さんきゅう倉田の地球も申告も青かったその7

税務調査というと、納税者の方からしたら迷惑千万の悪質なイベントかと思います。優しく対応してくださる方もたくさんいますが、敵対的な雰囲気を醸す方もいらっしゃる。

調査担当者からすると、不正や誤りには毅然とした態度で臨みますが可能な限りは仲良く穏便に済ませたい。
調査先や税理士の先生を怒らせたいと思っている担当者はいません。ただ、テクニカルな指摘やパワー系の調査手法で怒らせるのは、仕方のないことだと考えています。それが調査の上で正しい行動だと考えているからです。
でも、それ以外で憤慨させたり不快にさせたりするのは間違っている。調査担当者の中には、大学を卒業したばかりでお箸持つ手もお茶碗持つ手も分からない者や、上席の書類に「OK」とスタンプを打つような者もいいます。悪気はないけれど調査先で失礼な態度を取ることもあるでしょう。ぼくも気づかないだけで、たくさんの失態を犯していたかもしれません。記憶にあるのは、7月の厳しい暑さの中、冷房をつけてもらえずに調査をしていたときに、下敷きでずっと顔をあおいでいたことです。
無意識にやっていましたが、社長や先生は「若いなあ」などと悪い印象を持ったかもしれません。でも、向こうは半袖のポロシャツなのに、こちらは3シーズンのスーツです。汗が総勘定元帳に垂れないように注意しながら、ページをめくっていました。そういう地味な意地悪に耐えながら進めるのが税務調査なのです。
向こうから意地悪されることがあっても、こちらから積極的に不快にしようという意思は職員にはありません。基本的には、ちゃんとした人間の集まりのはずです。
ぼくが公務員試験を受けることにしたのは、大学生の時のファミリーレストランのアルバイトにいた主婦やフリーター、店長が休憩中に他のアルバイトの悪口ばかりを話しているのを聞いていて、なんて不毛な職場なんだ、僕の居場所はここではない、ぼくはもっと賢くて、ちゃんとしていて、時間を大切にする人たちと働くのだ、と考えてのことです。
事実、国税局では人の陰口を言うような愚かな人間とは出会いませんでした。同期も先輩も上司も、みんなぼくより賢くて、優秀な人間でした。

賢い人というのは、社会における平均的な常識やマナーを習得している可能性が高く、みな“ちゃんと”していました。
ただし、納税者の方の気分を損ねない工夫ができるかは、各々のホスピタリティに因ります。ぼくも可能な限り気を使っていました。
例えば、大雨の日は、電車やバス、徒歩で調査先に向かいます(まさか、タクシーで向かっていると思っている方はいませんよね?)。

どんなに大きな、パラソルくらいの傘を差していても、足元はびしょびしょです。革靴に染み込んで、靴下は水を吸ってしまう。
調査場所が、オフィスであれば良いけれど、社長の自宅だった場合、びしょびしょの靴下で家に上がることになります。まさか、家庭訪問みたいに玄関に腰をおろして話を聞くわけにはいきません。
ぼくのできる配慮としては、靴下を用意して、玄関で履き替えることでした。常に、新しい靴下を鞄に忍ばせ、急な雨にも対応できるようにする、小さな努力です。

そういう工夫を行なって、トラブルを減らす努力をしていました。

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