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Je ne comprends pas.

 カナダ東部ケベック州のモントリオールに来ている。同じ北米大陸にありながら、普段生活しているアラバマとは全く違う文化が根付いている。最大の違いは言語だ。英語が圧倒的に支配するアラバマとは違い、フランス語の存在感が非常に大きい。
 入国審査場に差し掛かったとき、このことを最初に痛感した。いくつかの進路があり、どこに行けば良いかわからない。係の人が指示を出しているがフランス語が聞き取れない。とりあえず多くの人が進む方に従い、なんとか入国することができた。
 街に入ると交通標識や公共の案内は基本的にフランス語で書かれている。英語が表記されている場合もあるが、あくまで補助でフランス語の方が大きく書かれている。

「通行止め」。有名ブランドの店舗が並ぶサン・カテリーヌ通りでは大規模な工事が行われていた
「臨時停留所」。バスや地下鉄などの公共交通機関では車内放送もフランス語のみだった
この駐車場の案内には仏英併記だが、フランス語の方が目立つように大きくハッキリと書かれている

 町中を歩いていると、フランス語と英語の両方の会話が聞こえてくる。市内のマギル大学のキャンパスにも行ってみたが、フランス語で会話しているグループがいるかと思うとそのすぐ近くには英語で話し合っている集団がいる。普段は英語が完全に支配的な環境で生きているので、複数の言語が混じり合うモントリオールの雰囲気はとても新鮮に感じられる。
 観光客に接する職業につく人は大抵二つの言語が話せるようだ。初日に夕食を食べた牛角では、席につくなり「フランス語がいいか英語がいいか」と聞かれた。英語での接客をお願いし、さらに"Do you speak both languages?"(「両方の言葉が話せるんですか」)と聞いてみた。"Yes. English and French are two major languages people speak here"(「はい。英語とフランス語がここでは主要な言語です)と返ってきた。
 3日目の昨日はジャン・タロン市場のクレープ屋さんで昼食を食べた。勇気を出してフランス語での注文に挑戦した。"Saint-Brieuc, s'il vous plaît"(「サン・ブリエクをください」)と言ったはいいものの、次の質問が聞き取れない。"Je ne comprends pas"(「わかりません」)というと、すぐに英語に切り替えて、"Do you want the egg in the crepe scrambled?"(「クレープの中の卵はスクランブルエッグにしますか?」)と言い直してくれた。この町ではバイリンガルでなければ接客業は務まらない。

ジャン・タロン市場で食べたクレープ。中にはハムと卵、チーズが入っている

 モントリオールでフランス語が広く使われているのには歴史的な理由がある。カナダは今でこそ英連邦の一画をなすが、現在この国をなす地域で最初に植民活動を行ったのはフランスだった。モントリオールは1608年にフランス人の冒険家ミシェル・ド・シャンプランによって建設された。それ以来、1763年に七年戦争後のパリ条約でイギリスに支配権が移るまで、この地はフランスの植民地だった。そしてイギリス領になった後もフランス人入植者の子孫はこの地に残ってフランス語を話し続け、フランス語文化は現在に至るまで受け継がれている。
 

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