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あの頃の「プロトタイプする暮らし」#1 九谷焼作家・早助千晴さん

「プロトタイプする暮らし」をコンセプトに、住みながら/いつかやりたかったことを/試せる賃貸住宅が2023年7月に品川区・戸越にオープンします。

今回から自分の好きなこと・得意なことに向き合いながら「プロトタイプする暮らし」を実践してきた“先輩”の声をお届けしていきます。

まず取材チームが訪れたのは、気鋭の九谷焼の絵付作家である早助千晴さんがグループ展に参加する新宿のギャラリー。鮮やかな色彩が特徴である九谷焼のなかでも、早助さんの作品は、緻密で繊細な美しい線と、ふんわりと優しいロマンチックなブルーの色彩が特徴です。早助さんの作品は人気で、早朝から抽選販売に並ぶ人もいるほど。そんな早助さんは、かつて自分の夢をかなえるために、仕事と暮らしを“プロトタイプ”してきたのだそう。新しい一歩を踏み出した“先輩”である早助さんにお話を伺いました。


早助千晴(はやすけ・ちはる)
1989年兵庫県西宮市生まれ。2013年同志社大学神学部神学科卒業、2013年ワイン専門商社入社、2016年退社。 2016年京都伝統工芸大学校陶芸科入学、2018年、卒業制作が一般財団法人京都伝統工芸産業支援センター佳作に選出される(イタリアに出展)。卒業後、 中村陶志人氏に師事。受賞歴は2017年「京都わん・碗・ONE展~次代を担う若者の作品展~」優秀賞、 2017年第14回能美市術展大賞。現在は 石川県内にて作品制作を行う。

早助さんの制作の原点

ーー九谷焼とは石川県南部で生産される陶磁器で、鮮やかな色で絵画的な装飾が施される「上絵付け」が魅力で、茶碗のほか装飾品として古くから愛されています。現在、九谷焼作家として活動する早助さんは、どのようにして作家活動を始めたのでしょうか。

ワインの輸入会社に入社して、「ワインと食事の関係性」を考える機会が多く、器にも興味をもち、器を作ることにも携われたらいいなと考えていました。それで会社に勤めながら進路に関する情報収集をしました。私は子どものころから絵を書くことが好きで、ものづくりに関わることができたらと思い、海外留学をして美術の勉強をすることも考えたのですが、京都に伝統工芸を学べる学校を見つけました。それで会社勤めをしながら、美術の予備校にも通い、2016年に京都伝統工芸大学校の陶芸科に入学しました。

ーー会社を退職されたのですね。

そうですね。絵とものづくりを合わせたことを仕事にしたいと考えまして、陶芸の絵付けをやってみたいと思いました。陶芸科ではろくろをまわす授業や絵付けを学ぶ授業がありました。学びながら、絵を描けることに気づいて、陶芸と一緒に絵もできたら幸せだなと。

ーーもともと絵がお好きなんですものね。陶芸のなかでも「絵付け」だけをやられる方は多いのでしょうか。

産地によるところが大きいですが、九谷焼などの絵付けが華やかな産地では、生地を作る生地師と絵付師が分業制で作業している地域があります。

ーー九谷焼を目指されたのはどのようなきっかけがあったのですか?

京都伝統工芸大学校に通っているときに清水三年坂美術館でアルバイトをしていまして、館長に九谷焼を代表する画法「赤絵細描」を教えていただきました。すごく緻密で、美しい世界に魅せられてしまいまして…。そこから九谷焼に興味を持ちました。

ーー早助さんの作品は「青」のイメージもあります。

私は「青」が好きです。大学では神学部に通っていまして、キリスト教やイスラム教、仏教などの宗教の比較研究を学んでいました。なかでもイスラムのブルーモスクが美しくて、ブルーモスクのような雰囲気の作品を作れたら素敵だなと思っていました。九谷焼を知ったのは「赤」がきっかけでしたが、自分で作家活動をするにあたり「自分だけの作風を確立したい」と思い、青を使っています。

早助さんの作品「星華 飾壺」。うっとりするほど綺麗。

手探りではじめた二足のわらじ

ーーそれで九谷焼の本場である石川県に行かれるのですね。

2018年に石川県に移り、中村陶志人先生のもとでアシスタントをしていました。当時は、日中は先生のところでアルバイトをして、帰ったら自分の作品制作をする、という生活でした。駆け出しのころは自分の作品一本でやっていけるのか心配でしたので、前職で勉強したワインと九谷焼を合わせたことができないかなと思い、ワインツールブランドも設立しました。「作家」と「ワインの九谷焼きブランド」という二足のわらじで進めていくことになりました。

ーー二足のわらじという「プロトタイプする暮らし」をするうえで、苦労したことはどんな点でしょうか。

石川県には縁もゆかりもなく……。伝手が何もないなかでいきなりブランドを立ち上げたので、工場を探したり、工業試験場を利用したり、自分で飛び込んでイチから人脈をつくることが大変でした。

ーー現在はどのように街の人とつながっていますか。
石川県の地域にある産業を活かそうと心掛けています。地域の「茶碗まつり」に出店したり、九谷焼を知ってもらうために市役所の方からのご依頼で、イベントで九谷焼ネイルをやったりしています。

ーーTHE CAMPUS FLATS Togoshiがある戸越でも、地域のみなさんを招いて九谷焼ネイルのワークショップや、ポップアップのショップをやってほしいです!

楽しそうですね。いろいろな場所で九谷焼を知ってもらえるきっかけになるといいなと思っています。

ーーTHE CAMPUS FLATS Togoshiでは「つながる」ことをサポートしていくのですが、どのように感じられましたか?

個人で築くのが難しいコミュニティの形成ができるため、新しく何かを始める方にとって有利になるのではないかと思います。たとえば、私がもし一人で東京で新しい事業を始めたいと思った場合、ふらっと行っても誰かとすぐにつながることは難しいと思います。この住宅はコミュニティを形成できるのがいいですよね。

ーー早助さんがブランドを立ち上げたとき、どんな人が周りにいるといいなと感じましたか?

ブランディングするときに、デザイナーさんや、撮影をしてくれるカメラマンさん、コピーライターさんがいたら、もっとスムーズに事業が進んだかなと思います。その点で言うと、THE CAMPUS FLATS Togoshiは、そういう方とすぐにつながれそうですよね。

ーー現在はデパートなどで出品すると初日に完売するほどと聞いています。九谷焼作家として独立し、作家一本の生活をしていらっしゃいますが、当時はどんなことに一番力を入れていましたか。

まずは存在を知ってもらわないと始まりません。現在はデパートへの出品などで、お客様に足をお運びいただけるようになりましたが、作家一本で生計を立てられているのは、この世界では運がいいほうです。

早助さんの作品「白波 香水瓶」。淡い色合いが本当に美しいです。 

自分の表現力を高める場所にできたら

ーーもし早助さんが入居したらどのように使いたいですか?

思いがけない新たなインスピレーションがあれば、自分の作風も広げられますので、私が駆け出しのころにTHE CAMPUS FLATSがあったとしたら、学生時代に取得した「ワインエキスパート」の資格を活かして、Studio07「スナック」を利用してみたいですね。制作が落ち着いている時期にワインバーを開いてみたり……なんていう使い方をしていたかもしれません。
 
ーー資格も活かせるわけですね。
 
たくさんの方の経験や人生観を吸収することは、自分の表現力を高めるための大切な要素だと思います。と、作品づくりのためと言いつつ、そんな使い方が当時できていたとしたら、もしかするといまはワインバーの経営者になっていたかもしれませんね(笑)。
 
ーーいろいろな可能性が引き出せそうです。

あとはStudio08「ポップアップ」を活用して、気軽に個展を開いてみたかったですね。あとは住居の隣の「アトリエ」を借りれば、生活空間と分けることもできます。いまは九谷焼の産地にある自分の工房に引きこもって、黙々と作業するだけで1日が終わります。ですから、新しい何かに発展するようなプロダクトをつくるのが難しいなと感じています。なので、もしTHE CAMPUS FLATS Togoshiに入居したら、入居者のみなさんと触れ合うことで、新しいことが生まれるのではないかなと思います。いろいろなサービスが整っているのもいいですよね。

ーーフードスタンドもありますし、自炊をしなくても大丈夫です。

私は、工房でアシスタントをしていたときのお休みは平日1日だけだったので、その日に打ち合わせを詰め込んで、自分で車を運転して100キロくらい移動していました(笑)。本当に時間がなくて。だから時間を捻出できるのはいいですよね。何かを始めるときは、どれだけ使える時間があるかが重要だと思います。

早助さんの作品「鱗 盃」。淡い水色や青が綺麗です。

やりたいことがあればいつでも飛び込める

ーー料理・洗濯・仕事など暮らしを支える共有設備やスペース、サービスが整っていますし、居住空間と制作場所が近くにあることで作品づくりにより集中することができるのは、これから何か新しく始めたい人にとってはとてもいいことですよね。

私はいい作品を作るために、インプットの時間をたくさん取ることが大事だと思っています。いろいろな経験をしてきたからこそ、いろいろな表現ができるようになる。年齢は関係なく、やりたいことがあればいつでも飛び込めるので、迷っている時間も大切で決して無駄ではないけれど、飛び込んでみることは大事だと思います。

ーーこれから新しいことに挑戦される方に「プロトタイプ」してきた先輩としてメッセージをお願いします。

何か新しいことをやりたいけれど、具体的には何をやりたいのかが決まってない方でも、入居することで出会いの化学反応が起こり、その方の才能が開花するかもしれません。私は仕事を辞めたり、いままで積み上げてきたものを捨てて飛び込むことしか選択肢がなかったのですが、THE CAMPUS FLATS Togoshiのような場所なら、仕事を続けながらでも模索することができます。やりたい気持ちが少しでもあれば、住んでみてもよいのではないでしょうか。

ーーありがとうございます! たくさんの人にチャレンジしてほしいですね。

(取材・文:野口理恵/写真:吉松伸太郎)


コクヨ プレスリリース

THE CAMPUS FLATS Togoshi公式ウェブサイト


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