見出し画像

2023/5/16 ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》

今日はルノワールについて書きたい。ルネサンスの次が印象派ってあまりに王道すぎてどうよ……みたいな気持ちにならないわけでもないが、ルノワールもまた私にとって大切な作家なので、お付き合い願いたい。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》1876年 オルセー美術館

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》1876年 オルセー美術館

ルノワールと私の大きな共通点は2つある。まず誕生日が一緒。そして芸術に対する考え方。
ルノワールがまだ画学生だった頃、画塾の師であったグレールに「楽しくなかったら絵なんて描かない」とのたまったそうだ。世界には辛く悲しいこともたくさんあるのだから、せめて芸術だけは明るく楽しくというルノワールの信念は、彼の作品に一貫する明るさに表現されていると思う。

この《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》にもその明るさは表現されている。柔らかな木漏れ日の下で軽やかに楽しくダンスを踊る人々。生活の中の忘れたくない一コマを、ルノワールは愛を込めて描いている。
このような絵を描く画家なだけあって、ルノワール自身陽気な性格で周りから愛されていたそう。この作品のモデルもほとんど彼の友人たちで構成されているので、交友関係の広さが伺える。

この作品、2016年に国立新美術館で開催された『ルノワール展』のメインとして来日していたので、見たことのある人も多いかも知れない。あの展覧会は来場者もなんだか楽しそうで、混んではいたけどそれこそ舞踏会のように心地よい人混みだったと記憶している。ルノワールの作品が今も多くの人に愛されるのは、絵から伝わる楽しさに由来しているのかも知れない。

現代に近づくに従って、作品は具体的なモノを描かなくなったり、社会に問題提起をする装置として作品を利用する傾向が強くなる。抽象画やソーシャリー・エンゲイジド・アートと呼ばれるような分野がこれに当たり、これらについては作品が扱う問題や作家についての知識、作品の置かれている文脈の把握が必須で、一目見ただけではよく分からなかったりする。現代アートなどを指して「芸術は難しい」と言われる所以である。

私は美術史を勉強して、各作品に存在する文脈や歴史的背景を研究するようなことをずっとしてきた。もちろんそういった行為や社会に問いかけるような作品がとても大切だということは重々承知の上でやはり、「世界には辛く悲しいこともたくさんあるのだから、せめて芸術だけは明るく楽しく」あってほしいと願ってしまう。
ルノワールの作品にだって文脈や社会的な背景がないわけじゃない。《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》に登場する友人たちとの関係や、彼らが着ている服装、ルノワールの生涯、そもそも印象派が登場した背景など知っているとより作品を深く楽しむことができる。それでもなお一見しただけで誰もが「楽しそう」と思える作品だって必要なのだ、と思う。

抽象画や社会と深く関わってるアート作品も大好きで展覧会にも足繁く通うけれど、悲しいニュースの多い昨今、ただ感じるままに「きれいだな、美しいな」「楽しいな」と思うことも大切なことであり、それもまた芸術に許されている権能なのではないかと考えている。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?