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【こえ #11】発声する方法を模索し訓練する方々と話す中で最も感じたのは、当たり前のことだが「話せることのありがたさ」だった…

堀家 彩音さん


  第9話でご紹介した戸原玄さんが発想し、第10話でご紹介した山田大志さんが形にして世に出した、コミュニケーションに障害を抱えた方のために第二の声を届けるマウスピース型機器「Voice Retriever」。それについて、がんなどで喉頭(空気を気管に、飲食物を食道に振り分ける部分)を摘出し、そこにある声帯を失った有病者の方への利用を研究しているのが東京医科歯科大学大学院生の堀家さんだ。


 その研究を通じて、喉頭がん、咽頭がん、食道がん、甲状腺がんなどで、声帯を摘出し声を失った人に対し社会復帰を支援する公益社団法人「銀鈴会」に訪問する機会を得た。

 そこに所属し再び発声する方法を模索し訓練する方々と話す中で最も感じたのは、当たり前のことだが「話せることのありがたさ」だった。

 今では再び発声できるようになった方でも、ある日がんの発症がわかり、手術で喉頭及び声帯を摘出し、それによって話せなくなった絶望感を味わい、そしてそこからの発声法の練習の経緯を聞くにつれ、「自分が自然に話せることが決して当たり前ではなく、話せることが何より一番大切で大事なことだと気付かされた」。


 小学生の頃、お父様のお仕事の関係でロンドンに暮らした。暮らす日常のすぐ近くに多くのホームレスがいることが強い記憶に残った。帰国した後だったろうか、そんな困っている人に手を差し伸べようとする、もしくは人の話に耳を傾けようとする娘に対して、お母様が医療の道を勧めたこともあった。

 その通り医療系の大学に進学した後は、学業の傍ら、貧困層や災害被災者への口腔ケアを通じて命を守る活動を続ける中久木康一歯科医師の仕事を見学させてもらい、ホームレスや貧困層に対してストリート新聞の販売を通じて正当な報酬を払い社会復帰を支援する「ビッグイシュー」の歯科検診にも参加するなど、直接治療をしなくても社会に働きかけられるイメージをつかんだ。


 そうした先で今出会った喉頭を摘出した患者の方々や発声練習に取り組む姿。社会的な障害に医療で貢献したい想いの確かに延長線上だった。

 今の経験で得られた知見を世の中に共有したいし、そのために論文にまとめられたら嬉しい。将来は、一人ひとりへの歯科治療も大事だが、広く集団ベースで考える公衆衛生にも関心がある。疫学調査に進むのか、行政の政策を手がけるのか。後者であれば地方自治体や保健所など可能性は広がる。


 こんな生い立ちをもち、困難を抱えた当事者に向き合い気付かされ、そこから夢を膨らませる大学院生がいつか地元に来るかもしれない。なんか幸せな気分になるのは筆者だけではないはずだ。


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