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Nervous Fairy-3


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 その日の夜。
 まるで刑務所のように、部屋のドアの外に夕飯が置かれる音がして目を覚ました。
 いつもこうだ。
 その時にノックもない。
 やりかけの、父を作る以外にやっている作業の痕跡に頭を突っ込む形になって机で眠っていたあたしは、固まった肩と背中をほぐしながら受け取りに行く。
 庭に続くサッシを開けた時か、換気扇から吐き出される空気なのか、ステーキのいい匂いがしたけれど、ドアの前に置いてあったのは賞味期限ギリギリのコンビニ弁当だった。
 食べた後はこっちで処理ができるから楽でいいけど、あからさまに兄との格差を感じる瞬間でもある。まあもう慣れたけど、これ、打って出るところに出て行ったら普通に虐待で多少は問題になるぞ、と思う。面倒だし、この方が楽だからしないけど。
 その弁当を拾い上げて、思う。早くこんな環境抜け出してやるんだ。母が一度も入ったことのないこの部屋の中に、何があるかなんて知ったらきっと奪われてしまうだろう。兄に恨みはないけど、助けてくれるような素振りもないから恩もない。そもそも日常的な会話もない。
 離れにはトイレもあるし、母屋に行くとしたらお風呂か、食器を使った食事が届いたときくらいだし、それにしたって夜が遅いから誰にも会わない。
 その時によく感じる気配があるのだけど、それは母か兄のどちらかがあたしに近づいているようなときもあれば、のもう一つ気持ちの悪い気配もある。
 母と兄が、リビングを去って上階の各自の部屋にいるであろうにも関わらず、一緒の部屋にいるような気配だ。声も足音も消して入浴をすませるあたしは、どんどんそこに敏感になっていったから、その差異に気づいてしまった。
 そんなことが秒で頭の中を駆け巡った時、あたしはやっと弁当に口つけるかと思ったのだけど。

 “こつん”

 壁に、小石か何かがぶつけられる音がした。
 なんだろう。別にいいや、と、唐揚げと白米を頬張りながら自分で買ってきたペットボトルの麦茶の蓋を開けて一口つけて流し込んだ時。
 なんか。無性に寂しくなる。
 
 “こつん”

 カーテンがわりに、カーテンレールにぶら下げているワンピースの数々から外に光が漏れているのだろう。誰かが、あたしがここにいることを知っていてやっているのか?

  “こつん”

 一度は偶然。二度は必然。三度目は、なんだっけ。
 そこであたしは口の中のものを全部飲み込んで外に出た。女子高生が住むにはセキュリティが甘すぎる古い木の板一枚の玄関。鍵も古臭い南京錠が内側からかろうじてかけられるくらい。蹴破れる空間だ。
「……何やってんの」
 母屋とは離れを挟んで反対側。絵に描いたような庭によくある腰ほどまでの白い木の柵の向こうすぐに立っていたのは篠倉ー篠倉結城だった。
「や、明かりついてたから、いるかなーと思って」
「ご飯食べてたんだけど」
「お、まじ?え、一緒していい?」
「は?なんで」
「今買ってきたばっかりなんだよ。今日うち誰もいなくて」

 父が死んだその日から、初めての誰かからの夕飯の誘い。
 正直…

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw