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ep.Who is.

僕自身の現状、抱えているもの。 向き合っているもの。考えているもの。 今日はそんなものを、綴っていこうかと思います。

海の幸と温泉が有名な某県で、僕は働いていた。 白衣職。医療現場、コロナ禍の先端で働く職。 とある薬局の、しがない薬剤師をしていた僕は、朝から夕方まで、処方箋を持った患者さんと対話したり、説明したり、時には怒鳴られたり、局内の仕事をしたりで、毎日忙しく働いていた。
本来の仕事とともに、薬局管轄の上層部から課されるノルマをこなし、時には残業。平日は家と職場を往復し、休日はとにかく寝る。あるいは趣味に走る。時には玄関の土間と段差の狭い空間で横になるほど疲れ果てることもある毎日で、異変が現れ始めたのは、ちょうど秋口頃だった。
学生時代から1人住まいだった僕は、専ら自炊をしていた。 料理は好きだったし、時間がある時は凝った料理や手間のかかる料理をするのも苦ではなかった。作りすぎて余った料理を友達に分けることもあったくらいだった。
掃除や洗濯も、日々の暮らしで必要だと認識していたし、そこそここまめにしていた方だった。 まず現れた異変は、家事ができなくなった事だった。 疲れて食べるより入浴より眠気が勝って帰るなりすぐ寝てしまう、それはたまにあることではあったが、いつまで経ってもそれが治らない。治らないどころか、何も意欲がない。 好きな動画も推し活も、絵画のようにぼーっと眺め、創作意欲も湧かず、ただただ寝て過ごす。さすがに、という時に何とか体を起こして入浴なり、食事をとるなり、その後は泥のように眠る。そんな生活になっていった。

それでも何とか仕事を続けてはいたものの、もう自分の意志を持っても、スタッフの配慮を重ねても、もう無理だ、限界だ、そう感じた僕は、ほぼ半泣きで上長に今日病院を受診させてくれと頼み込んだ。

何とか時間を作ってください、帰ってきて仕事を再開することも頭に入れてますから。 だからどうか今日、急で申し訳ないですが、病院に行かせてください。本当にきついんです、しんどいんです。迷惑をかけているのがわかるから尚更に。
そんな僕に、上長は少し考えた後、許可を出してくれた。

午後有休でいいよ、今から行っておいで。 診断がついたら連絡してね。 涙が出た。多分、この言葉がなければ、僕は今ここにいなかったかもしれない。 僕はへたり込む身体に鞭を打って、そのまま初診でメンタルクリニックに駆け込んだのだ。

メンタルクリニックでは、初診で聞き取りのカウンセリングがある。 僕が選んだクリニックは、市街地の中にあり、アクセスはいいものの混む時は混むようで、その時は医師との話や聞き取りが上手く時間が取れない可能性があると事前に電話で聞いていた。
気力があるうちに、症状の経過、僕が今感じていること、悩み、1番治したいと強く悩んでいる症状を紙にまとめ、いつでも提出できるようにファイルに入れて持ち歩いていた。 初めて入ったメンタルクリニックは比較的空いており、倒れこまないように注意しながら、看護師からカウンセリングを受けた。
質問にひとつずつ考えながらゆっくり答え、その後、待合室で医師の診察へ呼ばれるのを待っていた。 鞄を膝に置き、ぼーっと、何も考えずにソファの端に座って壁に凭れて宙を見つめていた。 そんな僕は、他の人にはどのように映っていたのか。
世に疲れた社会人。夢を失った人。
きっと色んなとられ方をされていたに違いないとは思う。 現に、僕は今もそこに通院中なのだから。
看護師から呼ばれ、診察室に入った。 医師は温和そうな初老の男性医師だった。 医師とも軽く話をして、僕が書き留めていた紙を渡し、僕に下された診断は、うつ病だった。 更に医師はこうも言った。 すぐに仕事を離れて休職するべきだと。
その時点で、僕は察した。 逃げたくなかったが受け止めなければならなかった。 うつ病という病気そのものがショックだった訳では無い。ショックだったのは病気の進行度だった。進行度が既に来るところまで来ているのだと。
受け止めなければならなかった。
仕事は辛い。きつい。 でも、好きだった。 貴方に説明してもらえてよかった。 貴方になら担当してもらいたい。 名前を覚えてくれる人もいた。 やり甲斐はあった。 でも思い知った。 やり甲斐だけでは乗り越えられないものがあることを。
医師とは少し喧嘩になった。 今すぐに休職は難しいこと、手続きや段取りがあること。 自分の体よりも、この先どうしたらいいのか、頭を無理矢理にフル回転させた。 医師は自分の体が先だと、仕事がまだある、投げ出せないという僕の話に頑として首を縦には振らなかった。
上長と話し、体調に合わせて仕事ができるように配慮して貰えるようにすること。 残業はしないこと。 体調第一で絶対に無理はしてはいけないこと。 医師からの診断書を受け取ること。 それを条件に、通院しながら仕事を続けることに対して許可を貰ったのだった。
処方箋を貰い、ぼんやりと電車に揺られながら、乗り換えてバスに乗り、家に着き。 どさりと荷物を置いた僕は、しばらくまたぼんやりと宙を見つめていたと思う。 そして、上長へ、うつ病だと言われたと、こんなことになって、自分の身体も管理できない職員で申し訳ないとLINEを送ったのを覚えている。

上長は、僕と同期だった。 会社の研修会でなんだかんだ顔を合わせることが多く、顔を覚えるのが苦手な僕でも覚えている人だった。 人当たりが良く、頭の回転もいい。 ユーモアもあって、時折思考が斜め上を行く、独特な人だった。

その同期である上長にLINEで報告をした。
病院に行ってきたよ。 鬱だって言われた。
ごめん、たくさんこれまで迷惑をかけて。
まだノルマも残ってるし、周りと比べて遅れをとっているのはわかっているのに。
頑張りたいのに頑張れない。本当にごめん、と。

しばらくして来た返事には、 無理をおして働いてくれてたってことだから、十分頑張ってるよ、そう書いてあった。
初めて僕は涙が出た。
声を上げて泣きながら、僕、頑張ってたんだ、頑張れてたんだと、認められた気がした。
これからのことを話しながら、僕はずっと泣いていた。
頬に流れる涙を拭い、鼻水をかみながら、僕はずっと、自然と止まるまで泣き続けた。 時折声を上げて泣いた。 今まで蓋をして見ないようにしてきたもの達を洗い流すように、泣いて泣いて、ひたすら泣いた。 泣きながら、受け入れたのだ。 僕の、病気のステージを。 それを抱えたまま勤務することを。
次の日、僕は処方箋を持って、職場へと向かった。そして、急に休みを取ったこと、業務に穴を開けてしまったこと、自分に下された診断、全てを朝礼で話し、スタッフ皆に謝罪と説明をした。
ここまで自分のことを公にする必要があるのかと思う人もいたかもしれない。そして、今これを読んでいる人も。
僕がラッキーだったのは、医師の診断書を受けた事実があったことだ。 医師が僕を診て、下した診断。 そしてその対応。 たった1枚の紙の力は本当に凄いものだった。 そして、何よりも、スタッフの理解がきちんとあったことに救われた。
大変なのは皆一緒だと、今までの上長であれば切り捨てられていた。 忙しさに甘えるなと。 ただ、要領も、スピードも、経験値がものをいう職種で、必死に先輩達のペースに齧り付きながらただ我武者羅に仕事をしていた。 質を落とせない、ミスも許されない医療職で、ただひたすらに遅いといわれ、どこをチェックしているのか分からない、ミスが多すぎる、要領が悪いと突き返されることばかりで。 未熟な自分がいけないんだと、ただただ歯を食いしばって、情けなくて泣きたいのを堪え、必死に食らいついて。 きつく注意された後に接客に出され、涙をこっそり拭いながら笑顔で患者さんと向き合う。
その場で学んで吸収していくしか無かった。 皆社会人として見られる中、子供じゃないんだからと庇ってくれる人も居ない。 1番忙しい時間帯の時は、スタッフも待合室もピリリとした空気が張りつめ、当時新人だった僕は誰にどのタイミングで聞けばいいのかすら戸惑うほどで。
聞いても怒られる。聞かなくても怒られる。 事前連絡や共有の場もない。 皆自分のことでいっぱいいっぱい。 そんな荒んだ職場を少しずつ変えていったのが、同期だった。 スタッフの接し方も余裕が出来、個々の共有事の風通しも良くなった。
そんな中だったからこそ、今までの職場を知っていたからこそ。 僕は自分自身のことをスタッフ間で公にしようと自分で決めたし、周りからの手助けや、理解もして貰えたと思っている。 きつい時はきついと素直に伝えることも出来た。 昼休みを早めに取っても気遣ってくれる場所を作ってくれた。
恵まれた環境だったと思う。 スタッフにも恵まれたと思う。
メンタル面と、体力面でハンディを背負った僕には、恵まれた職場にしてくれた同期にはただただ感謝しかなかった。 薬を飲みながらでも、それなりに充実した仕事が出来ることが嬉しかった。 

それでも進行する病気であることは確かで、今は少し暇をもらい、自己生活の見直しをしつつ、趣味を楽しみながら復帰に向けて治療を続けている。

それが今の僕の現状であり、すべて。
休職に至ったのはいずれはしなければならなかった、そんな運命だったと思っている。それだけ身を粉にしてきた代償なのだと。
大げさかもしれないが、色々と自分を削って仕事をして。
自己ケアが間に合っていなかった、それは確かなことだ。

ただ、REALITYという新たな趣味や、推し活、創作意欲が出てくるようになったのも、勇気を出して休職を選んだことだと思っている。
今後の自分を支える新たな趣味が見つけられた、そうポジティブに受け取っている。









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