色彩の権利{R/G/B/A:1.0.2}

{R/G/B/A:1.0.2}

 篠坂明吏と天崎奏慧は、中学2年に進級した時のクラス再編で初めて同じクラスになったことがきっかけで出会ったと言って差し支えないだろう。出席番号でソートされた席順で新学期が始まったのだが、当時の担任が天然なのか、特殊だったのか、はたまた馬鹿だったのかはわからないが新学期初日、担任の自己紹介の直後に「出席番号順に並ばれてると席の位置で名前覚えちゃって顔と名前一致させられないから、もう席替えしちゃうねー」と言う一言で中学2年の初日が始まり、その結果窓際列最前で2コンボを決めたのが明吏と奏慧だったそれをきっかけに2人が知り合うことになった。ちなみにその時、都と明吏、更叉と奏慧はとっくに友人であり、都と更叉が別クラスで一緒だったこともあって、都は明吏が奏慧と知り合ったことにより更叉と、更叉も同様に奏慧から明吏経由で自然と4人の輪ができていった。そう言った流れもあり、明吏が奏慧の自宅に訪れる機会は過去に何度かあった。多くの機会は4人だったけれども。
「んじゃ、久々にお邪魔しまーす」
「…そういえば高校入ってからあんまりきてないかもね」
「そうなんだよな。なんでか知らんが」
「部活あるからかも。前はうち来る時大抵放課後だったし」
「そうか。そこの時間の使い方が変わったのか」
「たぶん。まああってる量は変わってないからそうなんじゃないか」
「そうだな」
 玄関に入ると、奥からおかえりーと声が飛んできた。明吏も聞き覚えのある声は、おそらく奏慧の母親のものだろう。
「ただいま。あ、母、明吏がちょっとの間お邪魔します」と、奏慧が姿の見えない母親に簡単な状況を説明すると、リビングから廊下にひょいと顔を出した。
「あら、明吏ちゃ。久しぶりー。どうしたの?」
「帰ってきたんだけど、家の前まで来たら明吏が駅前に戻るって言うから、ボクも着替えて散歩がてら行ってくるから待たせようという魂胆」
「待たせようってあんた。言い方」
 と、母が指摘してるのを横目に奏慧は自室のある二階への階段を登っていった。
「でもいつも通りっすよ。丁寧な方が気持ち悪いっす」
 明吏はリビングに通されて、ダイニングテーブルの席についた。
「明吏ちゃ、いつも言うけど慣れちゃダメ。あの子あれでも女の子なんだから。あれじゃいつまで経っても彼氏の1人もできやしないじゃない」
「まあ、そうかもですけど」
 明吏が苦笑しながら答えると、母は何やら言いながらキッチンから暖かいお茶を持ってきてくれた。
「あ、どもです」
「いーえー。待たせてるのは我が子だしね。そういえば、結構久しぶりじゃない?うち来るの」
「ちょうどさっきもその話ししてました。高校入って、奏慧が部活入ってから、部室で会う機会の方が圧倒的に増えたせいかと」
「ああ、そっか。学校ではそうなのね」
「はい、相変わらずいつものメンツ、プラス先輩でほとんど毎日つるんでますよ」
「へぇ。あの子、変わらずそう言う話しないから。姉なんてこっちがもういいって言うくらい全部筒抜けだったのに。奏深のこと大好きなお姉ちゃん子のくせに、誰に似たのかしらねぇ」
「相変わらずっすね」
 返答したタイミングで天崎母もマグカップに何やら注いで、明吏の正面の席についた。
「放課後部ってことは知ってるんだけど、何してる部活なの?」
「ぶっ」
 明吏は驚いて危うく茶を吹き出すかと思った。4月に入部したはずで、もう12月も終わりに差し掛かっていると言うのに、そんなことも話してないのか。
「ええ!?それも聞いてないすか!?」
「うん。何にも。怪しいことしてたら呼び出されるだろうけど、それもないから心配はしてないんだけど」
「あーそうなんすね…僕部員じゃないけどまあいいか…」
「え!?明吏ちゃ、部員じゃないの?」
「正式には違いますよ。奏慧とか先輩に、部室行ける時は行かないと突っ込まれるの出入りしてるってだけで。で、えっと、一応お題目は「今しかない放課後を楽しむ」的なことです。なんで別に大会とかコンクールがある部活じゃないです。多分、日本中でもうちくらいじゃないですかね?放課後部なんて意味不明な部活があるの」
「…遊んでいるってこと?」
「まあ、広く括れば。でも真面目なことやる機会もありますよ?部活動禁止期間前のテスト対策とか。幸い2年の先輩、変人ですけど成績は優秀なんで」
「へぇ」
「今週金曜、クリスマスパーティやることになりまして、今日は昼からその準備でした。ご存知の五附と帝も一緒で」
「あ、なんか懐かしい。いつものメンツだ」
「ええ。あいからずです本当」
「そうなんだ。本当にわかんなくなっちゃってねぇ。反抗期なのかしら」
 そう言われて、明吏は少し違和感を覚えたが、よくわからなかったので口には出さなかった。
「かもしれませんね。ちょっと遅い気もしますけど」
「明吏ちゃは反抗期なさそう」
「自覚したことはないっす」
「でしょうねぇ。あ、ねぇ、25日さ、うちで姉一家も来てクリスマスパーティやるんだけど、来ない?」
「おっと!?マジすか!?是非にと言いたいところですが、今年はうちもやるみたいなんですよ。土曜日で、父も休みでみんな揃うってことで」
「あ、そっか。うちも合同でやるの、同じく旦那達が休みだからだもんね。そりゃそうか。ごめんごめん」
「いえいえ!誘ってもらえて嬉しいっす。あざっす」
 と、言ったところで明吏の背後の扉が開かれた。私服に着替えてバッグとコートやらを携えた奏慧が準備完了らしく降りてきたのだった。
「…明吏、時間大丈夫なんだよね?」
「あ、うん。なんで?」
「母、ボクもあったかいの少し飲んでく」
 と言いつつ、ソファに荷物を置いて明吏の隣の席に座り込んだ。
「はいはい。少しでいいの?」
「うん。半分くらいで」
「はーい」
 と、返事をして天崎母がキッチンへ向かった。
「…何話してたの」
「ん?ああ、別に。学校の話とかちょっと」
「ふーん」
「部活のことなんも言ってないのびっくりしたわ」
「…隠してるわけじゃないんだけどね別に。主張することでもないしなぁって」
「反抗期?」
「もう終わったそれ」
「やっぱか」
「やっぱ?」
「奏慧って、隠れ反抗期だったろ。受験期のー…
後半ぐらいから高校入ってちょっとくらいまで」
 と明吏が言うと、テーブルの上にあげた手指の先で、どこか手持ち無沙汰風にしながら、「……気づいてたのか」と、奏慧がどこか残念そうに答えた。
「やっぱり自覚ありか。なーんかあのへん変だったからな。受験のせいかと思ったんだけど、さっきお母さんが今反抗期なのかな、って言ってて、引っかかった」
「ふーん。なんか気持ち悪いな。篠坂明吏に見透かされてるみたいで」
「わりい」
「…別にいいけど」
 そこで天崎母がマグカップを携えて戻ってきた。
「はい、どうぞ。あ、奏慧駅の方行くんでしょ?ちょっとだけお使い頼まれてくれない?」
「いいよ。何?」
 と、そこで奏慧に注文がいくつか入る。スマホにメモってすぐに完了した。
 それから奏慧が飲み切るまで少し他愛もない話をして、そろそろ、と2人は玄関に向かった。
「お茶ごちそうさまでした〜」
「いーえ。気をつけてね〜」
「うっす」
「……へぇ」
 明吏が挨拶をした後で、天崎母は何かを確認したように、なぜか2人の方を見てニヤついている。
「ん?なんです?」
「いーや。なんでも。いってらっしゃーい」
 そう送り出されて、2人は揃って玄関を出た。外は、この時期にしては強いと予報されていた寒波は、学校を出たその時より勢いを増しているようだった。風こそ弱いものの、冬ならではの、ツン、と差すような空気が張り詰め始めているような感じを奏慧は覚えた。手持ちにしていたマフラーをコートの襟元に巻きつけた。
「おおう。結構寒くなってきたな。奏慧、大丈夫か?寒くない?」
「ボクより君だろ」
「僕は寒いの得意だし。男子の制服は結構あったかいんだぜ。スカートとは違うのだよ。ま、いざとなればマフラーもあるしね」
「巻かないの?」
「少し歩いてから考えーる」
「そう」
「知ってるだろうけど、僕歩いてるだけでも結構体あったまる体質だからさ。マフラー巻いて汗かいたらそれが冷えて余計に寒くなるんだよなぁ」
「あー。その理論は、うん」
「な」
 2人は並んで歩きながら少しだけ白くなる自分の吐息を眺めた。
「そういえば、明吏は駅前に何の用なの?」
「ああ。金曜の準備。真燈先輩からの指示じゃないけど、BGM用のコンピ探しに行こうかなと」
「わざわざお店行くんだ。配信じゃないの?」
「まあ、結局はサブスクで流すんだけど、ランダムに探す分にはCDショップの方がいろいろあって面白いんだよ。偶然の出会いみたいなやつ」
「ネットでもあるじゃん」
「そうなんだけど、ネットだと基本検索結果になっちゃうじゃん?そこでもう個人的な趣味とかでソートかかるから、なかなか守備範囲の外側にあるものとの偶然の遭遇、みたいなことなくてな。僕が探すの下手なのかもだが」
「…そうかもだけど、でも言いたいことはわかる。ボクも本とか服とかはそうかも。服ネットで買うの全然上手くできない」
「わかるー。あ、ついでに交換会用のプレゼントチラ見していこう」
「あ、そうだな。ボクも見よう。1000円以内だっけ」
「そう」
 そんな、何でもない会話が、歩みと共に途切れることなく続いていく。
「あ、そういえばさっき、25日の天崎家のクリスマスパーティにお誘いいただきましたえ。うちも父休みで今年は派手にやるみたいだからって断っちゃったけど」
「え。母誘ったのか。ちっ。余計なことを」
「そんなことないよー?ありがたいことですよ」
「まったく勝手に何やってんだ母め」
「まあ、お姉さんのところも参加って聞いたから、どっちにしろ今年はお断りしたと思うから気にすんなよ」
「…そう言うことではない」
「じゃなんだ」
「何でもない」
「そうか」
 明吏は、そんな風にぼんやりとしていてはっきりとしない、感覚優先のような不明瞭な断り方や否定をした奏慧は、いくら問い詰めても明確に答えないことを、3年近い付き合いの中で思い知っていた。特に中学3年生夏の時のことが思い出される。そんな奏慧の性格を完全に思い知った出来事があった。今だに原因も理由も不明な思い出で、それまでもその傾向はあったためそう言う性格なのだと納得して対応していたが、それ以降はさらに気にしないようにしていた。絶対に口を割らないし、詰めてもお互いに得もなければ、イライラして不機嫌になるだけだ。百害あって一利なし。そのモードに入ったら正解を踏んでも絶対にそうとは認めないだろう。奏慧のこの性格を突破することがとても困難なことは、明吏だけでなく更叉も、真燈も、都ですら理解するところになっていた。
「そういや、奏慧の目的は散歩だろ?お母さんのお使いはあるとして」
「うん。そうだけど」
「僕は予定通りCDショップ行くけど、奏慧どうする?」
「え?行くんじゃないの?」
「でも奏慧は用ないだろ?」
「あー。まあ、確かに。言われてみれば」
「僕は別にいいんだけど、ショップ行く?駅前まででじゃ、にする?」
「んー」
 明吏の指摘ももっともだった。そもそも奏慧自身は歩ければそれでよかったので、確かにお使いという目的が追加された以上それは果たすが、CDショップに行く必要性はないのは確かだ。しかし。
「…自分1人じゃ行かないから、折角だしボクもちょっと寄ってみることにした」
「もう決定なのね」
「邪魔?」
「いーや全然。なら一緒行くべ」
「うん」
 とりあえず一緒に行動することが決まった。果たしてショップに行くことが散歩に含まれるのかどうか、あかりには疑問ではあったが、本人が行くと言っているのだから止める理由もない。何なら試聴してもらって意見をもらってもいいかもしれない、と思う。
「ちょっと思いついたんだけど、モールに外国製のやっすい雑貨屋さんあるじゃん。半分ギャグみたいな」
「……あったっけ?」
「うん。そうか、あまりそう言うところ行かないか。うち母がそう言うの好きだから行く機会結構あるんだけど、そこ行ってみねぇ?交換会用のプレゼント、そこなら1000円以下でも面白いのいくつか買えそう」
「そうなの?」
「うん。50ページくらいの、ハードカバーの無地のノートが150円とかなのよ。シリコンコップ10個で400円とか。爆安。デザインも派手だし、交換会のプレゼントならおふざけでもいいじゃん?そう言うのには丁度いいと思うんだけど」
「ふーん。折角だし、行ってみたこともないから行こうか」
「よし。あ、でもお使い、時間平気か?」
「連絡してみる」
「おう」
 すると奏慧はスマホを取り出して母親に帰宅希望時間の確認のためにメッセージを作る。
 送信し終わった頃には、もうCDショップが見えていた。その足でそのまままずはCD選びに入る。時期が時期だけに特集コーナーがデカデカと設置されていて、多くのクリスマスBGMコンピレーションアルバムが一箇所に集中していた。明吏がめぼしいものに目をつけて視聴を繰り返している様子を見て、何となく手持ち無沙汰にしていた奏慧も視聴し始めた。少しの間そんなことを繰り返していると「折角だから奏慧の推薦教えて。僕も一枚決めてみるから」という明吏の提案がありそれぞれ10分程度で一枚を推薦し合う。明吏が選んだのはジャズテイスト、奏慧はエレクトロだった。奏慧がそのジャンル行くとはイメージにないなぁ、と意外に思う明吏だったが両方とも輸入盤で2枚でも通常のアルバム価格より安くなっている。一旦タイトルを記録して、後でサブスク配信があるかどうか確認してなければ買いに来ることにした。
 CDショップをあとにした明吏と奏慧は、そこからすぐ近くのモールで今度は雑貨屋に突入した。安価な雑貨が広いスペースに無数に並んでいるような店内に入ると、奏慧は量と値段に驚きつつ結構楽しんでいるように明吏には見えた。
「うわーなんだこれ。馬鹿みたいなアヒル」
「これ、お腹押してみ」
「お腹?」
 何かに驚いたような表情をしている細身のアヒルのマスコットを見つけた奏慧はそれを手に取って中が空洞になっている腹部をぎゅっと一息に締めてみる。すると見開いた目玉が思い切り飛び出した。
「うわ。びっくりしたぁ」
「あはは。面白いだろ」
「これ何に使うの?」
「今みたいに、この仕掛けを知らない人驚かすだけ。今ので奏慧に対してのこいつの使命は半分以上終了した」
「……うそぉ。何か切ない。半分?」
「じゃ、お腹離してみ?」
 言われた奏慧がアヒルの腹部を絞った手を離すと、プー!と言う間抜けな音ともに、飛び出した時とは真逆にゆっくりと目玉が元の位置に戻っていく。
「……へー」
「以上。残りの使命も全うしました」
「……くだらないけどおもしろ」
「そのくだらなさがいいのよ」
 そんなやりとりを幾つか繰り返しつつ、奏慧の帰宅希望時間を確認した2人はあまり長居はせずに雑貨屋を後にする。
「面白いね。時間ある時に来てみる。ボクここで買おうかな。あ、でも明吏と被る?」
「いや?僕は駄菓子の詰め合わせも考えてたからどちらでも」
「それもいいな」
 そんな話をしながら、2人は踵を返して帰路に着く。途中で奏慧のお使いを済ませると、時刻は夜6時半を回っていた。
「先輩たちも行ってたりしてな。あそこ」
「あ、かもだね」
「時間平気か?」
「うん。7時希望だから、余裕」
「そっか。お」
 と、明吏が何かに気づく。
「コーヒー飲も。奏慧はあったかいのなんか飲む?ミルクティ好きじゃなかったっけ?」
「うん。好き。奢りか?」
「しゃーねぇ。奢ったるわい」
「それはどうも」
 明吏がスマホの電子マネーで缶コーヒーとミルクティを購入した。飲みながら、さきほとの下校時よりはのんびりとそれぞれ自宅に向かって歩を進めていく。
 飲み物に二口ほど口をつけたところで、そういえば、と、明吏が切り出した。
「何?」
「いつも五附とか都もいるの当たり前だなぁ、って思って」
「…ああ、確かに、この2人だけって珍しいね。あんま記憶ない」
「僕もだ。今日の散歩はどうでしたかね?」
「普段ああ言うところ行かないから、面白かった。知らないものを知るのはやっぱおもろい」
「そりゃよかった」
「アヒルは個人的に買うかもしれない」
「気に入ってやんの」
「あと、空羽にあげるかも」
「…ああ!甥っ子くんか」
「うん。多分ああいうの面白がるかなーと」
「今いくつだっけ?」
「今2歳…半かな。6月生まれだから」
「うっわくっそ可愛いタイミング?」
「もうやばいよ。流石のボクもクラクラする」
「あははははは!そりゃ相当だな!」
「この前、玲史くんが面白がってスーツ買って着せてた動画見たんだけど、あれはもう兵器だった」
「奏慧にそこまで言わすか。すげえな」
「会ったことあるよね?」
「うん。あれ、去年の春。高校受かって祝賀会したときに」
「ああ、そうだそうだ」
「あん時もバチクソ可愛かったなぁ」
 そんな話で盛り上がりつつ、飲み物も進めていると、程なくして天崎家前に到着した。時間的にも余裕だった。
「散歩、付き合ってくれてありがとね」
「いや、どっちかってーとこっちが付き合ってもらった感じなったな」
「そうかな?いつもと違ってこう言うのもありだと思ったよ」
「ならよかった。んじゃな、お母様によろしく」
「うん。じゃ、また明日」
「おう。冷えてるだろうから気つけろよん」
「そっちこそ」
「風呂入れよ」
「お前もなー」
 そんな挨拶を交わして、2人にとってちょっとだけ珍しく感じられた時間は過ぎ去っていった。

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw