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【こえ #18】がんで声帯を摘出し声を失った人の社会復帰を支援する「銀鈴会」は、入会すると…

永田 洋さん


  がんで声帯を摘出し声を失った人の社会復帰を支援する「銀鈴会」は、入会すると初心クラスから始まり、再び発声するための訓練の上達に応じて初級・中級・上級とクラスが変わっていく。永田さんは初心クラスに在籍中だ。
 
 「(入会して)5年経っても進歩しないんだよー。1文字出すのに3年もかかっちゃった。来月に初級昇格試験があるんだ。」と筆談で話された後、ペンを置き「あ、め。お、ちゃ。あ、た、ま。」と一語ずつ声を出された。

 ?と思ったら、発声の昇格テスト問題を見せてくれ、そこには以下が書かれていた。

  • 「あー」、「いー」、「うー」、「えー」、「おー」、

  • 「あめ」、「おちゃ」、「あたま」、

  • 「こんにちは」

  • 「私は」、「□□□□」、「です」、

  • 「どうも」、「ありがとう」、「ございます」


 また、この発声テストに合格するため、会員にはクラス内での練習以外に毎日の自宅練習も奨励されている。上記のテスト問題と同内容の練習として、朝昼夜と発声の回数及びその標準時間が示されており、推奨される一日の練習時間の合計は108分にも及ぶ。

 もちろん全ての会員が毎日こなすスパルタな環境ではないが、永田さんは「毎日守ってサボることはない」とサラっと筆談で仰った。


 その姿勢の原点をお聞きして合点がいった。永田さんは22歳から60年以上にわたって能楽の教室に通い続け、能の伴奏(言葉・台詞)にあたる「謳(うたい)」と、面・衣装を用いずに謳のみで舞う「仕舞(しまい)」の技術を磨いてこられた。

 「発声と体を動かす両方が面白かった。地元の公民館で『羽衣』(注:能の人気演目)も披露したよ。」


 誰もが思っただろう。私も思った。声帯を摘出し、まだ初心クラスで練習中の永田さんにとって今は一休みだろうと。

 それは違った。「今月、地元のふるさとまつりで披露するんだ。市の広報で出演者を募集していたから応募した。体は動くし今でも練習しているから、声はテープで。芸を披露したい一心でね、長年かけて身につけたものだから」。誰ができないと決めたのだと頭を殴られたように自分の思い込みを恥じた。筆談の文字がすごく美しく見えた。


 「(なかなか発声が上達せず)辞めてしまう人も多いけど、自分は気長にやってる。時間はかかっても少しずつ上達しているから」。発声に限らず、もし何かに取り組み他人と比べて焦ってしまう人がいれば永田さんの姿勢は学ぶべきところが大きいだろう。

 「欲を言えば切りがないからね。その範囲で生きていく。すべては命あってのこと」。自分のペースで自分ができることで日々を全うする。そんな永田さんの態度から学ばせていただいた。


▷ 銀鈴会


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