見出し画像

【め #18】いつか『どうぶつの森』をやってみたい

Noriさん


 Noriさんは、1歳の時に麻疹(はしか)にかかったことをきっかけに視力を失った。現在は、明るい暗いがわかる程度の全盲である。一般校への入学を勧められたこともあったが、小中高と盲学校に通い、第13話でご紹介した前田さんも通った米国『オーバーブルック盲学校』にも留学した。「周りが同じ障害者なので萎縮しないで過ごせた」。

 壁に直面したのは、大学受験だ。周囲に受験生がおらず、「自分でやるしかなかった」。まだネットも普及しない頃、受験に必要な教科書を点訳してくれる人を探し、価格交渉まで自ら行った。予備校に行けば、「少人数制と言っても盲学校の教室より生徒が多い」し、何より盲学校出身者は初めてで「(予備校側も自分も)双方でどう接していいかわからない」。大量の板書や、前もって知らされないテキスト配布、さらに模試の受け方まで、多くの壁を乗り越えて大学に進学した。


 その時代から技術が進化し、Noriさんを取り巻く世界は変わった。でも“もうちょっと”変わってほしい。

 「電気やエアコンは、スマートスピーカーで操作してます。でも、他の家電には使えないんですよね」。音声ガイダンス付の食洗器を使っていて最近同じシリーズに買い換えたら、「平べったい板が来た」。タッチパネルのことだ。結局、タッチパネルの上に、電源・開く・スタートといったシールを貼って使い、○○洗濯コースといった上位機能は使いこなせない。「音声ガイダンスって削減される筆頭なのかな」と悲しそうだ。

 今はiPhone『VoiceOver』といった音声読み上げ機能がスマホなどに標準装備されている。しかし、それが使えないアプリや音声説明がついていない画像も多く、「最後に読み上げ機能が使えるかチェックしてくれるだけで違うのに」と開発されている方に期待を投げる。

 電子書籍がなかった頃は「マンガのめくったページにスキャナーをかざしてセリフだけ読んでみたこともあった」。今はkindleを通じて、雑誌や小説を「ネタバレされたくないから晴眼者と同じタイミングでも読める」。でも、作者のコラムだけ画像のまま読めなかったり、kindle以外の国内の電子書籍ともなればそもそも全く読み上げてくれない。

 しかし、それも技術が解決してくれる可能性が出てきた。”視覚障害者と低視力の人々に視覚を提供する“Be My Eyes社がOpenAI社のChatGPTとコラボして誕生した『Be My AI』。「画像を細かく説明してくれて、質問すれば細かく教えてくれる。これはすごいシステムですよ!」と嬉しそうに教えてくれた。


 あとは、「友達と一緒に『どうぶつの森』をやってみたい」。前述の『VoiceOver』でプレイできるゲームは今でもあり、Noriさんは世界中のユーザーとゲームを楽しんでいるが、それに友達を誘うと「英語は嫌だ」と言われてしまう。海外と国内の差はここにもある。

 そうした中で、「日本のゲームでは『アルテスノート』さんが頑張ってくれている」。『VoiceOver』対応を行いましたとアナウンスしてくれ、「視覚障害者もターゲットと考えてくれている」ことがわかって嬉しい。

 できることなら「自分でゲームを選ぶことからやりたいんです」。誰かにプレイできる状態までサポートしてもらうにも「人の手を借りるのでは、意味がない」。人の手を借りたくないといった類の意図ではない。あくまで「一人でできないと“(それを)使える”とは言えない」からだ。


 「盲学校では何でも自分でするように言われきた」Noriさんは、そこを卒業して環境が変わっても、できるだけ一人でできるように努力や工夫を重ねてきた。世に生まれ続ける新しい製品やサービス、または色んな可能性を拓く技術が“もうちょっと”変われば、Noriさんを取り巻く世界はまた劇的に変わるはずだ。


▷ アルテスノート


⭐ コミュニティメンバー登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubでは高齢・障害分野の課題を正しく捉え、その課題解決に取り組むための当事者及び研究者や開発者などの支援者、取り組みにご共感いただいた応援者からなるコミュニティを運営しており、ご参加いただける方を募集しています。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?