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『のぼせ』を終えて~2020年を終えて~


 ここのところ、長風呂が日課となりつつある。
 師走に入って一気に寒さが厳しくなり、加えてバイトも毎年恒例の年末進行で残業の毎日となれば、身体にも否応なしに疲れが溜まってしまうもので、それを少しでも癒やす手段として始めたのだが、これがなかなかどうして癖になってしまって、今では一時間近く入るのが当たり前になってしまった。

 40℃前後の温度にしてから入浴剤を混ぜて、防水ケースに入れたスマートフォンと蓋に置いて、肩までのんびりと湯船に浸かる。そしてスマートフォンで海外ドラマを視聴したりやDLした小説を読みながら、空いた両手で脚や背中を揉み解してやる。蓄積していた一日の疲れもたちまちお湯の中に溶け出していく。その何ともいえない心地よさは、仕事で忙殺される日々における唯一の至福の時間だ。

 もっとも、最近は疲れ以外のものも溶け出してしまっているような気もするのだけど。

 気が付けば、今日で2020年も終わりを迎えようとしている。
 本来ならば東京五輪を始め様々な事が起きたであろう一年も、年初に突如現れた未知なる存在によって世界中の人々が引きこもってしまうという、前代未聞の一年となってしまった。
 祝日の日中にも関わらず伽藍堂となったアメ横の街並みを、未だに鮮明に覚えている。お店の多くがシャッターを閉め、外国人観光客も昼飲みの人々も見かけない。せいぜい見かけたのは、当時まだ品薄だったマスクを『50枚入り1980円』という手書きの値札と共に飲食店の前で販売する方のみ。たまに映画などで無人の繁華街などのシーンを見たりするが、それに近しい光景をまさか現実でお目にかかろうとは思いもしなかった。『事実は小説より奇なり』とはよく言ったものだ。


 さて、すっかり更新の途絶えてしまった僕のnoteたが、ここ数ヶ月の間何をしていたかというと、特に何も変わらなかった。いや、正しく言えば何も変えられなかった。
 右肩上がりする罹患者数によって、秋から予定していた一人旅のプランは軒並み白紙に。それどころか酒蔵見学や飲食店に向かう事すらままならず、結局家と職場を往復し、時たま小説を読み書きしたりゲーミングPCでPUBGやAPEXをプレイする……そんな平々凡々とした日々を送るばかりだった。

 とはいえ、結局変えられなかった一番の理由は、何より僕自身の中にある諸々の熱が冷めてしまったところに尽きるのかもしれない。
 平日は家と職場(+スーパー)を往復し、休日も周辺をランニングする以外は基本自宅にこもりきり。外部からの刺激を失った日々を重ねるにつれ、何かに挑戦しようというやる気の炎も少しずつ、それこそ僕が自覚しない程にひっそりと鎮まってしまったように思える。

 そういう意味では、僕にとってこの一年は『のぼせ』の終わった一年だったとも言える。
 就活に失敗して(半ば自ら白旗あげたのだけど)から十年弱。三十代も半ばに差し掛かっても尚抱き続けてきた物書きや創作に対する情熱が冷めていき、目の前の日々を淡々とこなす事にささやかな幸せを覚えるようになってしまった、そんな2020年だった。

 否、本当はとうの昔に冷めていたのかもしれない。
 小説家やシナリオライターになりたい――そんな現実逃避という名のぬるま湯に長く浸かり過ぎてしまうあまり、自分でもその湯船が冷め切っている事に気付かなかっただけなのだと思う。
 そう、今浸かっているこの追い焚き済みの湯船みたいに。まさかこの文章を書くだけで二時間近くも費やすとは思わなかったよ。こりゃ完全に失ってますわ、文章力。


(次回に続く。次回の記事はコチラから)


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