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tari textile BOOK 前編

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丹波布伝習生時代(2016年4月~2018年3月)の作品と、布づくりについて、自然の中での生活について、などなどを綴りました。
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tari textile BOOK 前編 第9章 課題⑨

課題⑨ 〇新しく染色はせず、残り糸使用する(藍糸は使用可)。縦糸250本以上、半反以上。 ●  いよいよ、2年間の丹波布長期教室、「伝習生」最後の課題となった。布づくりや畑作業など、初めての自然豊かな環境で夢中になって毎日を過ごし、当初の予想以上の速さで最後の課題を迎えた気がした。  今回の課題は、今までの作品をつくった際に出た「残り糸」を使って新たな作品をつくること。  通常は、まずつくりたい布の幅と長さを決め、そして縞を考える。その設計をもとに、使用

tari textile BOOK 前編 第8章 課題⑧

課題⑧ 〇経糸280本、半反。 ●  2年間にわたる伝習生の課題も、大きな山場を越え、残すところあと2本となった。今回、私は自家製落花生をテーマにして布をつくろうと考えていた。    千葉県生まれの私は、落花生にはわりと馴染みが深いほうだとは思っていたが、千葉で住んでいた場所が落花生産地とは少し離れていたり家庭菜園にもあまり縁がなかったりで、丹波に来て周囲の人々が家庭菜園で普通に落花生を作っていること、そして採れたて落花生の愛らしい姿とその美味しさに衝撃

tari textile BOOK 前編 第7章 課題⑦

課題⑦ 〇着尺その2。経糸308本、1反。 ●  伝習生の課題における山場、着尺その2。今回の課題で私は「枇杷を存分に味わう絵画のような布」をつくりたいと考えていた。    私の中のつくりたい布のイメージは、大きく分けて2つあるようだ。1つは「テキスタイル」や「生地」と呼ばれるような、小さめの模様が繰り返され(または無地の)、服や小物などの素材としての布。もちろんそれ自体でも立派なひとつの布ではあるが、その布が別の形に加工されたり、何かの用途に使用され

tari textile BOOK 前編 第6章 課題⑥

課題⑥ 〇着尺を織る。経糸308本、1反。 ●  いよいよ今回は、伝習生2年間の課題のうち最大の山場である着尺、その1。これまでの課題に比べて、幅は約5センチ広く、長さは約2倍になる。心なしか縞の考案にも気合が入る。  私は今回の課題で、伝習生1年目の頃から先輩の専修生が染色で使用していたり、染色の本に頻繁に出てきたりと、よく名前を耳にして気になっていた憧れの染色材料「ヤシャブシ」と「オニグルミ」を、思い切りたっぷり使いたい、と考えていた。この2つの染色材

tari textile BOOK 前編 第5章 課題⑤

課題⑤ 〇「きりべ」の技法を取り入れた縞にする。使用する染色材料は今後自由(ただし購入したものは不可)。経糸280本、半反。 ●  伝習生の2年目、伝承コースが始まった。  2年目最初のこの課題から、糸の紡ぎ方を、基本として教わった方法から自分の紡ぎやすいように変えてみてもよい、という許可が下りた。許可が下りたというと大げさかもしれないが、それまでの基本の紡ぎ方、いわゆる「型」もそろそろ身についてきた頃なので、各自でそういった調整もしてみても良いでしょう、

tari textile BOOK 前編 第4章 課題④

課題④ 〇この課題から緯糸につまみ糸を交織する。1号または2号の藍糸を、こぶな草で採った染液でさらに上から染めて緑色にし、縞に取り入れる。それ以外の染色は栗の皮もしくはこぶな草。経糸250本、半反。 ●  早いもので、そんなこんなで始まった伝習生も、1年目最後の課題となった。当初は全てが生まれて初めての体験で、先生のお手本をただなぞることに必死だった作業も、この頃にはだんだんと慣れてきて、一通りの流れも把握できてきた。同期のメンバーとも徐々に親しくなり、それ

tari textile BOOK 前編 第3章 課題③

課題③ 〇この課題から、経糸・緯糸共に自分で紡いだ糸を使う。染色は栗の皮を使い、1番液と3番液で濃淡の差を出す。つまみ糸はまだ入れない。経糸250本、半反。 ●    学生時代は、小・中・高と部活のバスケットボール一色の日々で、自分の将来の職業については、具体的に考えたことがなかった。走る跳ぶといった単純な運動神経が取り柄の私は、その奥深いけれどシンプルなスポーツに夢中になった。特に小学校時代は、本当にのびのびとバスケットを楽しんでいた。そんな時の試合中は、身体

tari textile BOOK 前編 第2章 課題② 

課題② 〇経糸は購入の手紡ぎ糸、緯糸は自分の紡いだ糸を使う。染色は前回と同様、こぶな草と栗の皮。この課題から緯糸を2色以上使用して、糸替えの作業が入る格子縞になる。経糸250本、半反。 ●  自分の手で布をつくりたい、とひらめいたあの日から、私の心の中にはそのことがずっと、じんわりと熱をもって、秘密の宝物のように存在していた。まずはとっかかりを見つけよう、と織物に関する各種学校や教室、日本各地の織物産地を調べ始めたが、何となくしっくりこない。商業的テキスタイ

tari textile BOOK 前編 第1章 課題①

課題① 〇経緯共に購入の手紡ぎ糸を使用。この糸をこぶな草と栗の皮で染める。緯糸はどちらか1色のみで、経縞になる。経糸250本、半反。 ●  今でもよく覚えている。大阪船場にあるテキスタイル製造卸の会社で企画営業として働き、3年目の研修旅行の日。北陸産地へ向かうバスの車内で、隣に座る、芸大で織物を専攻していた後輩と、世界各地の織物や手織物の製作過程などについて楽しく話していた。私自身は学校で専門的に織物の技術を学んだ経験はなかったが、そういった世界各地の織物な

tari textile BOOK 前編 第0章 「伝習生」

「伝習生」2016年4月~2018年3月   丹波布伝承館 長期伝承教室。私は、その第10期生として、2016年4月から兵庫県丹波市青垣町に移り住み、同町にある丹波布伝承館で丹波布という織物の技術を学んだ。この長期教室では、火曜日以外の平日、朝10時から夕方4時まで丹波布伝承館に通い、丹波布の技術を1から身につける。実技中心の授業で、糸紡ぎから染色、機織りまで一人で全ての工程を行えるようになることを目指す。1年目の基礎コース、2年目の伝承コースの2年間で1期となり、この長期