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New Zealandがくれた宝もの 17 Rock Pool 2nd day ロックプール2日目

 コーゾーはフィッシングガイドのトムと連れだって、朝からロトルアに出かける用事があり、今日は私たちに付き合うことができない。が、
「ワイタハヌイで魚をランディングするためには、ネットが必ず必要になりますから、私のを使ってください。」と、コーゾーが前日言っていたので、私たちはウィンザーロッジに寄って、ランディングネットを借りていくことにした。
 河原の広いトンガリロとは違い、ワイタハヌイはブッシュが多い。
魚に走られてブッシュに入り込まれる前に、すばやく寄せてランディングしなければならないのだ。
これがワイタハヌイリバーで、魚をキャッチすることは難しいと、ガイドの間でも言われるゆえんである。

 ウィンザーロッジに寄ると、オーナー夫妻がランディングネットと、コーゾーのメモ書きを渡してくれた。
トムが今朝のうちに、プールを見てまわり、魚の付き場を確認してきてくれていた。
それをコーゾーが地図にして、記してくれていたのだ。
「今日は魚がかなり、上がってきているようです。ぜひ、釣って帰ください。コーゾー。」
どのプールの何番めの石の後ろを、どこからどう狙ったらよいか、事細かに描かれていた。
ありがたいことではないか。
なんとか、私たちに一匹釣らせようという、ニュージーランドのフィッシングガイド魂。
私たちは早速、昨日大物をバラしたロックプールに行ってみることにした。

 プールには誰もいなかった。
よしよし、とロッドをセットしはじめる。、、、と、車の音がして、コーゾーとトムが現われた。
「これから出かけるところなんですけど、なんだか気になっちゃって。ちょっと寄ってみたんですよ。」と、コーゾーが笑いながら言った。トムはお立ち台の上から、偏光グラスを通してプールの底の様子を探っていた。
「下に2匹、上に4匹入ってる。」トムが言った。
げ、本当?
「さあ、早くやってみろ。」トムが手ぶりをした。
信じられない気持ちで、お立ち台に立った。
「あの木の脇にキャストして、そのまま手前に流して、余分なラインはどんどんたぐってください。」コーゾーが私に指示した。ここから上流を狙うには、バックハンドキャストをしなければならない。が昨日、さんざん流したおかげで十分練習済みだ
。距離感も心得ている。

 第一投目、神経を集中し慎重にキャストした。
見事にフライは狙いどうりの場所に落ちた。
インジケーターが流れにのり、こちらに近づいてくる。
「アワセは強く、ホールドは高く。」心の中で心構えをしていた。
インジケーターがすっと水中に消えた。
全体重をかけロッドをあおり、左手でおもいっきりラインを引いた。
ストライクだ。すごい力がロッドにかかる。
私はロッドをなるべく高い位置に上げた。
「大丈夫です。ラインを巻きとってください。」コーゾーの指示がとぶ。
巻きたくても、両手でロッドをささえてしまっているので、リールに手がいかない。
おなかと左手でロッドをささえ、リールにラインを巻き込んだ。
8番のロッドはバットから曲がっている。
「ブッシュに入られないよう、魚を下のプールの浅瀬に誘導してください。」
シンイチがランディングネットを持って、下のプールに降りた。
「今度こそは、とりたい!」

 魚は浅瀬に入ったと思った瞬間、更に下流に向かってグーッと走った。
シンイチの顔の数センチ横を、ラインがジーッと走った。
「大丈夫、そのままゆっくり寄せてください。」
「バレないでーっ。早くランディングしてーっ。」祈るような気持ちだった。
やりとりがどうのという前に、どうしても一匹キャッチしたかった。
魚は2度ほど暴れた後、シンイチがようやくネットをいれた。
「やったーっ、やりましたねーっ。」
「つ、釣れた、、、、。」
コーゾーも、トムも、シンイチも、満面の笑みで握手を求めてきた。
私はヘナヘナと座り込みたい気分だったが、皆があんまり喜んでくれるので、ようやく実感をとりもどした。
 魚は銀色に光るメスのレインボウだった。
5ポンド60cmの美しい魚体だ。フレッシュランでタウポから上がってきたばかりらしく、どのヒレも大きくピンと張っている。
ようやく川で釣れた記念に、剥製にすることにした。

 「まだ魚はいるから、やってみろよ。」トムが言った。
今度はシンイチがトライした。
何投目かでストライク。
引きからみてよいサイズだ。
下のプールに誘導したあと、更に下流に走られ、ブッシュに入り込まれティペットから切れてしまった。
 コーゾーはこのロックプールで、いつもブッシュに入り込まれバラしてしまうので、一度、どうしても魚がとりたくてファイトしながら下のプールまで泳いだことがあるという。
川幅は狭いが、深さはかなりある、とても危険な行為だ。
それほど、ここで魚をキャッチするのは難しいという。
そのため、この川ではある程度無理にでも魚を寄せられる、硬めのアクションをもつロッドがよいのだという。
早めに寄せて、すばやくランディングするのがコツだ、という話もうなずける。
 私たちと、日本での再会を約束して、コーゾーとトムはロックプールを後にした。

 今回のニュージーランドの旅の目的を、最終日にしてようやく達成できた私は、すでにポーッと気が抜けていた。
気になるのは、さっき釣った銀ピカのやつをいかに早く、剥製屋に届けるかである。
まだ、釣りたそうなシンイチを引っぱって、トムに聞いたタウポの剥製屋へ向かった。
 閑静な住宅街の中にその剥製屋はあった。
普通の造りの家の倉庫が、作業場になっていた。
中にはトラウトをはじめ、鹿などハンティングのターゲットになる動物の剥製が、所狭しと並んでいた。
魚を持っていくと剥製屋のおじさんが中から出てきた。
いかにも、繊細そうなアーティストタイプだ。
この人なら、きっときれいに仕上げてくれるに違いない。
 魚を見せると、「ふーん、アンタ釣ったの?」と、いう顔で冷凍庫の中から、10ポンドはあるかと思われる巨大なレインボウを見せてくれた。
どうも、剥製にするんだったらこの位のサイズを持ってこい、と言いたげだったのだろうか。
 次にこの銀ピカレインボウと対面できるのは、3か月後になる。
仕上がったら、日本に送ってくれるのだ。

 無事、剥製屋に銀ピカレインボウを送り届けた後、私たちはまたワイタハヌイに戻った。
コーゾーが地図に描き記してくれたポイントを、下流から順にやってみようということになった。
 まず、一番下流のリバーマウス。
相変わらず人気のエリアで、各ポイントには皆釣り師が入っていた。
いかにも釣れそうにない感じ。
それでも一応流してみるが、やっぱりダメ。
 プールを点々としながら、先程のロックプールに戻った。
ここも、もうアタリはなかった。
魚も移動してしまったのだろうか?
きっとトラウトたちは、昨夜のうちに湖から上がってきて、このプールに入り休んでいたのだろう。
朝から私たちが釣るまで、誰も手をつけずにいたのだ。
あの銀ピカレインボウは、その偶然とコーゾーとトムに出会えた偶然が重なって得られた、賜物だったのである。 

 魚釣りというのは、まったく巡り合わせの遊びだとも思う。
天候や魚の生態という自然のサイクルと、釣り人自身のコンディション、そして何よりも他の釣り人との関わりが交錯し、奇蹟が生まれたり、楽しい出来事が起ったりするのではないだろうか。
ただ「釣りたい。」という自分の意思だけでは、どうにもならないこともあるのだ。
「最後ぐらいしつこく粘ってないで、気持ちよく帰ろうよ。」
私たちにしては珍しく、まだ辺りが明るいうちにツランギへと向かう家路についた。

18. Fantail へつづく

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