見出し画像

畑の魅力は多様性

畑をやることはもはや老後の道楽ではない時代になっている、と肌身で感じる今日この頃。少なくとも僕がお世話になっている地域(大阪北部の高槻・原地区)、そして師匠の下に、30代、20代の通常なら仕事で忙しいはずの若者たちが続々と集まってきています。

そりゃ大阪中心部まで1時間で行ける便利な郊外という地の利もあってのことと思います。

でも、中には仕事を辞めてでも、なんていうのがいるらしく、さすがに師匠たちはそれを止めているそうな。

畑で働きさえすればプロ農家になれる、なんとか食っていける、と安直に思ってしまうのは別問題として、20~30代の若い世代が畑をやりたがるのはとてもとてもいいことだと思います。

どっかでわかっているんでしょうね。太陽、土、水にリアルに触れなければ何もわからない、ということを。

正直、僕は何度も思います。もっと早くからやっておけばよかったと。ま、でもそれは人ぞれぞれのペースがあるわけですが。

畑をやることで否が応でも思い知らされるのが、野菜や米すべての食料は奇跡の賜物であることと、作物も農法も自然界もすべてが多様性の塊だということです。

直系1ミリほどしかない丸い種から、両手で持っても重たいどでかい白菜や大根が生まれ、吹けば一瞬にして飛んで行ってしまう小さな種からカロテンの宝庫ニンジンが生まれる。

薬や肥料については、無農薬だけならまだしも、不耕起、無肥料、草生やしっぱなし、なんていう自然農法もあれば、耕起や草刈は行い、有機肥料を投与し、時に自然に優しい薬品を使うこともあるオーガニック農法もある。農薬も化成肥料もある程度までは使用する減農薬農法、あるいは半減させた特別栽培農法。従来通り、農薬や化成肥料に依存する慣行農法など。

栽培手法は実に不特定な世界で、あらゆる作物に基本はあれど、そこの土壌、気候などによって土づくり、播種、定植、追肥、収穫のタイミングは様々。地域によっても伝統や習慣、傾向が違い、下手をすると1キロしか離れていない隣地でも栽培手法はおろか、向き不向きの作物があったりする。

周辺に生息する生き物も色々です。僕がお世話になっている高槻・原地区なら、シカ、アライグマ、イタチ、イノシシ、モグラ、サル。カラスは一時期ほどじゃないにしても一部では今も深刻な被害を受けています。

原地区は南北に約1.5キロ、東西に6~700mほどの小さな盆地。標高は約110~120mです。この中にけっこう多くの住宅も建っているのに深刻な獣害が後を絶ちません。

師匠たちの話では、常々森の中からこちらをうかがっているはず、とのこと。狭いエリアだからこそ食べごろの作物がある場所を見つけやすいのではないか、というわけです。

確かに、明日はそろそろ収獲かという時や、2,3日間の雨天が続いた時などに被害に遭うことが多いです。人よりわずかに速く、あるいは人の数が少ない日に食べに来ているのです。

なので防御方法も相応になってきます。どんなネットを設置しても、しないよりはましですが完全じゃない。平気でネットを飛び越えようとするし、近くの塀をのぼって飛び込んでくるし、動物によっては穴を掘って侵入してくることも。住宅街でもあるから電柵はできないし。こうなってくるともうババ抜きみたいなもんです。今年は誰それがやられたなんてね。いや本当。

作物の種類や価値も時代と共に流動していきます。3キロほど離れた塚脇地区は江戸時代まで寒天作りが盛んだった地域。今はトマトやナス、葉野菜など一般的な野菜や米などが中心に。原地区も同様ですが、原地区の米は昔はそうでもなかったそうですが、今では他地域の兼業農家たちが予約するほどいい米処だと言われています。

原地区の水は雨や山からのもので、水路が集落内に蜘蛛の巣状に貼り巡っています。狭い地区だからこそひとつひとつの区画がどこも変則的で段差があり、結果的に水のいい循環が生まれるのだとか。

その一方で、ショウガ栽培は原地区より塚脇の方が向いているという話も。大根やジャガイモ、トウガラシもいいのができるそうです。

吹田市民の僕の目には原も塚脇も同じ地域としか思えないのですが、同じ作物でも定植や収穫のタイミングがけっこう違います。先日、スイカの苗を買いに近くの種苗店へ行ったら、「原は塚脇の1週間後にして。ちゃんとビニールで保温するんやで。苗入れは最高気温やない。最低気温に合わせるのがコツや」と言われました。

同じようなことが、同じ原地区内でも起こることがしばしばあるのでたまりません。気温のみならず風の強弱や向き、川からの距離、影の有無など本当にいろんなことがすべてのことに影響していきます。

さらに同じ圃場内でも味が違ってくることもあります。たとえ同じ品種、同じ種だったとしても作物の色合いや味が違うことがあるんです。こうなるとほぼお手上げですね。このことをプロ農家の殆どはご存知だと思います。

こんなだから、畑というところは方程式や理論を求めたがる人にはちょっと生き辛い場所だと思います。常に太陽、土、水と折り合いをつけながら、動物や病害虫を伺いつつ、その地域の伝統や風習を学びもって隣近所の農家と協調し、ちゃんと自分流を確立していかなければならない。

僕は3年目突入にして、ようやくそのことが腑に落ちつつあります。

ライター道およそ30年。飲食業界に加えて、けっこう多くの農家・生産者たちを取材してきて、多くの方から聞かされてきました。「撮影ができる日?そんなことはっきり言えないよ。おてんとうさんに聞いてくれ」などという言葉。

取材の日時スケジュールを確定したいこちらにとって、収穫であれ他の作業であれ、それがいつになるかはっきりしないなんてのはヘビの生殺しのような話。そうでなくてもギャラは激減し、仕事量は何倍にもなっているというのに。これが遠方だともう最悪です。

でも、今の僕に畑取材を申し込まれたら同じことを返すでしょうね(笑)

畑は自然界を最も近くで感じられる場所。おいしい感動もついてくるのだから、こんなに都合のいい場所はありません。先述の繰り返しですが、畑をやろうとする若者が増えていることはとてもいいことだと思います。そんな暇も場所もない、という方はプランタでも、一坪でもいいから強くお勧めしたいです。同じ種でも、隣で育てたものとはどこかが違うことでしょう。

ついでにひとつ提案。小学校か中学校に、数学や社会なんかと並んで農業の項目を導入してみてはいかがでしょうか。そして出来るだけ体験型にする。年に何回か長期滞在も。できれば1か月。無理なら2泊3日を隔週で3,4か月。するとある種の作物の土づくりから収穫までの一連を経験することができます。

米もいいですがやっぱり畑、野菜作りがいいと思います。

top
町の灯り


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?