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tari textile BOOK 前編 第2章 課題② 

課題②

〇経糸は購入の手紡ぎ糸、緯糸は自分の紡いだ糸を使う。染色は前回と同様、こぶなぐさと栗の皮。この課題から緯糸を2色以上使用して、糸替えの作業が入る格子縞になる。経糸250本、半反。

 

 

 自分の手で布をつくりたい、とひらめいたあの日から、私の心の中にはそのことがずっと、じんわりと熱をもって、秘密の宝物のように存在していた。まずはとっかかりを見つけよう、と織物に関する各種学校や教室、日本各地の織物産地を調べ始めたが、何となくしっくりこない。商業的テキスタイルデザイナーやアーティスト、または作家の養成学校か、趣味のスクールといったものが多く、自分の求めているものと会わないような気がしていた。また、それらは学費が高く気軽に動けるものでなかったこともあり、焦らずアンテナを張って情報収集をしながら、引き続き仕事を(特に企画方面を)がんばっていた。

 

 そんなある日、たまたまふらりと入ったお店に置いてあったのが、丹波布で作られたコースターだった。そこは兵庫県内各産地の手工芸品を扱うお店で、丹波布の他にも革製品や陶器等が並んでいたが、なんとなくこれまでに見たことや耳にしたことのあるものばかりだった。その中ではじめて目にしたのがその織物。どこのどんな織物なのだろう?お店の人に尋ねると、丹波市の綿の草木染めの手織物だそうで、なんと糸から手で紡いでいるということ。糸を紡ぐ⁈なんと!再び身体に衝撃が走った。

 家に帰って早速その織物について調べると、まず出てきたのが丹波布伝承館。なになに、糸紡ぎ体験教室があるのか。すぐに丹波布伝承館に体験教室申し込みの電話をかけた。その後改めて丹波布の詳細について調べてみたが、あまり積極的な情報開示がされておらず、商品の宣伝等も少ない。むむむ、なんだか私の好みの感じ。丹波布伝承館は、山里にぽつんとひっそり佇み、地味にではあるが体験教室や各種講座は継続して開催されているようだ。地図上で場所を確認するも、周囲は山ばかりでどんな所かさっぱり想像できない。電車は走っていないけれど、高速バスが停まるようだ。それなら行ける!

 

 そうして初めて行った糸紡ぎ体験教室ですっかり糸紡ぎに夢中になり、月1回土曜日に開催されるその教室に、梅田から出る高速バスに乗り、可能な限り通うようになった。どうやら、平日の朝から夕方までほぼ毎日伝承館に通って技術を学ぶ、長期教室なるものがあるらしい。しかも畑付きのアパートを格安で借りられるようだ。ものすごく気になる。だけどそれに通うとなると仕事を辞めて移住もしなければならないし、収入のあてもなくなる。だけどとてもとてもとても気になる。夢を見すぎているのだろうか?ただの現実逃避か?自分の本気度を確かめないと。そんなことを考えながら糸紡ぎ体験にかれこれ2年程通っていたが、次期長期教室の受講生募集が始まるという話を聞き、ついに心は決まった。これはどうしても本格的に学びたい。まずはとりあえず応募してみよう、選考から漏れるかもしれないし。

 

 そして応募書類を提出、その後面接を経て第10期の長期教室受講が決まった。会社を辞める事や引っ越し作業など大変なこともあったが、4月の初め、遠阪川沿いの満開だった桜が風に舞い始めた頃、私は新しく暮らすことになるその土地に無事に降り立った。

「いよいよ、というかようやく始まるんだなぁ」様々な偶然が重なってたどり着いた場所だったが、そうなることが必然であったかのような妙な納得感と確信があった。

 周囲の山を眺めながら、私は土からモゾモゾ這い出てきた冬眠明けの虫のように、うーんと大きく伸びをした。今まで何となく固まっていた身体も、その陽気と景色のおかげで少しずつ緩んでいくようだ。山に囲まれた自然豊かな土地で、布づくりを軸にした私の新たな生活がモゾモゾと始まった。

 

 

 初めて、緯糸だけとはいえ自分で紡いだ糸を使って布をつくる。みんなは緯糸に使う糸として、自分の今まで紡いだ中での「いい糸」を選別していたけど、私は初期の頃に紡いだ極太の糸も、もったいなくて惜しまず使う。それにしても太い。まるでファンシーヤーン。結果、なかなかの凹凸感と、どっしりとした厚みが出た。ちなみに、太すぎたために途中で緯糸が足りなくなり、途中から急遽他の糸を代用して織り上げた。

 

作品NO.2

→経糸:栗(石灰)、藍4号、こぶな草(みょうばん)
 緯糸:栗(石灰)、藍3号、こぶな草(みょうばん)

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