カレーチャーハン

素人の手慰みで、時折つらつらと短編のようなものを書いていくつもりです。 感想などいただ…

カレーチャーハン

素人の手慰みで、時折つらつらと短編のようなものを書いていくつもりです。 感想などいただけたら嬉しいです。

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挨拶。

下手くそな短編などを掲載していけたらと思います。 どうぞよろしくお願いします。

    • 金鶏飯店<7>

      <7> 「清真羊腸湯(イスラム風羊の腸のスープ)だ」 鯰(なまず)の絵があしらわれたアンティーク調の馬鹿でかいスープボウルの蓋を血羆が開けるとチーズを思わせる濃厚な香りの湯気が部屋を満たす。 「羊の胃を使う『羊肚湯』をベースにトルコ料理のスープ『イシュケンベ・チョルバス』の調理法を取り入れてみた。なかなかいけるぞ」 巨体を縮こまらせてスープ皿にサーブする血羆の姿は器用な熊の曲芸を見ているようで面白かったがやっと寝付いた虎の尾を踏むような真似は避けるべきであり大人しく自分の口に

      • 金鶏飯店<6>

        「…それで狒々嶋をハジいたという訳か」 丼飯と玉子をのせた盆を持ったままの血羆が三段重ねのサーティワンアイスクリームを床にぶち撒けた子供を見るような表情で嘆息する。 そこにはないはずのラムレーズンに目を落として俯くおれと牛頭の傍らで狒々嶋が醤爆龍鳳に顔を突っ込んだまま無呼吸潜水の世界記録を永遠に更新し続けている。 これでようやっと話が冒頭のシーンに追いついた訳だ。 話をまとめるのが下手なことと堪え性がないことがおれの欠点であるQ.E.D. が完了したところでまずは狒々嶋を衝動

        • 獣が来る(習作)

          もう10年くらい前の話かな。 ランニングに嵌っててさ。 週に3日くらい、多い時は4日は走ってたかな。 はじめは5㎞とか6㎞くらいだったけど、だんだん距離を伸ばしていって最後の頃は10㎞くらい走ってたな。 ランニングアプリってのがあってさ、そいつをスマホに入れておくと自分の走行データだけじゃなくて、他の連中のデータも共有できるんだよ。 それを職場の連中と連携させてさ、競争するんだ。 今月は誰が一番たくさん走ったかって。 「月100㎞以下のヤツは論外」とか言って、みんなで毎月毎月

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        • いろいろなの
          49本
        • おいしそうなの
          57本
        • 金鶏飯店
          7本

        記事

          金鶏飯店 <5>

          「玉子かけ飯とは、随分と子供じみたものを欲しがるんだな」 「ずっと前から、餓鬼の頃から好きだったんでげす。玉子かけ飯が。 アイツは…父親は、玉子だけは喰うのを許してくれてたんです。 それに、玉子は命の未来と希望の塊みたいなものだけど、喰っててもさほど責められてるような気がしない。むしろ自分が生きてることを肯定してもらえるような、赦されたような気持ちになれるんでげす」 おれの問いかけに嬉しさを噛みしめる子供のような声で狒々嶋が答える。 おれや牛頭、狒々嶋のような殺し屋は大抵何か

          金鶏飯店 <5>

          金鶏飯店 <4>

          「ダンナ達の分の水晶香肉はアタシが喰うです。だからこれ以上食事の邪魔をしないで欲しいでげす」 そう言って狒々嶋はのろのろと己の肥満体を椅子から持ち上げるとおれと血羆の間をすり抜けて犬肉の皿を手に取る。 「思いあがるな狒々嶋。お前程度の三下にこの場を治められるだけの格があると思っているのか」 「血羆、アンタ先月もそうやってクスリの業者に因縁つけて連中の手首を切り落としたでげショ。それでコロンビアからのクスリの供給が止まっちまってオヤジに散々どやされたはずだ。ここで殺し屋まで潰し

          金鶏飯店 <4>

          金鶏飯店 <3>

          おれと牛頭、狒々嶋が金鶏飯店に到着した時には既に約束の時間を過ぎていた。殺し屋という糞人形が真っ当な人間のふりをするうえで時間厳守は最低限の嗜み(たしなみ)なのだが狒々嶋の蛮行のおかげでおれ達はさらにもうひとつ格下の糞人形へと落ちる羽目になってしまった。 金鶏飯店は元殺し屋の血羆(ちひぐま)が店長兼料理長の店だ。 表向きは会員制の中華料理店だが裏では組織の会合所…クスリの業者や烏谷達を処分した“掃除”業者達との取引、他組織との会談、自らの屋敷を殺し屋が出入りするの嫌うボスとお

          金鶏飯店 <3>

          金鶏飯店 <2>

          烏谷(からすや)は借金で型に嵌めた薬剤師から取り上げた郊外の処方薬局の地下倉庫を“仕事場”として組織から与えられていた。九九の計算すらおぼつかないような他の売人達と違ってそこそこ頭が回る男だったため此処でクスリの在庫管理と集金、売人の仕切りを任されていたが5分ほど前に鳶田(とびた)の死体を回収しに来た“業者”に連れ出されてその顔だけが狒々嶋の手に残されていた。 「そいつをぶら下げて表に出る気か」 烏谷の顔の皮を手にしたまま地下倉庫の階段を昇っていく狒々嶋におれはたまらず声をか

          金鶏飯店 <2>

          金鶏飯店 <1>

          「醤爆龍鳳」という料理は字面こそ大仰だが要は蛇と鶏肉の中華味噌炒めのことだ。 レシピもそう難しいものではない。 まず魚と同じ要領で三枚におろした蛇肉を生姜や葱と一緒に煮て臭みを取ってから鶏ガラのスープで蒸しあげる。それを蒸した鶏肉・筍(たけのこ)・ピーマン・セロリとともに細切りにする。蛇肉は鱧(はも)と同様小骨が多いので骨を断ち切る要領で切ること。あらかじめ醤油に酒、砂糖と甜麺醤に豆鼓(トウチー)、辣油を合わせた甘辛味の味噌ダレを作っておく。牡蠣油(オイスターソース)は隠し味

          金鶏飯店 <1>

          きつね狩り(短)

          あんた、「きつね狩り」に来たんだろ? そうかいそうかい、そいつはご立派なこった。 おいおい、からかっただけだよ。 そう目をギラギラさせるなよ。 なんでまたあんなけだものに関わろうとしてるんだね? そうかい。 「きつね」に子供を喰われちまったのかい。 あれは子供の肉が好きだからなあ。 都会の連中に「きつね」って言うと動物の「狐」の方を思い浮かべるらしいんだってな。 「キツネって、人を化かすあれですかあ」なんてな。 確かに「きつね」は人を化かすわな。 あれの目を見るとなんだか頭が

          きつね狩り(短)

          きつね狩り

          わたくしは穏やかな湖の水面のような日々を送りたいだけだったのです。 昨日と同じ今日を、今日と変わらない明日を迎えたいだけだったのです。 仕事を終えて帰宅の途についたわたくしは洋菓子店でモンブランを買い求めました。 今日は娘の7歳の誕生日だったのです。 本来ならバースディケーキが相応しいのでしょうが、それが娘の希望だったのです。 「誕生日のケーキはモンブランがいい」 子供の扱いに不慣れなわたくしが愛想なく「誕生日のプレゼントは何が欲しい」と尋ねると娘はそう答えました。 「なら

          日記 11月7日(土)

          通院日。 平日は蒼黒い制服を着た憂鬱そうな高校生や澱んだ色のスーツの勤め人で満杯の電車だが週末の今日は秋空の暖かい日差しが入り込む余地がある程度には空いていた。 ちらほら見える乗客も白や空色のこざっぱりとした服装でおそらくは平日の泥人形のような乗客の一人なのだろうがそんな気配は微塵も感じられない。 どの顔も楽しげで連れ立って遊びに行くのだろうが自分だけが予定もなくただ病院に行くのみかと思うと胸の奥からじわじわと惨めったらしい感情がにじみ出てくる。 いつも満員の車内で見かけるず

          日記 11月7日(土)

          肉線香

          「血は争えない、ってやつだったんだろうな」 高平(たかひら)さんはコーヒーに手をつけずに、カップからあがる湯気を眺めながら語り始めた。 高平さんの親戚筋にあたる関守(せきもり)さんは大学を卒業するまで祖母のもとで育てられたそうだ。 両親はいたが、父親はたまに日雇いの仕事をしても家に金を入れないギャンブル狂いで、母親もほぼ毎晩呑み歩いては朝方に帰ってくるような有様だった。 当然関守さんの面倒を見たりはしない。 そんな境遇を見かねた祖母が、彼を小学生の時に引き取った。 両親は何

          おむかえさん

          「最初は“お向かいさん“って聞こえたんだよ」 懐かしそうに沓沢(くつざわ)さんは言った。 「うちの向かい側に家なんてなかったから、何の事を言ってるのかと思ったよ」 初めてそれを見たのは大伯父の告別式の時だったそうだ。 小学生だった沓沢さんは、告別式が始まるまで従兄弟とかくれんぼをしていた。 子供にとって葬儀は退屈なものだったし、大人たちも受付の準備や式の段取りで忙しく、大声をあげない限りは好きなようにさせていた。 隠れる場所を求めて式場に入った沓沢さんは、席にぽつんと座って

          「出る部屋」補遺

          「補遺」などとご立派なタイトルをつけましたが、つまるところ次の作品を書くための肩慣らしと、作品の拙さの言い訳です。 暇で暇でどうしようもないので読んでやるか、という奇特な方だけどうぞ。 まずは言い訳から。 知ってる方はすぐに気づいたかもしれませんが、文体はまるっきり夢枕獏先生の引き写しです。しかもかなり下手くそな模写です。 夢枕作品にハマったのは高校生の頃からですが…夢枕獏先生の作品が面白いのは言うまでもないことながら、常に新しいジャンルに取り組む姿勢や、まったく衰えを見

          「出る部屋」補遺

          出る部屋

          ごん。 ごん。 がん。 がん。 おい。 いるんだろう。 おいってば。 なあ。 ああ、やっぱりいた。 なんだよ、悪かったよ。 何回チャイムを鳴らしてもおまえが出てこないからさ、ドアを少ぉしだけ強くノックしちまったんだよ。 だからそんなに怖い顔するなよ。 違う? どうした、おまえ。顔が真っ青じゃねえか。 やっぱり出るのか。 しょうがねえなあ。 とりあえず部屋の中に入ってもいいかい? そうか。 じゃあ、お邪魔するぜ。 よっと。 ほうら、入っちまった。 へえ、ずいぶんときれいにし