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【め #22】人の目を借りたい瞬間を叶えるサービス

藤井 実都江さん(後編)


前編から続く)

 スマホカメラで写した映像や位置情報を遠隔のオペレーターがサポートする『アイコサポート』。その企画段階だった頃に想定ユーザーである視覚障害者としてヒアリングを受けた藤井さんのもとに、一つの連絡が届く。企画を進める上で当事者のアドバイスが欲しいので手伝ってもらえないか?という、ご指名だった。

 「是非!と返事をして」以降、週1回、3時間、スマホカメラをもって外を歩き、オペレーターに案内してもらう実証が始まる。「そういう説明まではいらない、とか言いながら」テストは繰り返された。


 藤井さんは視覚障害者としての歩行訓練を行い、外出時に同行する『同行援護』サービスを使うこともできたが、どうしても事前にそれなりの準備が必要になる。この『アイコサポート』の企画に触れていく中で、「遠隔のサポートってあったらいいよねと友人と話していたことを思い出し、意外と行動に制限をかけていたことに気付いた」。

 さらに「(視覚障害者が)人の目を借りたい瞬間が必ずある、遠隔サポートは生活の幅を広げる、こういったサービスが当事者に広がって生活を豊かにしてもらいたい」と想いが高まっていった。

 その先に、当時の企画担当者が会社側に掛け合ってくれたこともあり、藤井さんはこの『アイコサポート』を提供する株式会社プライムアシスタンスに入社することになり、立場はユーザー側から開発側へと変わっていった。「もちろん、ちゃんとパソコンスキルとか他にできることも示して、試用期間も経てですからね」と藤井さんは笑って付け加えた。

 ちなみに、株式会社プライムアシスタンスにとって、全盲の社員を受け入れるのは初めてだった。それでも、経営陣は意義を感じ、現在では役員も含めた60名以上が『同行援護』の研修を受けて資格を取得している。


 開発側に藤井さんが入っても「自分だけで解決できるわけではない」。藤井さん自身は徐々に視力を失ったため、「見えにくいも見えないも経験している」が、視覚障害のある方の見え方は多様だ。故に「かなり多くの当事者に協力していただいた」。

 地方にいる当事者でも対面で話すよう足を運び信頼関係をつくった。「当事者は意見がたくさんあっても気を遣って言わない。でも関係性をつくると言ってくれる」。それには、藤井さん自身もかつて『アイコサポート』の企画段階でヒアリングを受けた自分が最初に「(困りごとは)そんなないですね」と回答した経験も念頭にあったのかもしれない。

 「そういった方々の声をちゃんと受け止めて、サービスができあがっていったんです」。


 現在『アイコサポート』は、第4話でご紹介した鷹林さんのように個人で加入するプランを中心にユーザーが広がっているが、法人や自治体が費用を負担することで誰でも無料でサービスを利用できる「フリーエリアプラン」も提供している。昨年からは、無印良品を展開する株式会社良品計画と連携し、「無印良品 横浜ジョイナス」をフリーエリアに設定して店内案内や買い物サポートを行う実証実験も始めている。

 今年に入り、第19話でご紹介した千野さんが代表を務める株式会社Ashiraseが開発・販売する、スマートフォンアプリと靴につける振動インターフェースで視覚障害者の歩行をナビゲーションする『あしらせ』との連携も開始した。


 開発側でもあり、ユーザーと同じ視覚障害者でもある藤井さんが話してくれた。視覚障害者にとって二大障害の一つと言われる『移動』について「あくまで安全は障害者自身で確保してもらわないといけない、オペレーターは手を延ばせないから。でも、『アイコサポート』があれば、“行ってみたいけれど、行き慣れない場所で何かあったら”という不安がなくなり、“あんなこともできるのかな”というチャレンジ精神が生まれる」。

 障害者のための製品やサービスの開発に最初の段階から当事者が携わり続け、そしてそういった製品やサービスを提供する事業者同士がつながっていく、さらには新たな製品やサービスを提供する新しい事業者も生まれる。そこには常に当事者がいる。そんなシーンが増えることが社会をちょっとずつよくしていくはずだ。


▷ プライムアシスタンス / アイコサポート


▷ あしらせ


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