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【め #17】“もうちょっと前”を願う福祉情報工学者

宮城 愛美さん


 宮城さんは、筑波技術大学の障害者高等教育研究支援センターで、主に視覚障害系の情報アクセシビリティの支援研究をされている。

 大学時代は「ソフトウェアもハードウェアもやる工学系」で、特にプロダクトを使う人間とのユーザーインターフェースに関心が向いた。当時1990年代は、新しい電化製品が出ても貧弱なディスプレイに小さなデジタル表示といった時代。それを高齢の家族は使えず、「新しい技術が逆に使えない矛盾」に素朴な疑問をもった。そこからデジタルディバイドの問題解決に向かう中で、さらに困難に直面する視覚や聴覚のニーズに寄っていき、現在の福祉情報工学にたどり着いた後は一貫して情報アクセスに関する研究に取り組んでいる。


 視覚障害者にとって「『移動』と『情報アクセス』が二大障害。後者はいいところまで来た」。だからこそ、宮城さんが“もうちょっと前に”ともどかしく感じる部分がある。

 近年、確かにスマホや多様なアプリの登場で視覚障害者の活動範囲が広がった。しかしながら、たどり着いた先のアプリやWebのアクセシビリティが十分ではないと「橋が架かってても最後ストンと落とされるイメージ」だ。Webアクセシビリティには『WCAG』という世界標準のガイドラインがあるのだが、公共機関でさえ対応しきれていないのが現状だ。

 視覚障害者にとって外食には少しためらいがあるものだ。点字のメニューがあるお店は多くなく、従業員を捕まえるのもはばかられる。最近広がるQRコードから自身のスマホで注文するスタイルが今後助けになる可能性があるが、宮城さんから『きけるおしながき ユーメニュー』というサービスを教えてもらった。スマホの読み上げ機能を使って自分でメニューを“聞く”ことができる。さらに、最新情報への更新や対象店舗の拡大などを期待したい。なぜなら、こうした支援機器は「(これまでも)いいものが出ても消えていく」ことが多いことをもどかしく感じてきたからだ。

 災害時にも大きな課題がある。例えば気象庁が発信する災害時の広域情報は地図上にかぶせて示す形になるため、弱視の方には何とか伝わっても、全盲の方に音声で伝えることが難しい。「ここまで現代人が普通に使って頼りにしている情報が視覚障害者に使えないことがもどかしい」。

 防災情報の配信で「アクセシビリティが素晴らしい」と高く評価されたのが『NERV』というアプリだ。「意識が高い方が作っておられる」ことを喜ぶ一方で、国としてやっているわけではないことにもどかしさを感じる。

 こうした背景もあり、昨年、東京管区気象台、水戸地方気象台と筑波技術大学で防災分野における連携協定を締結して始まった教育研究活動には期待を寄せる。「学生たちに、単に改善を主張するだけの立場になってほしいわけではない。情報発信側の苦労もわかる機会を得て、両方の視点をもつ」ことで情報アクセシビリティのあり方を考えていってほしいとの願いがある。

 行政だけではない。教育主体にならざるを得ないものの、学生のためには企業との接点も広げていきたい。大学の授業の一環として、アプリ開発・研究など支援機器に自ら取り組んだり、イベントで子供向けにユニバーサルデザインに関するゲームを提供するといったこともしているが、共同事業や継続的な取組など「企業との連携できる機会があれば、ありがたい」。


 宮城さんが「二大障害」と表現されたうち『情報アクセス』が発展してきたのに対して、「『移動』はまだ発展していない」と残念そうに話された。「視覚障害者に“鉄道マニア”が多いって知ってます?」と聞かれ、驚いた。「鉄道って、決められたところから情報を得さえすれば、視覚障害者でも“どこまでも行きたいところに行ける”から」。そんな風に自動車もなってほしいと自動運転に期待を寄せる。

 より足元では、色々なナビの登場で「建物には行くことはできるようになったが、最後の“入口のある場所”や“建物の中”」まではまだ遠い。他方で、最近では、訓練を受けた人が外出時に同行して代筆・代読も支援してくれる『同行援護』サービスを積極的に利用する学生も増えているそう。もちろん提供する事業者が出てきたことも背景だが、「若者の社会は一人でも試して、良いらしいとなれば、すぐに広まる」。

 「テクノロジーを取り入れる上で、やはりリテラシーが必要」であることは宮城さんがこの道に進んだ頃から変わらないが、そのためにも併せて「やっぱり人のサービスも必要」ともおっしゃった。人版UBERなんてできそうですよね、なんて笑い話もしたが、結構本気でできないものだろうかと頭から離れない。



▷ WCAG


▷ きけるおしながき ユーメニュー


▷ NERV


▷ スマートスピーカー(AIスピーカー)アプリ(筑波技術大学)



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