Nervous Fairy-5 "既知無知"
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「なあ」
「何?」
少しの間お互いに無言で食事をしていたら、あたしが半分くらい食べ終えた時に篠倉から声をかけられた。
「……これじゃ一緒に食べてる感がないんだけど」
「…まぁ、そうだね」
「しかもこっちに背中向けてるしよ」
何が不満なのか、そんな感情の乗った声が届く。
「……だって机がこの向きなんだもん。仕方ないでしょ」
「クッションもう一つあるよな」
「…何が言いたいのかはっきりして」
「新刻もこっちで食わない?」
「なんで」
あたしは露骨にイラついたような声で答える。
「いや、せっかく入れてもらったし。なんか話そうよ」
さも当たり前のことのように篠倉が提案してくる。
「……うーん」
「何」
「学校の昼休みしか人と食事なんてしないからなんか…」
「…じゃあ、いいや。このままでも。背中越しでも話はできるしな」
「…」
あたしは少し考えあぐねる。強引に黙らせてしまったような感じがしたのと、気を使わせてしまったような感じがする。確かに、やつは無理やり張ってきたわけではない。あたしが鍵を開けたからなのだ。
「…もう少し、慣れたら」
そう言って、残り2個の唐揚げの一個を半分齧って、ご飯と一緒に頬張る。
「そっか。それはどうも。でさ、さっき言いかけたことなんだけど」
「うん」
「俺さ、そこの道毎日通るのよ。通学路だし、予備校もあるし、コンビニ行くにもここ通る」
「そうだったんだ」
「そうなんよ。新刻だって通学路だろ?」
「もちろん」
「俺んちって、新刻の家より遠いからさ」
「うん」
「学校帰り、駅前とかで用事済ませてから帰るのね?」
「うん」
「そんでこの前さ、本屋だったかな。で、お前が売ってる服着てる人見たことあるんだ」
「……え!?」
あたしは思わず立ち上がって振り返った。
「本当に!?」
「お、おう。そりゃ、売れたら着てる人はいるわけじゃん」
篠倉がやけに驚いた表情を浮かべていた。あたしの反応がそんなに意外だったのだろうか。
「…って言うかなんで私が自作の服売ってることを…」
今更そもそもの疑問にぶち当たる。さっきも販売の件には触れていたのに、状況に流されたのか詳しく聞いていなかった。
「え?あ、ああ、そうか。新刻アプリでやってるじゃん?あそこ俺よく見ててさ。そしたら、よくみる柄の服売ってる、どこで見たんだっけ?って思って、夜ここ通って気づいたんだよ。ああ、新刻もそゆことやってんだって」
「……新刻、も?」
「俺もやってんだよ。ほら、これ」
そう言って篠倉は、食事の手を止めて向き直っていたあたしにTシャツの中に入れていたペンダントを見せてきた。
「え?それって?」
「自作。ハンドメイド」
「……へぇー」
意外すぎた。あまりにも意外で素が出てしまった。
「…ちょっと見せて」
「いいけどその代わりそっちも一個見せて」
「うん」
夕食を誰かと食べることも三年以上ぶりなのに、初めて他人に自分がやっていることを知られてしまった。というか知られてしまっていた、か。
本当に、なんなんだ今日。