“レストランは、ひとりひとりに丁寧に伝えることができるメディアだと思う” cenci 坂本健
結局、課題解決は人に任せていたら進まない
———東京発の「Chefs for the Blue」を京都でも立ち上げるにあたり、坂本シェフが中心に立ったと聞いています。その行動の原動力は何でしたか?
料理人は食材がなければ料理ができないし、レストランの経営もしていけないという事実があるなかで、僕自身、漁獲量の減少には危機感を覚えていました。でも正直、課題解決に関しては「できれば誰かやってくれないかな」ぐらいの気持ちがあったんですよね……。だって、店の仕事とはまるで別のことをやらなきゃいけないじゃないですか。
でも、2014年にお店をひらいてから7年経ち、順調に満席の日がたくさんあって、グルメガイドから有り難くもいろんな評価をもらって……。経験や年齢も重ねていくなかで「これは自分がやらないと」という当事者意識を持つようになったんです。課題解決は人に任せていたら進まないなと。
「チェンチっていいお店だよね」と多くの人に思ってもらってるからこそ、社会課題に向き合って、解決のためにいろんな発信をする立場に自分の店がならないといけない。そんな時、東京の「Chefs for the Blue」の活動を見聞きして、これは京都でもなにか行動をおこさなければと思って。シェフを集めて勉強会を開催しはじめました。
立場を越えてみんなが動き出すことが海の未来に繋がる
———海の豊かさを未来に残していくために、料理人はどんなことをすればいいんでしょうか?
勉強会で、海の現状をはじめて知った時は衝撃でしたね。「これってどうにかなるのかな、自分たちにできることなんてほとんどないんじゃないか」と暗い気持ちになった。
でも、行政、ベンチャー企業、昔ながらの漁師さん、いろんな水産資源に関わる人が講師にきてくれて、その人たちの話を聞いていると「まるっきり絶望でもないかもな」と思えてきたんです。僕たちが知らなかっただけで、環境に対してアクションを起こしている人がたくさんいることを知りました。
水産庁や漁業関係者だけではなく、料理人も、もちろんそれ以外の人も。みんなで一緒にやっていくことが必要だと思います。仕事や立場、年齢を横断して、意識を国のレベルで変えていかないと海の未来は変えられない。海には強い回復力があるからこそ、僕らがポジティブに動き出すことによって、資源が戻る魚種はたくさんある。
命を扱う業の深さがあるからこそ、レストランは世の中のことを伝えるメディアにもなれる
———坂本シェフが海のことをふくめ、知ったこと、学んだことをどうお店に活かしているのか教えてください。
「レストランって本当に業が深いな」とつくづく思っていて。いろんな生き物の命を断つということで仕事が成り立っているんですよ。だからこそ、その手前のところに対しての配慮を持っていないことが、とても恥ずかしいなと、僕の意識も変わってきました。
海の勉強をきっかけに、他のアクションにも変化が起きましたね。野菜クズを農家さんに返して土に還してもらったり、ゴミの捨て方も、より細かく分別するようになったり。
「レストランは業が深い」と言いましたが、それだけ幅広く社会に関わっているということでもあります。いろんな生き物の命、つまり食材を扱うので、必然的にいろんな生産者さんも関わってくる。だからこそレストランは、メディアとしての立ち位置もあるなと最近すごく思うようになっています。
一応、cenciはイタリア料理のお店ではあるんですけど、厳密にイタリア料理であることにこだわりすぎないようにしています。自分が出会って興味をもったいろんな土地の料理を、身の回りの食材に置き換えて「あの味わいに何と何を合わせるとおいしくなるのかな」みたいなことを日々掘り下げています。その発見や研究を、お客さんにシェアするみたいなことがおもしろいんですよね。
そうやって料理を提供して「おいしい」って思ってもらった時に「こういう環境でとれる食材です、こういう人が生産してます」などの食材に関する情報を、お客さんにつなげることができるとやっぱり楽しいです。うちの場合だと、毎日満席なら、1日あたり40人から50人のお客さんが来てくれることになります。年間だと1万2000人くらいにはなる。
そんなに大きくない店であっても、おいしい食を通じて世の中の情報を伝えていくという、ひとりひとりに丁寧に伝えるメディアとしての効果があるのかなと。
世の中の役に立ちながら、ポジティブに世の中を変えていく。レストランだからできることがある
———大変な現状の海ですが、「THE BLUE CAMP」では参加者のみなさんにどんなことを持ち帰って欲しいですか。
いまの世の中、いろんなネガティブな情報が出ていますが、前向きな気持ちで取り組むことが重要だと思っています。海の現状が大変なことは事実でも、おもしろさや楽しさを持って活動していくことが大事。
料理人の仕事やレストランという場所もそうです。仕事をする、働く、ということのなかに、新しいものを生み出すおもしろさとか、人に喜んでもらいながら世の中の役に立つ楽しさとか、ここでしか感じることのできない、いろんな達成感がたくさんあるんです。
自分達の行動で、ポジティブに世の中を変えていけるんだという気づき。「THE BLUE CAMP」を通じて、そういうことを知ってもらえたら嬉しいですね。
(photographs by Kaori Yamane/ text by Yasuko Hirayama)
↓今回のインタビューのダイジェスト動画です
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