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tari textile BOOK 前編 第9章 課題⑨

課題⑨

〇新しく染色はせず、残り糸使用する(藍糸は使用可)。縦糸250本以上、半反以上。

 

 

 いよいよ、2年間の丹波布長期教室、「伝習生」最後の課題となった。布づくりや畑作業など、初めての自然豊かな環境で夢中になって毎日を過ごし、当初の予想以上の速さで最後の課題を迎えた気がした。

 今回の課題は、今までの作品をつくった際に出た「残り糸」を使って新たな作品をつくること。

 通常は、まずつくりたい布の幅と長さを決め、そして縞を考える。その設計をもとに、使用する糸の量を計算し、その分の糸を紡ぎ、染色する、という順番だ。

 この、糸の量を計算するとき、私たちが使うのは手紡ぎ糸、それもまだ伝習生で太さが安定していない手紡ぎ糸ということで、予備分として少し多めに計算する。そしてその予備分を含めた量の糸を準備し、染色する。そうして多めに用意した糸は各課題で少しずつ余りが出て、この伝習生の最後課題の時点では結構な量になっている。というわけで、今回はこの残り糸を使うのだ。残り糸各色の重量をもとに糸の長さを計算し、縞を考える、という順番になり、通常とは逆の流れ。この逆計算も1つの勉強なのだ。

 私は今回、伝習生2年間の最後の布として、今まで染色材料として使用した全ての植物を登場させるオールスター布を作ろうと考えた。栗、こぶな草、ヤシャブシ、オニグルミ、枇杷、落花生。彼らと2年間の打ち上げをするような、そんな気持ちでこの最後の課題に取り組んだ。

 

 オールスターといえば、ここでぜひこの2年間を通して(その後も)とてもお世話になった、道具たちのこともご紹介したい。

 通常、「機織り」または「手織りの布」というと『鶴の恩返し』のような、あのぱったんぱったんと織る姿が頭に浮かぶ。それまでの過程や道具について触れられることは少なく、私も実際に伝習生として学ぶまではそのようなイメージしか持っていなかった。しかし実際に学んでみて初めて、1つの布ができ上がるまでには織り以外にもたくさんの工程があり、それに合わせた様々な道具たちが登場することを知った。

 糸紡ぎの糸車に始まり、かせ上げ台、整経をするための経糸巻機たていとまきき小枠こわく整経台せいけいだい、ちきり巻きの際に登場するちきりマシーン(仮称)、それに付随する経糸巻たていとまきボックス(仮称)や畦竹あぜたけおさ通しに進むと竹筬たけおさと初対面、その後いよいよ織り機本体にセットとなるが、その織り機にも綜絖そうこうやロクロやみ木など様々な付属品があり、それらを1つずつセッティングしていく。こうして、数多くの工程をたくさんの道具たちの力を借りながら順にクリアし、ようやくあのぱったんぱったん機織りの段階になる。機織りの作業自体は布づくり全体の最後の最後、時間的に1割くらいのことだ。

 この道具たちは丹波布伝承館に属する備品で、開館当時から約20年にわたり伝承館で学ぶ人々をサポートしてきた。織り上がった布だけにスポットライトがあたりがちだが、その陰には彼らサポートメンバーの存在が不可欠だ。

 そんな20年分の経験と歴史が風格としてにじみ出ている(気がする)道具を前にすると、襟を正すというか、心なしか姿勢を正して作業をしていた。

 また、その用の美とも言える洗練されたフォルムを持つ道具たちは、何度も使用していくにつれてだんだんと自分の身体に馴染んでいく感じがして、愛着が湧いてくる。毎回の布づくりの中で、お馴染みの道具と顔を合わせて一時的にチームを組み、真剣に共同作業を行う。そして次の工程に進む時にはそのチームは解散、次の道具とチームを組む…その繰り返し。そんな彼らは私にとって先輩のような師匠のような相棒のような仲間のような存在になっていった。かたちも用途も1つ1つ特徴があり、魅力的。彼らとの作業も布づくりの中の楽しみのひとつだった。

 

 そうこうしているうちに伝習生最後の課題、オールスター布も無事に織り上がり、長期教室修了式を迎えることになった。

 この時点で、いちおう丹波布の技術者として認定してもらえることになるのだが、いいのかな?というのが正直な実感だった。というより、まだまだもっと繰り返して作りたい、という気持ちが強かった。この2年間で織り上げたのは9種類の布。どれも気に入っているし、出来上がってとても嬉しいけれどまだまだ足りない。技術も未熟だし経験量も少なく、まだ自信を持って私の作った布です、と言えない気がする…

 3月下旬に行われた長期教室修了式は、まだ肌寒さが残るが、空気にはようやく春の気配。 伝習生が終わってしまうのは少し寂しかったが、これでようやく自分の布づくりのスタート地点に立てたような、これからが本当の始まりのような気持ちになっていた。

 不思議な縁でたどり着いた土地はとても居心地がよく、まだまだここで布づくりと生活を続けたい。そうして私は、来年度から始まる「専修生」へと再びモゾモゾ進みだした。

 

 

 細かい格子シリーズ第4弾。今回はカラフルに7色使いで、「1,2,1,3,1,4,1,5,1,6…」の繰り返し。緯糸は、経糸と同じように7色を1本ずつ順番入れた部分と、白1色だけにした部分とを交互にして、その見え方の違いを楽しめるようにしてみた。

 

作品NO.9

→経糸:栗(石灰)、こぶな草(みょうばん)、枇杷(石灰)、枇杷(おはぐろ)、オニグルミ(木酢酸鉄)、ヤシャブシ(木酢酸鉄)、落花生(石灰)
 緯糸:栗(石灰)、こぶな草(みょうばん)、枇杷(石灰)、枇杷(おはぐろ)、オニグルミ(木酢酸鉄)、ヤシャブシ(木酢酸鉄)、落花生(石灰)


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