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【映画】感想『青春18×2 君へと続く道』~『Love Letter』の引用が良い~




藤井道人監督による台湾ー日本の合作映画『青春18×2 君へと続く道』(以下『青春18×2』)が公開されています。
本作品には、岩井俊二監督による『Love Letter』(1995年)を主人公たちが観に行く場面があります。個人的にこの『Love Letter』というチョイスが絶妙と感じたため、その理由について語れればと思います。

***以下『青春18×2』と『Love Letter』のネタバレを含みます***

監督・出演・あらすじ

監督・脚本:藤井道人
出演者:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳ほか
青春18×2 君へと続く道 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

あの時、想いを伝えていたら未来は変わっていただろうか。
始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する――。
時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取る。初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意するジミー。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へと向かう。
鈍行列車に揺られ、一期一会の出会いを繰り返しながら、ジミーはアミとのひと夏の日々に想いを馳せる。たどり着いた先で、ジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは――。

映画『青春18×2 君へと続く道』公式サイト (happinet-phantom.com)より

『Love Letter』のあらすじ

物語は、神戸に住む渡辺博子が、山岳事故で亡くなった婚約者、藤井樹の三回忌に、雪が降る中、参列するところから始まります。三回忌の帰りに博子は、樹の母に連れられて彼女の家に行き、そこで樹の中学時代の卒業アルバムを樹の母から手渡されます。博子は、そのアルバムに載っていた彼が昔住んでいた小樽の住所に手紙を送ります。
手紙の住所は、すでに国道になっており、どれも住んでいないはずでした。しかし小樽在住の同姓同名の藤井樹(こちらは女性)に届いたのです。手紙を受け取った藤井樹は、怪訝に思いながらも手紙を返しました。
手紙のやりとりによって、婚約者である藤井樹(男性)と手紙の受取人である藤井樹(女性)は、同じ中学の同級生であったこと、そして樹(女性)と博子の容姿が非常に似ていることが分かります。
博子は、樹(男性)が樹(女性)と博子の顔が似ているから自分のことを好きになったのではないかと複雑な感情を抱きつつも、樹(女性)に樹(男性)との中学時代の思い出を聞き始めます。

Love Letter(1995)
婚約者を亡くした渡辺博子は、忘れられない彼への思いから、彼が昔住んでいた小樽へと手紙を出した。すると、来るはずのない返事が返って来る。それをきっかけにして、彼と同姓同名で中学時代、彼と同級生だった女性と知り合うことになり・・・・・・。
https://filmarks.com/movies/12121より

物語の主題の類似

言わずもがなですが、『青春18×2』と『Love Letter』両作品の主題は、「大切な人の死を乗り越えること」にあります。
『青春18×2』は、主人公であるジミーがアミの死に向き合う話であり、『Love Letter』は、博子が樹(男性)の死を受け入れる話です。どちらも大切な人の死から数年経過しているのにも関わらず、主人公がまだそれを消化しきれていない状態から始まります。時間の経過だけでは癒せなかった心の傷を癒していくのですが、その過程にも共通点があります。
それは大切な人の知らない一面を知ることです。『青春18×2』では、アミの故郷である只見、そして実家を訪れることでアミの知らない一面を知り、彼女の死を受け入れていきます。一方で『Love letter』では、博子は樹(女性)との手紙で樹(男性)の中学時代の様子を知り、彼への想いに一区切りをつけます。

物語の結末の相違

上記で述べたように、『青春18×2』と『Love Letter』は主題に類似点が見出せました。一方で相違点ももちろんあります。その一つは、辿り着いた真相です。
『青春18×2』では、ジミーは、最終的にアミの日記を読むことで、アミもジミーを想っていたことを知ります。自分の思い出をアミ視点から知ることができる、つまりある種の答え合わせができたところで物語は終わります。
それに対し『Love letter』では、博子は樹(女性)の話から、どうやら樹(男性)が博子に一目ぼれした理由は、樹(女性)と似ていたからで、中学時代、樹(男性)は樹(女性)のことを好きであったということが分かります。博子は、少しだけ切ないこの真相を察することで次の恋へと進んでいきます。一方で樹(女性)は、自分が樹(男性)から中学時代に思われていたことを知ります(樹(女性)ももう一人の主人公ではあるので、樹(女性)とジミーは結末の観点から見れば類似点かもしれません)。
前者は、自分が想われていたことを知り、その青春の思い出がより良いものに変わる一方で、後者は、自分が彼の青春の思い出の延長にいたことを知り、彼への未練を断ち切ることができます(彼の青春の思い出に負けたのかもしれません)。
以上の対比を考えた際、『Love letter』の引用は絶妙だと言わざるを得ないのではないでしょうか。

『青春18×2』の魅力

『青春18×2』は、長野県、新潟県、福島県の美しい冬景色の中、台湾の一夏の思い出を振り返るというコントラストが素晴らしいです。特に飯山線あたりの風景や台湾での夜の街並み(バイクで移動するシーン)は一見の価値ありです。また同じく藤井監督の作品『パレード』でもそうでしたが、本作も夜空に浮かぶ輝くもの(星や灯篭等)を描くのが上手いです。
またこれは好みが分かれる魅力ではあると思いますが、『Love letter』では、博子や樹(女性)の目線から樹(男性)が語られていき、彼からの視点での語りは存在しませんが、『青春18×2』では、アミからの語りがあることで、物語が非常に分かりやすくなっています。

おまけ:その他細かい類似点

・『青春18×2』のジミーは、アミを映画に誘いますが、『Love letter』では小樽の郵便局員が樹(女性)を映画に誘います。
・『青春18×2』のアミは、絵が上手でジミーらの似顔絵を描きますが、『Love letter』では、樹(男性)が樹(女性)の似顔絵を描きます。(なかなか上手です)
意外と類似点を見つけることができませんでした。皆さまの方でなにかありましたら、コメント等で教えていただけると嬉しいです。


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