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ロシアのLGBT「プロパガンダ」法の規制強化について(上院通過を受けて)

ロシアのLGBT「プロパガンダ」法の規制強化について書いたのは、約4週間前、第一読会を通過した後のことだった。

その4週間の間に法案は少し内容を変えながら下院を通過し、上院も通過し、大統領の署名を待つのみとなった。

前回記事の時点からの変更点

下院通過時の法案を確認したが、LGBT「プロパガンダ」法に関してする法案(法案217472-8号)では、以下の通りプロパガンダの対象となる情報に「性転換」が含まれるようになった。

ロシア連邦行政法典6.21
1.非伝統的性的環境造成、非伝統的性的関係及び(もしくは)嗜好、性転換の魅力、伝統的性的関係及び(もしくは)嗜好と非伝統的性的関係及び(もしくは)嗜好間の社会的公平という不正確な理解を形成する、もしくは非伝統的性的関係及び(もしくは)嗜好、もしくは性転換に対する関心を喚起する情報を与えることを目的とした情報を拡散する及び(もしくは)公衆の面前での行動に移す、非伝統的性的関係及び(もしくは)嗜好、性転換のプロパガンダは、その行為が6.21²にあたらず刑法に触れない場合において、
個人:5万~10万ルーブルの罰金
公務員:10万~20万ルーブルの罰金
法人:80万~100万ルーブルの罰金、もしくは90日間の営業停止
が科せられる。

この6.21での違反行為は1に示されたもののみで、他の項は違反する主体とそれに応じた行政罰が示されているのみである。
LGBT規制と言いつつLGBについてのみ規制していた法律が、名実ともにLGBTに関する「プロパガンダ」を規制するものとなった。

また同時提案されている法案217471-8号においても以下の変更がみられる。

  • 各種規制対象にペドフェリアと性転換が追加(原案では「非伝統的性的関係及び(または)嗜好のプロパガンダを行うもの」とのみ)

  • 「情報、IT、情報保護についてのロシア連邦法149-FZ」で連邦機関によるモニタリング、及び違反の際の対応を記載。

  • 「消費者権利保護に関するロシア連邦法2300-I」の4.1として、その拡散が行政罰もしくは刑事罰の対象となる情報を含む商品(輸入品含む)の販売禁止を規定

  • 「ロシア連邦における子供の権利の基本保障に関する連邦法124-FZ」の14.1で規定される連邦機関が子供を守るべき対象の情報を「非伝統的性的関係」から「非伝統的性的関係及び(または)嗜好を開陳する、ペドフェリアを喧伝する、もしくは未成年に性転換の希望を呼び起こさせるような情報」に変更

既に見え始めている効果

法律家であり、ロシアLGBTネットワークの創設者のひとりでもあるイーゴリ・コチェトコフは、実際の適用は従来法と同じく多くはならず、自己検閲をしないことが重要だと話しており、実態は法適用の実例を待つ必要があるだろうとしている。

しかし実際には、法律が施行されていないにもかかわらず、既に影響が見え始めている。

インターネット書店の「ラビリント」は、当該法に触れるかの確認のためとして一部商品の販売を停止した。

他にも書店、劇場、Youtubeチャンネルなどで、自己検閲を行っているケースを目にする。

またLGBT関連書籍を出版していたポップコーン・ブックスは、11月30日を以てLGBT関連書籍の販売を停止した。

どの企業も、行政罰に関する法的リスクを負いたいとは思わないだろうから、それならばリスク軽減のために販売や公開を止めよう、となるのだろう。

また間接的な効果として、ホモフォビアが社会通念として浸透することが危惧される。

「LGBTは欧米がロシア社会を壊そうとする道具だ」「ロシアの価値観と相容れない」という発言は既に聞こえてきており、それらを敵視する論調は至るところで見え隠れする。

一例として、下院議員のタチアナ・ブツカヤは会見で「タトゥーが出てきてロシアでレズビアンが広まった。男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしくするべき」という中々ぶっ飛んでいる発言が出たが、このような言論が社会通念上正しいと認識されるへとさらに進んでいく可能性がある。

もちろん今までもホモフォビア的なものはあったわけだけれども、それに社会的地位を与え、「あるべき姿」としてみなすことは次元の違う話だろう。

終わりに

自分の中の思いは、特に4週間前と変わるものではない。
この法案の成立は、戦争とはまた別の次元で、おそらくそれ以上に今後のロシア居住に疑問を投げかけてくるものになるだろう。

性的指向・性自認に関わらず、皆穏やかに、幸せに暮らせる日が来ることを信じて。


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