劇しない。一般に500円程度の割引は〈A〉にも〈B〉にもさほど影響しないと思う。
 学生≒若者にとっては演劇なんか観に行かなくても、楽しいことはたくさんある。これは紛れもない事実だし、観劇をいかにもっともらしく説得されても、やはりそこにはエリート主義的な部分があるし、「わからない」という疎外感を覚えさせられるのは御免だ。観劇は孤独な体験である。長いこと沈黙を強いられる。ほんとうは誰しも自分の話がしたいし、他人のことなどどうでもよい。自分のことをわかってくれる友人――そして自分は友人のこともわかっている。他者など必要ない。〈私〉が両手を拡げた範囲が世界である。その事実を認めることもしない。
 「カフェインレスのコーヒー」、「アルコール抜きのビール」のように「無害な毒」として、「他者性を剥奪された他者」(スラヴォイ・ジジェク)を体験することによって、他者性の欠如をひた隠す学生≒若者を、いやというほど見て来たし、自分もその一人である。しかも、学生≒若者は人数も少ない。他人に興味を持たず、人数も少ない学生≒若者は、「強い他者性の体験」が売りの演劇にとってはターゲットにならない。


 というわけで、30代以上の非若者の皆様とお友達になりたいと思った次第です。劇団なかゆびは、割引にもメッセージを込めています。モノの価格は「需要と供給」で決まるかもしれません。劇団なかゆびは「需要と供給」の論理に出口を求めて、ここに行き着きました。
 人数も多いし、若者より金銭的余裕もある――もちろん、時間的余裕はあまりないかもしれませんが――30代以上の皆様、私たちの創る作品はけっして無害な毒ではなく、ちゃんと有害な毒です。
 「毒も食らう、栄養も食らう」とある漫画で言われていますが、肉体にとってだけではなく、精神や思考にとってもこれが重要であること、ご理解いただけるのではないでしょうか。酒やタバコがなくても、人間は生きていけます。むしろ、より健康に生きていける。演劇は人生の毒です。ある時代には「世人が考えだしたすべての気ばらしのうち、劇ほど恐るべきものはない」(パスカル)と言われました。
 敬虔な社会人ならば、長く生きることができるでしょう。しかし、精神の隅々に行き渡るまで敬虔で居続けることは誰にでもできることではありません。己の持つ、そして誰もが深奥に秘める凶暴性に自覚的になること、これが他者と向き合うために必要なことです。劇団なかゆびの作品は常にそこに主眼を置いてきました。敬虔な社会人としてではなく、人間として「よく生きる」ことの探求を共に進めてはみませんか。
                   劇団なかゆび 主宰・神田真直

◇公演情報
 Nakayubi.-9「象徴の詩人;My Dad was God.」
【日時】2018年11月23日(金)15:00/20:00
          24日(土)14:00/19:00
          25日(日)13:00
【チケット】前売:1,500円/当日:2,000円/高校生以下無料
    ☆over30割:30歳以上のお客様は前売・当日に関わらず300円引き
    (受付にて身分証をご提示ください)
【ご予約】チケットご予約はこちらから
【会場】人間座スタジオ

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