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地方観光都市で、ミュージックバーを増やす理由

2023年になりました。コロナ禍突入から、毎年変わらぬ年明けかと思いきや、今年はいつもよりも少し違う年明け。

ここ数年は、年末に新規感染者数が爆増し、お上から「増えたし!減らそう!飲食店は営業時間短縮でお願いします!協力してくれたら保証します!」という伝達があった。昨年末は最大に爆増した、でも伝達はなかった。

2年連続リアルタイムで見ることができていた紅白も、今回は見れなかった。その代わりに、お客さんや友人たちと一年の振り返りを話すことができて、年越しDJなる大役をいただき、年越しと共に「We Are Family」をプレイ。国籍まばらな別府らしい面々と、肩を組み共に踊った。(「肩組んでる時はみんなマスクつけてました!」っていう報告を入れないで済む世界が近くなってきている)

2019年に、the HELL(旧:the HELL Record & Sour)がスタート。そして、2022年にTANNELがスタート。両店舗の距離は、およそ250m。「そんな近い距離で、音楽を中心に据えたお店を2軒もやるのって、大丈夫なのか?」と考えたこともあった。

しかし、気づいたら物件が決まり、デザイナーさん、施工担当者さん、音響プロデューサーさん、融資担当者さんなどとのやり取りもスムーズに進み、トントン拍子で開店までたどり着いた。うまく行く時は、なんでもうまくことが運ぶもので、こればっかりは、理由がわからない。逆も然りなんだけど。

話をもとに戻そう。半径250m圏に、音楽を中心に据えた系列店ができたとして、それは互いの店に影響を及ぼしたりしないのか。もちろん影響はしあっていて、the HELLに通っていたお客さんがTANNELに赴くようになったのは、数字を見ても明らかだ。

今この瞬間が踏ん張り時だと、自分自身に言い聞かせ、the HELLを任せているスタッフたちにも伝えている。きっと、飲食店を多店舗展開する人のセオリーからはかけ離れた発想だと思う。

わざわざ近場でお店を出さずに、売り上げだけを伸ばすなら、大分市や、もっと言えば福岡に出せばいい。家賃もそこそこで、人口は別府の何十倍、何百倍の世界線。確実にニーズはあるし、突き抜けずとも、そこそこ稼ぐことはできるだろう。

でも、僕は、この街で店を増やしたかった。「温泉しかない」と言われる、この街に、音楽をきっかけに、人と人が繋がる瞬間を作りたかった。ただそれだけの思いから、TANNELの開業を決めた。

the HELLとTANNELが店を構えているのは、多くの別府市民と観光客が足を運ぶ歓楽街「別府北浜」。地元の人が集まる隠れた名店が多く密集するエリアだ。

そんな両者が、偶然にも同じカウンターに座り、同じ時間を過ごす。この街には、そんな偶然が溢れている。

地元の人、観光で訪れた人、この両者が、なんの偶然か、あの日、あの時、あの場所で、たった一曲をきっかけに繋がる瞬間がある。そんな奇跡のような瞬間を、僕は何度もカウンターの中から眺めてきた。

膨大なデータの蓄積と、AIの発展により、想定外のヒトや情報との出会いが起きづらい社会で、偶然と偶然が重なり合った瞬間の驚きは、一生の思い出として記憶に刻まれる。

そして、いつかその曲が、ふとTVやYouTubeから流れてきた時に、その記憶が呼び起こされて、「またあの店行きたいな」、「別府に行きてーな」と思ってくれたら、それ以上に嬉しいことはない。

そんな瞬間を、この街で作りたい。

僕が音楽が好きな理由は、言語に関わらず、どんな人と人との壁をも取っ払う力強さにある。音の強弱や、歌詞の持つ優しさや悲しさもあるが、僕が言いたいのは、そういうことではない。

たった一曲で、たったワンフレーズで、その場の雰囲気を変えることのできる力強さ。それは、どんな音楽にも共通しているようにも思える。

音楽は、決して特別なものではない。街を歩けば音楽が流れてきて、店に入れば最新のヒット曲が聞こえてくる。誰にとっても身近な存在で、誰とでも共感しあえるのが音楽。

そんな音楽を通して、この観光地でしか起きない奇跡を、これからも作り続けたい。

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