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【こえ #7】今では朝にはおかゆを作り果物であってもミキサーで砕いて柔らかくして食べる毎日だ…

 伊藤 孝子 さん


 60代前半で肺がん、70代にさしかかって食道がん、70代半ばで大腸がんを患った。食道がんの2回の手術の結果、形があるものを食べれば食道に詰まって落ちていかず唾液が溢れて口や鼻から出てしまうようになる。今では朝にはおかゆを作り果物であってもミキサーで砕いて柔らかくして食べる毎日だ。

 相当なご苦労があったはずだ。それでも「嫌なことは忘れちゃう。落ち込んでも仕方ないから」と笑顔で仰った。術後に病院に通うたびに「また今日も命をもらった」と感謝して生きてこられた。

 食道がんの手術を通じて、発声に不可欠な声帯をもつ喉頭も摘出した。
 声を失った同じ境遇の方々が発声練習に通う「銀鈴会」に入会し、自宅から片道1時間半かけて週3回通い、自宅でも毎日朝昼晩と2時間の練習を続けた。伊藤さんにとって「通い続けることが、そして声を出せることが生きている証拠」だった。

 その結果、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを新しい声門として失った声帯の代わりに振動させて音声を発する「食道発声」法を苦労の末に身につけた。

 これは、人為的に「ゲップ」を出し、それを新しい声とする発声法で、人工の器具を使わず自分自身の“肉声”を出すことができる。ただし、それはあくまで“新しい声”であり、“以前の声”ではない。たとえ「食道発声」法を身につけても、人によっては雑音が多く混じってしまい、それを相手にとって聞きづらいと感じてしまえば、結局筆談をせざるを得ないこともある。伊藤さんもそんな悩みを抱えていた。

 そんなとき、Syrinxが開発する次世代の電気式人工喉頭(EL)に出会った。

 電気式人工喉頭(EL)とは、あご下周辺に当てて振動を口の中へ響かせ、口や舌の動きで振動音を言葉にして発声することを補助する器具である。しかし、常に器具をもつ片手がふさがったり、抑揚のないロボットのような声しか出ないといった課題を抱えていた。

 それに対してSyrinxが開発する電気式人工喉頭(EL)は、機械学習を用いてよりその人の声に近い振動音を出すとともに、首に装着してハンズフリーで使用できるものだった。

 初めて装着した際に「(適切なあご下に)ピタッとハマったら雑音が消えた」。伊藤さんの悩みが解消された瞬間だった。さらに、片手がふさがらないので「食事を食べながらでも使えてすごく便利」だし、伊藤さんにとっては食道発声に比べて体力的にも楽で長く話せるものだった。

 伊藤さんは、このSyrinxが開発する次世代の電気式人工喉頭(EL)の発売を待ち望んでいる。次は「“より良い”声を出せることが“より良く”生きている証拠」になるはずだ。

▷ 銀鈴会

▷ Syrinx

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