短編ミステリを読もう！「ミステリーズ！新人賞」おすすめ5作品！

ここまで多数のミステリ作家を紹介してきたが、中には忙しくて長編なんて読めないよ！というかたもいるだろう。
それならお手軽に短編を楽しめばいいのだ。

短編ミステリも長編とは一味違う楽しみ方ができる。
前置き短く起こる難解な事件、現場に居合わせる個性豊かなキャラクター、鮮やかなトリックの解明。すべてがスピーディに起こりながらもミステリの魅力がギュッとつまっている短編ミステリは娯楽の王様と言っても過言ではないだろう。

じゃあ短編ミステリってどこから探せばいいの？という方にお勧めなのが
「ミステリーズ！新人賞」だ。

2004年より東京創元社によって開催されている短編新人賞で、新人ならではのフレッシュで斬新な発想が短編ミステリと見事に調和し、毎年ミステリの新たな可能性に気づかされる魅力あふれる文芸賞である。
今回はその中からおすすめの3つの受賞作と2つの佳作を紹介しようと思う。

※それぞれのタイトル下に添付した写真は該当作が収録されている単行本です。

梓崎優「砂漠を走る船の道」

広大な砂漠を徒歩で渡り、塩を届けるキャラバンで隊員に次々と死の不幸が襲い掛かる。一向に密着取材をしていた「斉木」も身の危険を感じ始め……。

砂漠という閉じられた空間の中で、だれが何のために殺人を犯すのか。一見不可解に思えるその行動の裏に、彼らの宿命が浮かび上がってくる様にはまさに打ち震える思いがある。
梓崎優は動機に重きを置いた小説（ホワイダニット）が多く、その真骨頂は長編「リバーサイド・チルドレン」に色濃く表れている。また、幼少期に海外に住んでいた経験から小説も世界を舞台にしたものが多く、コロナ禍で旅行に行けない今だからこそ、世界を感じるためにお勧めの作品だ。

伊吹亜門「監獄舎の殺人」

死刑執行当日に主人公の目の前で毒殺された幕末の志士。彼は何故わざわざ死刑執行直前に殺されなければならなかったのか？また、誰が彼に毒を盛ったのか。

明治の黎明期を舞台に江藤新平を探偵役に据えて、展開された歴史ミステリ。新人とは思えないほどの時代考証の精密さやプロットの練り方は業界でも高く評価されて、本作が収録された『刀と傘 明治京洛推理帖』はデビュー作にして本格ミステリ大賞を受賞した。
まさにこの期待の新人をまずは短編でお楽しみいただきたい。

櫻田智也　「サーチライトと誘蛾灯」

奇妙な来訪者が集ったある日の夜の公園で探偵が殺された。そこに飄々とした昆虫好きの青年が現れたことで近所のホームレスやパトロールする地域住民などを巻き込み、意外な真相が明らかになる。

先の二つとは打って変わってどこにでもあるような街で突如起こった殺人事件の話。探偵役の魞沢泉はブラウン神父や亜愛一郎の系譜に連なるとぼけた切れ者で、あれよあれよという間に真相が明らかになっていく会話劇には唖然とさせられる。筆者のリーダビリティに感嘆する一作だ。
ちなみに筆者の最新作「蝉かえる」は現在本格ミステリ大賞にノミネートされている。こちらも短編集なので、気軽に手に取ってもらいたい。

深緑野分「オーブランの少女」

美しい庭園オーブランの管理人姉妹が相次いで死んだ。姉は謎の老婆に殺され、妹は首を吊ってその後を追った。妹の遺した日記に綴られていたのは、オーブランが秘める恐るべき過去だった。（BOOKデータベースより抜粋）

2作連続で本屋大賞にノミネートされた深緑野分のデビュー作。本作は惜しくも佳作に終わったが、この頃から深緑野分の丁寧な情景描写は健在で、作品の舞台設定も相まって美しいイギリス映画のようなストーリーには可能性しか感じない。売れっ子作家の原点を感じるためにもぜひ手に取ってほしい作品だ。

榊林銘「十五秒」

突然勤務先の病院で銃撃に遭った「私」の前に死神が現れ、死亡するまで十五秒と告げられた。残された十五秒をどう使えば、「私」は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃できるのか？　被害者と犯人の一風変わった攻防を描く。（東京創元社HPより一部改変）

先日本作を収録した単行本でデビューしたばかりの新星。佳作に入選した本作は厳密に言うとミステリではないかもしれないが、驚きに次ぐ驚きの展開を見せてくれるという点では、ここで紹介したどの作品にも引けを取らないだろう。正直言えば、今回紹介した作品の中で最も粗削りな作品だが、だからこそ新人らしい勢いを感じられるいい短編だ。

作家に注目するのも悪くないが、有望な作家を発掘する新人賞に注目するのも読書の一つの楽しみだ。是非、ここで紹介した作品もそれ以外の作品にも目を通して自分だけの期待株を見つけてほしい。

良ければ、作家をフィーチャーした記事も書いているので是非。

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