色彩の権利{R/G/B/A:1.0.1}


{R/G/B/A:1.0.1}

「と、いうわけで」
「いやスルーできませんって。何ですかさっきの激辛顔面パイって」
「まあ冗談よ」
「ならノートに記録しないでください怖いなぁ」
「ん?顔面パイ?」
 先ほど到着したばかりの都が席について首を傾げる。
「都くん、気にしない。で、当日に向けての準備の打ち合わせなんだけど、奏慧、今日更叉ちゃんは?」
「来るって言ってたけど、さっき担任によばれてたからもしかしたらまだかかるかも」
「そっか。ふむ。じゃあ、更叉ちゃん来るまで待ちましょか。あ、みんなお昼食べたの?」との真燈の問いにその場の全員が首を横に振った。
「そりゃそっか。じゃあさらさちゃんきたらみんなで食べながらうちあわせますか」
「はい、真燈先輩。打ち合わせってなんのですか?顔面パイ?」
「そうよ」
「違います。やめてください。今週金曜日のクリスマスイヴのセレモニー後にここでクリスマスパーティやるんだってさ。先輩にしては珍しく普通にやりたいんだって」
「へぇ!いいですね。クリスマスパーティ」
「都はイヴ予定ないのか?」
「イヴはないよ。25日に咲加ファミリーとうちでやるみたいだから」
「そか」
 咲加、というのは都の古い幼馴染だ。2つ歳が違う中学2年生のためこの場にはいないが、同じ私立酉乃刻学園の中等部に通っている。
「なら都くんも準備要員として考えてもいい?」
 真燈がすかさず人員確保体制に入る。そんなに人数必要なほど大掛かりなのだろうか?と明吏は思ったが答えはすぐに出た。
「ここの飾り付けとか、買い出しとかもあるし。あと、それなりに人数多い方が楽しい志ね。今年最後の部室での部活になるだろうし」
「まあ、それは確かにそっか。でもボク誘えるのクラスメイトの1人、2人ぐらいしかいないよ?」
「いいのよ別に。無理に人数増やして気を使うのも変だし、ノリが合いそうな人に遊びに来て貰えばー。気負わない気負わない」
 と、そこで再び部室の扉が開いて、明るい色のロングヘアをした長身の女子生徒が顔を覗かせた。
「あ、もう皆いましたかー。テストお疲れ様ですー。五附も参りましたです」
「お疲れ、更叉。先生、大丈夫だった?」
「あ、うん。進路調査票の件だったー。問題なしだったよん」
 その長身とスタイルの良さから第一印象で想像する性格とはずれがあるかもしれない。おっとりとしていて、非常に柔らかい印象が強い。
「そか。ならよかった」
「さぁ!じゃあ、更叉ちゃんも来たということで、お昼食べながら今週金曜日のクリスマスパーティの準備、打ち合わせますよ!」
「クリスマスパーティ?」という更叉の疑問符に、今度は奏慧が「金曜イヴだから、ここで放課後やるんだってさ」と答えた。
 すると、ほう、と納得がいったようにぽん、と掌を打って、
「いいですねぇ。楽しそうだなー」
「更叉はイヴ予定ないの?」
「ないない。25は家族で過ごすみたいだけど、4はないよー」
「よし!じゃあ、ここにいる全員参加決定で!」という真燈の号令に、明吏と奏慧は呆れ気味に、都と更叉は好意的、楽しみそうに答えた。
 果たして、明吏と奏慧2人の懸念と、都と更叉の期待、どちらが正解か。それはおそらく、今日の打ち合わせで回答が披露されることはない。当日まで、真燈のみぞ知る、というところなのだろう。


 ランチミーティングを皮切りに始まった放課後部主催のクリスマスパーティの内容決定、準備に関する打ち合わせは、ゆったりとしたランチタイムと、やはりおかしい方向に脱線しようとする真燈の発言と、軌道修正しようと試みる明吏と奏慧による指摘の応酬、食料買い出しと部室装飾班のメンバー確認や必要な分量、資材の洗い出し、当日までの簡単なスケジュール決め、現在部室には来ていない2人の真燈の同級生の部員への出欠確認、顧問への企画最終確認、予算の計算を経たところで、「あ、ダメだ!テスト疲れが来た!!」という真燈の集中力強制終了をきっかけとして、その日は終了することとなった。内容としては上々だった。あとは打ち合わせるよりも、とりあえず動いてみて調整すると言う段階と考えて差し支えないところまで進んだと見ていい。時刻も気づけば16時をわずかながら回っていた。かれこれ3時間ほど頭を突き合わせていた計算になる。
「いやー。時間が経つのは早いねぇ」
 帰りの身支度をしながら、凝り固まった背中を伸ばすように背伸びをしつつ真燈が言う。
「まあ、確かに。楽しそうな中身になってきたので、真燈先輩、余計なの打ち込まないでくださいよ?」
「しないってばもう。今年は純粋にやるの」
「でも、本当にどうしたの?いつもなら絶対変な遊び混ぜ込むじゃない」
 明吏のいじりが効いたのか、少し拗ねた様子の真燈に奏慧が疑問を放つ。
「いや、天崎。油断してはいけない。秘密裏に1人で仕込んで当日暴露とかありうるじゃないか」
「だーかーらー。今年はしないってば。来年ぶちかますから」
「来年の12月までいる気!?3年の2期末じゃないですかとっくに引退しててください」
「受験には受かっているつもりなので引退しても復帰してやる」
 明吏はその宣言に”やりかねん。この人なら”と思うのだった。
「さーて、行きますか?みんな出れる?」
 はーい、と4人が団結した返事をして、5人は部室を後にする。
 談笑しながらエントランスに向かい靴を履き替えて校門に向かう。
 学生証をゲートに通して、5人は校外に出ると、そこで立ち止まった。校門を出ると、帰宅ルートが基本的に2方向に分かれるからだ。
「あ、今日は母からのお使いがあるので、あたしはいつもと違って直進!駅前寄ってくーのだ。誰か行く人ー?」
 と、真燈が宣言すると、更叉と都が手を挙げた。
「あ、私は帰り道なんで」
「ぼくもちょっと寄りたいところがあるんで今日は駅前まで行きまーす」
「おお、奇遇やね。篠坂と奏慧は帰る?」
「んー。僕はなんかあった気がするんですけど、忘れたんで一旦帰ります」
「ボクも。もしかしたら散歩しに行くかもだけど一回帰る」
「お、そうかい。なら、また明日ね。なにごともなければ今日と同じく昼から部室でOK?」
「はい」
「うん。問題ないと思う」
「よし。んじゃ2人ともまったあっしたー。んじゃ駅前組行こうかー!」
 真燈の号令を合図に、5人は3対2に分かれてそれぞれ歩き始めた。明吏と奏慧は方向が一緒らしく校門を背に左に折れて進み始めた。
 昼に授業が終わってしまうと、この時間に帰宅する生徒は少なく、辺りが割と静かなせいか、少しの間、元気な真燈の声が、道を違えた明吏と奏慧の2人にも聞こえていた。
「…真燈先輩、どうなんだろうな」
「まあ、ああ言っている以上はなんかその通りもしてきたけどね。じゃなくても、危険なことはしないだろうし。おかしなことになるだけよ」
「それが怖いんだよ。天崎はなかなか標的にならないからまだいいけどさ。まったく」
 明吏はそう愚痴るように言うが、いざ真燈の悪戯が始まるとそれなりに楽しんでいる雰囲気があることを奏慧は知っている。けれど本人が素直に認めることはないだろうと踏んで黙っておくが。
「そんなことはないけど、真燈にとって明吏が弄りやすい相手だって言うのは完全にその通りだからいいじゃん。嫌われてるわけじゃないし、むしろ好かれてるのよ」
「好かれ方ってもんがあるだろ!?一時期モルモットかと思ったんだぜ?」と、まるで頭を抱えるように言う明吏に対して奏慧は自分のことを棚にあげて核心を突きにいく。
「正式な部員でもないんだし、そんなに嫌なら部室こなきゃいいのに」
「行かなきゃ行かないで今度お前に突っ込まれるだろ?気分でいかないことととかあっても、それこそ部員でもないんだからどうでもいいはずなのにさ」
「そりゃ勧誘している身だからねぇ。もう半年よ?いい加減諦めて入りなさいな」
 奏慧が明吏に対して今まで何度となくいいきかせてきた内容に毎度酷似しているが、奏慧はそれを諦めない。標的になるのはいい。別に。そうではない。的が自分に絞られるのが嫌なだけなのだ。
「この話になると毎回聞いてるけどさ、そんなに僕が放課後部に加入する必要性あるのか?」
「ある」
「なんでだよ」
「明吏がいないと、あたしが的になるから」
「……やっぱりかぁ……」
「そりゃそうでしょ。あっちは上級生なのに、まるで同級生みたいに接してて普通なくらい仲良いのよ?幼馴染でもなんでもない、中学の時からの先輩ってだけでこれなんだから、明吏がいなくなったら、サンドバッグにされるのは確実にボクじゃん。都くんでも更叉でもないでしょ?」
「それはそうだろうな……贄か…」
「でも、加入したら少し落ち着くかもよ?真燈のあれ、もしかしたら勧誘のつもりなのかもと思うことがある。明吏がどっかで楽しんでるんじゃないかって思って、やってる節がなくもない気がする」
「まあ白状すると、いざ始まっちゃえば楽しむしかないしな。それもあながち的ハズレではないけど、楽しくてやってるんじゃなくて、楽しむしか逃げ道がないといううね」
「明日入部届書いてね」
「書かない。それだけは書かない」
 真燈と仲のいい奏慧だけのことはあるな、と明吏は思った。
「ちっ」
 あからさまに眉間に皺を寄せて舌打ちをする奏慧。
「ま、何はともあれ、だ。今は一旦、真燈先輩が明言している『今年は普通にやる』方針を信じるか。打ち合わせた感じだと本当普通のパーティだし、そう言うことをやってこなかった分、普通の方がレアで素直に楽しそうではあるし」
「まあ、今日の時点ではね」
「今日の時点だけでも結構やることあるんだよな。何か隠し持っているにしても、あれ以上やるのは準備時間も予算も足んないだろ」
「それも、そうね。現実的限界ってやつね」
「うん」
 そんな流れで、打ち合わせの簡単な復習をしていると、奏慧の家の前に到着した。
「あ、ついた」
 まるで気付いていなかったように奏慧がポツリと放つ。
「もっと早よ気づけよ」
「なんかぼーっとしてた?かも。やっぱりテスト、棍詰めてたから疲れてるのかな」
「ったく。気をつけなよ?散歩行くかもなんだろ?天崎はよく散歩しないとダメになるって自覚してるのは知ってるけど、今日はやめとけば?無理にやめろとは言わんけどさ」
「うん。そうね…どうも」
「いーえ。そんじゃ、また明日な」
 と言って、本来なら進行方向そのままで自宅に向かうはずの明吏が、やってきた方向に踵を返した。振り返る格好になる。それを見ていた奏慧は違和感を覚えて、声をかけた。
「あれ?戻るの?」
「ん?ああ、さっき校門前でさ、なんか駅前に用があった気がするなぁと思ったんだけど忘れてたんだ。それを今、天崎の家のクリスマスイルミネーションの飾りを目にして思い出したのだ。今日は教科書類置いてきたから、荷物も軽いし駅前引き返そうと思って」
「そうなんだ。ふーん。そっか。ちなみに用って?」
 そんな明吏の発言に、非効率的な行動だなあと反射的に思ったが、しかし同時に、そんな無駄とも言える行動にこそ、であるからこそ生まれる意味や価値も有るのよね、と思う。自分の散歩だって、自分にとって意味はあるが、他人にとってはなんでもない、無駄な行動と捉えられるかもしれないのだ。いや、そう言う人は確実にいるだろう。
「…明吏時間あるの?」
「ん?ああ。まだまだ16時半過ぎだろ?それに、時間なきゃ今から駅前引き返そうとしたりないよ。別に何がなんでも今日じゃなきゃいけない要件でもないし。時間あるから行ってこようかなというね。テスト明け、若干羽伸ばしの意味も含め?」
 と、明吏が懇切丁寧に繰り出した事情を理解した奏慧は、一つ思いついていたことをくちにだすことにした。というか、実行することにした。迷惑にはならないだろう。そんな無駄もいいかもしれないと思ったのだ。
「そうなのか。ふむ。わかった。よし、明吏、ちょっと家に入れ」
「ああ、わか……ええ?」
 一瞬、そこで別れる流れの返答を予想して答えを準備していたのだろうが、その矢は的を盛大に外した。
「いいから。リビングで待ってて。着替えて散歩の準備してくる」
「なんで?」
「駅前戻るんだろ?ボクも散歩がてら一緒に行くから。コース決めてなかったからちょうどいいし」
「ってもさぁ」
「ぼーっとしてるの気をつけるように言ってくれたじゃない。なら、どっかでボケないようにここから往復付き合って」
「……やっぱ天崎って、真燈先輩と仲良いよな」
「どう言う意味だ?」
「いえ。ま、そう言うことなら、お言葉に甘えて」
「うん。どうぞ」
 奏慧の思いつきで、明吏は何度目かの天崎家に足を踏み入れることになった。

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw