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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (51) The Lake District, Cumbria

London School of English での英語コースが終了し、大学でのサマー・スクールが始まる前に、“Peter Rabbit” や “Jemima Puddle-Duck” のお話で世界中に知られる Beatrix Potter が愛した地、イングランド北西部 the Lake District (湖水地方) へ小旅行をすることにした。
ロンドンから片道約4時間の鉄道の旅。 気ままな一人旅なので、宿泊はホテルではなく、民宿タイプの Bed & Breakfast (B&B) にしようと、まずは、Gower Street の University College of London 近くの大きな書店 Dillons で、情報誌に紹介されていた本 ”The best bed & breakfast” を購入する。
 
※Dillons は、1998年の買収によって Waterstone’s となっている。

部屋の写真や紹介文を参考に、あれこれと考えた末、British Rail のWindermere 駅近くの ”The Archway Guest House” に決めた。 家族経営で、部屋の雰囲気も居心地が良さそう。
さっそく、空室の問い合わせと予約の電話をする。
「二泊で£50。 £15のデポジットを送って下さい。」と言われたので、翌日、手紙を添えて小切手を郵送した。
数日後、B&B のビジネスカードを添えた a booking confirmation letter が届いた。

現在ほどインターネットも普及していない頃のこと、こういう時間と手間のかかることも、当時は旅の計画をする楽しみの一つだった。

The Lake District (湖水地方) は、イングランド北西部 Cumbria の美しい湖と山々からなる風光明媚な地域で、1951年に国立公園に指定された。
西側は the Irish Sea に面し、中央を南北にイングランドで最も高い山といわれる Scafell Pike (978m) を含むカンブリア山地が連なる。山々の間には、氷河の浸食作用によってできた細長い16の湖があり、その中でも Lake Windermere はイングランド最大の湖で、幅1.6km、長さ17km、面積16.8m2、最深部は67mで海面下28mに達する。

カンブリア地方には、5000年ほど前から人が住み始めたといわれ、それから Celts、Romans、Angles、Vikings がやってきた。 先史遺跡、ローマ人住居跡、古城跡も多く残る。
“Cumbria” という地名は、古ウェールズ語 “Cymru” をラテン語にしたもの。
“beck” (stream)、“dale” (valley)、“gill” (gorge)、“mere” (lake)、“tarn” (lake)、“fell” (mountain)、 “force” (waterfall)、“-thwaite” (clearing) など、多くの名称にそれぞれの時代の名残りが残されている。

18世紀以降、鉄道や道路の敷設により、多くの人々が訪れるようになり、英国を代表する観光地、保養地になった。
美しい湖と山谷の風景は、多くの文人や芸術家を魅了し、William Wordsworth や Samuel Coleridge は、”Lake Poets” (湖畔詩人) と称される。Beatrix Potter は、夏になると家族と共にロンドンからこの地を訪れていた。 後に湖水地方へと移住した Beatrix Potter は、私財を投じてこの地の環境保護に尽力をつくす。
彼女の遺志により、彼女の所有する全土地と家屋は the National Trust に寄贈され、保存・管理されている。

Windermere は、ロンドンから湖水地方への拠点となる町。
Windermere へは、London Euston Station から Oxenholme でローカル線に乗り換える。
所要時間は、約3時間半から4時間。 遅い朝食をとった後、サンドイッチとスナック、飲み物を用意して Euston Station へと向かった。
窓口で、往復の切符を購入。
ロンドンを出発して1時間もしないうちに、なだらかな緑の丘陵が続くカントリーサイドが見えてきた。
湖水地方へ旅行するのは初めてのこと。 駅に到着するたびに、レイル・マップで今どのあたりに来ているのかを確認した。

Oxenholme でローカル線に乗り換えて、Windermere に到着。 
日本から持ってきた『地球の歩き方』に載っている地図に従って、駅から左に下っていくと、Tourist Information Centre があった。 
“Windermere and Bowness” のマップ(75 pence)を買い、翌日のミニバス・ツアーを予約する。
Lakes Super Tours の Full Day Tours の中から “Beatrix Potter's Lakeland and Dove Cottage” (£19) を選択してツアー代を支払った。

宿泊先の the Archway Guest House は、Tourist Information Centre から Victoria Street を下り、教会を通り過ぎた College Road 沿いにあった。      駅から歩いて10分ほど。
ヴィクトリア様式の石造りの家に30代のオーナー夫婦と10歳くらいの女の子が住んでいる。
私が二泊するシングル・ルームは Attic (屋根裏部屋)で、隣にシャワー・ルームがあった。
屋根裏部屋といっても一人には十分な広さで、小花の壁紙もかわいらしい。部屋には、小型テレビ、湯沸しポットとティー・セットも完備している。
トート・バッグを部屋に置いて、身軽にしてから食事に出かけた。 駅からすぐの High Street にはカフェやレストラン、ショップが並んでいて、多くの人々で賑わっている。

翌朝、階下のダイニング・ルームに降りていくと、ランドレディーが朝食の用意をしていた。
ダイニング・ルームの設えは、”The best bed & breakfast” に載っていた写真のとおりで、暖炉の傍には深紅の古いアームチェアが置かれている。
トーストするパンのいい匂いがして、女の子もヨーグルトを運んだりと、お手伝いをしている。
私の他にも宿泊客がいるようだが、まだ、降りてきていないようだ。
ゲスト・ハウスのフル・イングリシュ・ブレックファストを楽しんだ後、ツアーの集合場所、Windermere Hotel へ。

参加したツアーは、10人ほどの小さなツアー。日本人は、私の他に母娘で参加している2人がいた。
朝9時半に出発したツアーは、Beatrix Potter が住んだ Hill Top と Hawkshead のギャラリー、Wray Castle、Tarn Hows、Newlands Valley、Derwentwater、Keswick、そして、Grasmere の William Wordsworth ゆかりの Dove Cottage を巡り、パブでランチをした後、トレッキングや Derwentwater でのクルーズを楽しんで、夕方、Windermere へと戻ってきた。

夏休み前で、混み合っていなかったのがよかった。
Beatrix Potter が住んだコテージがある Hill Top のショップでは、「夏になると日本人の団体が大きなバスでやってくるよ。」と言っていた。

1893年9月4日にビアトリクス・ポターが友人の息子に宛てた絵手紙が原型となり、1902年、『The Tale of Peter Rabbit』が出版された。 ピーター・ラビット・シリーズの累計発行部数は、全世界で1億5000万部を超えるといわれる。
日本でも1918年に初めて翻訳され、それ以来、日本でも、大人気のピーター・ラビットのお話しだが、その舞台として知られるイングランドの湖水地方を訪れる日本人観光客に地元の景観保全のために£5の寄付金を求められることになった。この取り組みは、日本の旅行社が湖水地方ジャパン・フォーラムに提案して始まり、寄付をした人には特製バッジと証明書が贈られるそうで、これまでに、3,200人が寄付をしているといわれる。

翌日、朝食を済ませた後、フットパスを辿ってゲストハウス裏の高台へと上っていった。ロンドンへ戻るには、まだ早い。食後にはいい運動だ。
目の前には、なだらかな緑の丘陵がどこまでも続いていた。

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