#WhiteRoom;Alpha:"紡"-8


@EiGht

 部屋を出た蓮宮は、朝霧を促しながら廊下を並んで歩いていた。
「ほんと、蓮宮くんて甲斐甲斐しいですよねぇ」
「そんなことないですよ。それを言ったら、朝霧さんの方こそじゃないですか」
 朝霧の少しリラックスした口調とその言葉の内容に、蓮宮は緊張感を解いてそう答える。
「いやいや。私のは、蓮宮くんご存知の通り、ちょっと面倒なだけですから」
「やっぱり、そんな風にあっけらかんと言えるの珍しいですよね。引け目を感じる人も多いのに」
「あ、偏見」
 少しおどけた様子で朝霧が蓮宮の顔を覗き込む。
「あ、いやだって実際」
 そんな様子に少し身を引きながら蓮宮が言う。
「あはは。冗談ですよ。確かにそうですね。まだまだマイノリティですから。私みたいな同性愛者は」
「ほらまた。はっきり言う」
 姿勢を戻しながら蓮宮が答えた。
 朝霧は、親しい人間には告白していた。自分が、同性しか恋愛対象にならない同性愛者であることを、だ。しかもその対象が、対面するときほぼ常に蓮宮を横に置いている杜乃 天加であるがゆえに、蓮宮はそのカミングアウトを一年ほど前に耳にしていた。何お抵抗もなかった蓮宮の態度に、こう言った二人で話せるタイミングが訪れると時折そう言う話になる。今日は差し入れまで持ってきたほどに杜乃の気を引いていたように見えたから、蓮宮は送りに行くタイミングでそんな話になるのを、何となくだが予感していた節があった。
「だって、仕方ないじゃないですか。本人には伝えたことありませんけど。それに生まれてこの方ずっとそうなんですもん。男の人に恋したことない」
 これも、最初のカミングアウトの時に耳にしていた。最初から、自分が普通と違うなどと思ったことがない。これが、私の普通なんです。と。ただ、女性として世間一般の普通が、異性に恋することであるのも知識では理解しているから、言いふらしたりはしないし、そんなふりをしていることも。
「吹っ切れてるよなぁ。尊敬しますよ」
 蓮宮のその言葉は、かなり本気だった。
「そんなことないですって。私にとっては、これが世界の通常なんです」
「そんな風に言い切れるのもかっこいいし」
「そんな風に言ってくれる蓮宮くんは男の人の中では素敵だと思いますよ。こんな風に話せる男の人、私の知り合いにはなかなかいませんし」
 朝霧の気を使ったような表現も言葉も、本気だった。
 そしてその時に、だから杜乃の気持ちもわかる、と言う言葉を飲み込む。
「それ、杜乃の影響ですよね」
「それはなくもないですって。杜乃さん、蓮宮さんのこと好きすぎです」
「僕は、別に望んでないですけどねえ」
「いろいろ知っているので仕方ないと思いますけど、贅沢だなぁ」
 そんな会話のうちにエレベーター前に辿り着き、階下へ行く起動を洗濯してボタンを押す。
 エレベーターの起動は、3階からだった。
「あ、ところで今回の件、どう思いますか?」
 朝霧が、蓮宮に問いを投げる。
「んー。まだ考えあぐねているところがあるので、少し杜乃とすり合わせたらお伝えします。一個人が、捜査一課の刑事さんに意見できるところは今の所ないかと。明日もいらっしゃいますか?」
「謙虚!そうですねぇ。ケースがスタートしてしまいましたので、おそらく伺うことになるかと」
「殺人事件なのに、なんか嬉しそうじゃありません?朝霧さん」
「だって、杜乃さんに会えるし」
「やっぱり。まあでも、おそらくここから構文脱稿までは連絡を密になることになると思うので、よろしくお願いします」
「いえいえ」
 そこで、エレベーターが到着を告げる。
「どうぞ」
 蓮宮が先に乗車し、開くボタンを押して促した。
「ありがとうございます」
 朝霧が礼を言いながら蓮宮に続いた。
 安全であることを確認して1回のボタンを押して、その上で閉のボタンを押す。
「ここなら、誰にも聞かれません。到着するまで、ぜひ蓮宮くんの解釈もぜひ一言聞いておきたいんですけど。あくまで参考までに」
 朝霧が、先ほど蓮宮の断った話題に食い下がった。
「んー…そこまで言うなら、一言だけ」
「はい」
「今回のは、僕が割と苦手な分野じゃないかなと。朝霧さんならわかると思いますが」
「……流石ですね。杜乃さん」
「やっぱり感づいてますか」
「はい。さっき、帝智教授に電話している時に」
「でしょうね。でも、それなら、ある程度的はあっているのかも」
「期待していますよ、バイスタンダー」
「買い被らないでくださいよ」
 その時、エレベーターが1階に到着した。
 そこからは最後の挨拶のみで、エントランスを蓮宮が認証を得て開き、朝霧は一礼して去っていった。
 残った蓮宮は、エントランスが閉まりきった後でセキュリティが復帰するのを見届けて、踵を返す。
「傍観者、か」
 エレベーターは他階に呼ばれておらず、上階行きの命令を出すボタンを押すとすぐに開いた。
「さて。やりますか」

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw