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【好きな曲をモチーフに小説を書いてみた】 『それじゃあバイバイ/surface』前編 【連作短編】


「皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、今日も貴方のラジオのレストラン『Tu ñ de Restaurant dans radio』のお時間がやってまいりました。パーソナリティのポニーちゃんこと、馬堀万里子です。よろしくお願いします」

 出だしから締りのない長い挨拶だと思いますよね。
私もそう思います。
この番組の初回、Webラジオ番組なので、どの時間帯に合わせた挨拶をすればいいか迷った挙句に、全部いっぺんに挨拶したところ、以外にリスナーの受けがよくて、図らずも定着してしまったので今更変えるわけにもいかなくなってしまったんです。察してください。

「今日は『裸足の日』だそうですよ? 裸足の日かぁ……最近裸足でどこかを歩くことなくなったなぁ……いやぁ、それにしても、暑いですよね? Twitterで見たところによると、イギリスで車の中にクッキー生地放置したら、普通にクッキーが焼きあがっちゃったらしいですよ? 地球規模の酷暑ですから、皆さんはきちんと水分補給して、熱中症対策は万全にしてくださいね!」

 誰に対しての言い訳だか分からないことを考えていても仕方がないので、番組を進めることに専念する。この収録ブースはエアコンが効いているので快適だけど、今日も日本中30度を超える気温が我々を襲ったらしい。本当に地球はどうなってしまったのかと問いたくなる異常気象が続いている。

「私の部屋も、もう一日中エアコンで冷房ガンガンなんですけどね。去年まではできるだけ節電しようと思って、エアコンつけないで扇風機とかだったんですよ。だからもう、来月の電気代の請求額がいまから怖いです。一体いくらになるのやら……倍とかだったらどうしよう? いやでも、かと言って付けないで過ごそうものなら、平気で室温は38度とかになるじゃないですか? いや、体温でも高いですよ? 高熱の部類ですよ? そんなん死んじゃいますよ。命に関わるじゃないですか? だから切るわけにもいかないし……ああ、もう、ジレンマですよ」

 ディレクターから『まき』のジェスチャー。
 確かに、オープニングとして今日はちょっと語り過ぎたかも。いけないいけない。

「さてさて、それでは、本日最初の『ご注文』は、横須賀市在住 しいなさんからです」

 早速『ご注文』と言う名のお便りを紹介する。
昔はハガキが主だったらしいけれど、今はもっぱらメールかツイート、あとはブログへのコメントだ。
今日の『ご注文』も、公式ブログへのコメント投稿。

「『ぽにーちゃん、おはよう、こんちにわ、こんばんは』」
「はい、しいなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは」

 ブログのコメント欄は基本的に文字数制限があるので、この挨拶をもう少し簡略化できないかといつも考えてしまうが、制限字数が20000字と短編小説がかける字数なので、いらぬ心配なのだろうな。

「『僕は今、高校二年の男子高校生です。ちなみに、部活は軽音部です』」
「おお、高校生さんだ。しかもバンドマンなんだ? かっこいい!」
「『ポニーちゃんは、自分のこと好きですか?』」
「うーん、どうでしょうか? 今は、好きかなぁ? 昔は嫌いだったときもありましたけどね……」
「『僕はよく分かりません。好きでもないし、嫌いでもないし……というのも、ついこの前、同じ軽音部の先輩から、「お前ってホント世渡り上手だよな? 悩みとか無さそーで羨ましいわ」と言われました』」
「あぁー……世渡り上手な人っていますよね? 何でも大体は要領よくこなせて、人付き合いも上手で……そういう人見ると、私も『羨ましいなぁ』とは思っちゃうかも?」
「『僕は“世渡り上手”の意味が分からなくて、それで調べてみたら、“世間を上手く立ち回り、有利な人間関係を築き、裕福な暮らしを実現するさま”とありました。どうも悪い意味ではないと思うのですが、自分はそんなつもりはなくて……悩みだって普通にあるし』」

 メールを読んでいて、ある人物を思い出した。
 私の身内の中でも、やっぱりそういう世渡り上手な人はいるのだ。
 そして、大抵そういう人は、自分のことを過小評価しているというか、嫌っていることが多い気がする。もしかしたら、この『しいな』さんも、そういう人物なのかも知れない。

「『でも、周りからは悩んでるとか思われたくなくて、なんかトラぶったりしても、できるだけわたわたせずに、こう、何でもないですよーって感じに格好つけちゃうところはあって……そういう、計算高いところが、自分でもあんまり好きになれないんですけど……周りからは、そんな風に見えてるんだなって分かって、なんか余計に訳分かんなくなっちゃって……』」

 青春だなぁ。
 なんて単語が頭を過ぎってしまう辺り、私も年を取ったということなのだろうか。
 なんにしても、『しいな』さんはモラトリアム真っ只中の健全健康な青少年ということだ。

「自分に考えていることって、思った以上に周りには伝わらないですよね。『しいな』さんがそんな風に考えていても、周囲には『しいな』さんの行動とか、言葉とかからしか伝わらないから、“世渡り上手”っていう風に見えちゃうのかも。でも、基本的に“世渡り上手”って褒め言葉だと思うから、気にしなくていいと思いますよ?」

 とまぁ、この『ご注文』の本題はこれからなので、正直この辺りの話題への返答を、『しいな』さんは期待していないかも知れないのだが。
 一応、そういう人物に心当たりがある私なりの解釈を、『しいな』さんに伝えようと思ったり思わなかったり……ああすみません、ディレクター、まきます。だからそんな怖い笑顔を私に向けないで。

「『別に、部活の先輩にどう思われても気にしないんですけど、先輩にそう見えるってことは、なんというか、それ以外に人達にも、僕がそう映ってるのかなって思ったら、なんかちょっと不安になって』」

 そう、この『ご注文』の本題はここからなのだ。
 今日、この『ご注文』を番組で取り上げようと言ったのは、他でもない私だ。
 リスナー兼投稿者の『しいな』さんが、私の知り合いの某ダレガシに似ているからとかではなく、この酷暑の続くお盆に、爽やかな話題を提供したいと思ったのだ。
 もう、青春の王道のような、この話を。

「『いや、周りのそれ以外の人とか、正直関係ないんですよね。実は僕、ポニーちゃんに相談があって……周りの人とかじゃなくて、気になっている女の子がいるんです。その娘に、僕がどんな風に思われてるんだろうって、それが分からなくて……』」

 そう、今日日、Webラジオの番組に珍しい、ガチの恋バナの悩み相談だったのだ。

「『その娘は、結構口が悪くて……っていうか、見た目とか、周りの友達とかは、完全にギャル寄りの感じの娘なんですけど……ぱっと見は、ちょっと怖そうで、ワガママな感じなんですけど、なんていうか、たまに、すごくしんどそうな顔をしてることがあって……友達と一緒のときは、楽しそうに相槌打ちながら、ニコニコ笑ってるんですけど……不意に見せる、あのしんどそうな顔が、僕はどうにも気になっちゃって……』」

 小学校、中学校と進むにつれて、僕たち学生は徐々に群れを小さくしていくように思う。
 小学校低学年では男女も関係なく、楽しいと思うことに向かって一緒になって遊んでいたのが、高学年になると、まず男女の間に垣根ができる。
 そして、中学校ともなれば、趣味趣向で男女の中でも少しづつグループ分けが進み、高校に上がれば、もうしっかりと住み分けが済んで、きちんとした縄張りのようなものさえ出来上がっているのだ。

「永谷、昨日のあれ見たかよ?」
「おう、見た見た。あれはまじ凄かったよな――」

 僕はといえば、そんなグループ分けの中で言うなら、比較的大きめのグループに属しているといえばいいのだろうか。
 クラスの連中は、大体が顔見知りで、離せない奴はいないし、誘われれば誰とでも一緒に遊ぶし、逆に誰にでも遊ぼうと声を掛けることもできる。
 一応は、クラスの中心に位置するグループに属しているという感じだ。
 軽音部でベースを担当。一応、サッカー部も兼部しているが、こちらは殆ど練習にも参加できていないので、籍を置いているだけという感じだろうか。
 軽音部の先輩曰く『世渡り上手』というのが、周囲からの僕への評価らしい。
 変に『八方美人』という風に映っていなくて助かったが、それが対外的な僕のイメージなのだろう。

「てかさ、富士セン、マジでムカつかね?」
「そだねぇ、マジムカつくよねぇ」
「マジな? 課題とかそんなん知らんし? ウチら別に、大学進学? とか、考えてねぇし――」

 教室の隅で、数人の女子がたむろして先生の悪口を言っている。
 浅黒い肌、金色の髪、少し濃い目の化粧。
 俗に言う『ギャル』と呼称される彼女たちは、今日の授業で英語の富士巻先生が出した課題に関して不平不満を言い合っているようだ。

「あ! てかさ、ああいうのはあれっしょ? できるやつにやって貰うんが一番じゃね?」
「あーね! それがトリマ一番早いんじゃん?」
「――ああ、でも、それはソイツがちょっと可哀そくない?」
「ん? なに? シーナはいい子ちゃんぶっちゃう系?」
「あ、ちがくて! 面倒臭い系のやつは、やっぱできるやつにやらせるのが、コスパはいいけどさ、やさせるってなると、『代わりにあれやって』的なの言われそうじゃん? それならソイツがやったやつを写さして貰うとかの方が、見返り軽くて済そうくない?」
「あ――……確かに? シーナ頭いいじゃん? そういや前に、アーシがガリ勉くんに宿題まるまる全部やって的なこと言ったらさ、ソイツなんか調子こいて、『デートしろ』とか言って来てマジウザかったの思い出したわ。確かに、シーナの言う通り、全投げするとメンドーかもだね」
「そ、そうそう、あはは……――」

 別に、彼女たちのような在り方を、僕はどうこう言うつもりはない。
 できないことを前にして、誰かに手伝ってもらうっていうことも別に悪いことではないし、僕だってたまにやる。言葉がキツかったり、態度が悪かったりするのも、彼女たちなりの防御手段であるというのもなんとなく知っている。だから、

「皆口さん? それなら、僕のノート写す?」
「なになに、永谷君いい奴じゃん? あ、それとも、アーシとデートしたいとか?」
「あはは、そんなのは別にいいよ? あ、そうだ。前にライブに来てくれたお礼ってことで」
「神かよ! 流石は永谷君!」

 彼女たちが、変に真面目なグループに絡む前に、僕は自分のノートを彼女たちに提供した。
 実際、ライブのときには率先して見に来てくれたりしているので、ギブアンドテイクと言うやつだ。
 まぁ、彼女達の目的は、バンドのボーカル、学年一のイケメン、君島秀治なのだが。

「また、ライブんときは教えてね!」
「はいよ」

 喜々として僕のノートを持っていく、ギャル系グループのリーダー格の皆口あかりは、ああ見えて仲間思いのいい子なのだが……。
 どうしても、内気な男子に対する当たりが強いので、その辺りへの接触が多くならないようにしてあへなければならないのが玉に瑕だ。

「ほんと、永谷っていい奴だよな? あんなギャル達にまで優しくしてさ?」
「彼女たちは彼女たちでいい子達ばっかりだよ? それに、お客様は大事にしないとね」
「いや、ほんとに、お前に彼女がいないのが、マジ謎だよ。俺なら、速攻で付き合うのにな」
「……気持ちわるいこと言うなよ」
「ばっか! そういう意味じゃねぇよ! 俺が女だったらって話」
「分かってるよ!」

 クラスの男子とそうやって絡みながらも、僕はギャル系グループの一人、吉晴詩夏という女の子の姿を視界の隅に収めて溜息を吐いた。
 先程のやり取りで、皆口さんから『シーナ』と呼ばれていた彼女だ。
 さっきもそうだが、どうしても、僕には彼女が無理をしているような……そんな風に見えるときがあるのだ。
 もちろん、心のそこから、あのグループにいるのが嫌だという感じではないのだと思うのだが……時折、あのグループのノリに馴染めず、しんどそうな顔をしているように見えるのだ。

「ん? 永谷、どしたん?」
「ああ、いや、何でもないよ。それよりも、次の時間の数学、多分テストあるぞ?」
「っげ!? マジかよ? どこ情報?」
「5組情報。さっきあったんだってさ。小島先生、次はうちのクラスだから、同じテストが来る可能性大だよ」

 僕が、横目で彼女のことを見ているのに気づいたクラスメイトが、僕の視線の先を確認しようと目を凝らそうとするのをサッと遮って、僕は別の話題をそいつに振って誤魔化すのだった。

「はぁっ!? なにそれ、イミフなんですけど!!」

 廊下に響き渡ったのは、皆口さんの怒鳴り声だった。

「別にアーシら、なんも悪くなくない? そっちが勝手に勘違いして、そっちが勝手にキレてんじゃん? マジウザイんですけど?」
「ちょっと待てよ? お前らが最初に持ちかけてきたんだろ? それが先公にバレたからって、全部俺らのせいにしようとしてっから、ふざけんなって言ってんだろがよ? マジ調子乗ってんじゃねぇぞ?」
「はぁ? 調子乗ってんのはそっちだろがよ? 鼻の穴膨らんでんですけど、マジウケる!」

 一触即発の状況だ。
 野次馬にどういう状況下を聞いてみたところ、先生から言い渡された清掃の作業を、彼らで結託してサボろうとしていたところ、それが先生にバレてしまい、その罪の押し付け合いから、この状況へと発展してしまったらしい。
 正直、因果応報ではあるのだが、徐々に話があらぬ方向に進もうとしている雲行きを感じた。

「てかよ、誰だよ、先公にチクったの? こっちのメンバーは、さっきまでずっとツルンでたからありえねぇし、だとすりゃそっちだろ? そこの女どもの中に、密告者がいるんじゃねぇのか?」
「こっちだってそんなのいねぇよ、馬鹿!」
「あれ? でもさっき、シーナがどっか行かなかったっけ?」
「え? ちが、アタシじゃな――」
「ほらな! じゃあ、ソイツが――」

 罪の擦り付けあいが混迷を極めてきて、責任の所在を互いのグループではなく、個人に向けようとしているのが分かった。

「ちょいちょい、オタクら、落ち着きなって――」
「んだよ、永谷! お、俺はオタクじゃねぇよ!」
「はいはい、そういう意味での『オタク』って言ったんじゃないのに……その反応、まさか近藤はそっち系か?」
「ば!? ちっげぇし!! てか、んだよ永谷? これは俺たちの問題だ。関係ないお前が首突っ込むなよ?」

 雲行きが良くないと判断した僕は、二つのグループの間に飛び込んで男子のグループのリーダー格に話しかけた。知らない仲じゃないので、一触即発の空気はそのやりとりで大分薄らいでくれた。
 ちなみに、近藤はガチの隠れオタクだ。僕もそっちの方面にも明るいので、なんとなくそれを知っていた。

「いや、確かに関係ないけどさ……こんな廊下で知り合いが揉めてれば、首突っ込むでしょ?」
「……それ、永谷だけだと思うけどな。って、うお!? いつの間にか、こんなに人集まってたのかよ?」

 僕の乱入で冷静さを取り戻した近藤は、周囲にできた人だかりを見て更に冷静になったのだろう。

「ったく……そもそも、サボろうとしたのは変わりねぇわけだしな……はぁー……仕方ねぇ、やるか」
「それなら俺も手伝うよ?」
「いいよ、それこそお前には関係ないだろが? おい、女子! 先公にバレちまったんだから仕方ねぇ、さっさと終わらせちまおうぜ!」

 皆口さんも周囲の目が気になったのだろう。
 それに、これだけ騒ぎになってしまえば、このあとサボったとなると、そんな周囲の心象も良くないことも分かっているのだ。
 近藤の申し出に、渋々乗っかって、清掃の作業の準備に移行し始めた。

「はぁ……マジめんどくさ」

 そう言って、掃除用具入れから清掃道具を取り出して、各々掃除を始める。
 人数が多いので、それもすぐに終わるだろう。
 僕は、そんな様子を眺めて、ホッと溜息を吐いたあと、思わず苦笑いが溢れるのだった。

 私は、なんと言うか、中途半端だ。
 昔から、ファッションとかメイクとかが好きだった。
 それにキラキラしたイメージのあるギャルファッションに、憧れもあった。
 だから、高校では、そういう話題で盛り上がれる友達が欲しくて、そういうグループに属する道を選んだのだ。
 元々、男兄弟が多くて、キツイ言葉のやりとりにも抵抗はなかったし、好きなファッションの話も出来る。特に苦痛もなく、このグループでの学園生活をエンジョイしてきたと思う。
 でも、学年が上がって、少しづつ将来のこととかを考えて、そろそろ勉強もしないといけないのではと思い始めて来た頃から、私は周囲とのズレを感じるようになってきた。
 私の属するグループは、なんというか、自分はバカだからとか、真面目に頑張るのカッコ悪いとか、そういう考えたが主流の女の子が多いのだ。だから、勉強なんてやる必要はないし、少しでも楽をして学園生活を送りたい……それが、グループの空気であり、グループの総意であるようだった。
 でも私は、正直そうじゃないのだ。
 勉強は最低限必要だと思うし、ズルをしてまで楽に過ごしたいとは思わない。
 もちろん、一年ちょっとこのグループで過ごしてしまったが為に、勉強に関しては最早取り返しのつかない位の遅れを抱えてしまったし、先生や周囲からの印象も非常によろしくないというのも分かっている。
 そして何より、一年間ここにいて、ここの空気に浸って、今更異を唱える勇気も私にはなかったのだ。
 結果的に、私は、グループのみんなの顔色を伺いながら、周囲の話もろくに聞かずに、ただただその空気に流されるまま生活してきた。
楽ができるのは楽だし、勉強とかしないで楽しいことをやっているだけの学園生活は、やっぱり楽しかった。
でも、私自身は、少しも自分らしくいられていなかった。
だからだろうか。
誰とも笑顔で、ありのままで接している彼のことが、どうしても好きになれなかったのは。
 この前のトラブルのときも、軽いノリで現れて、笑顔のままでサラリと解決してしまって……。
 アレが、リア充というやつなのだろうか。きっと彼のようなタイプには、悩みと呼べるものも何もないのだろうと思うのだ。
 それがうらやましくて、妬ましくて、どうしても好きになれないのだった。

 助けてくれたのは、勿論感謝しているけども。
 そして、好きになれないけれど、勿論嫌いでもないのだけれど。

「うーん……『しいな』さんの悩みは分かります。自分がどう思われてるかって、やっぱりすっごく気になりますよね?」

 青春まっただ中の『しいな』さんの悩みは、好きな子に自分がどう思われているか。
 そして、その子が抱える悩みに対して、自分は何か力になれないか。
 この二点なのだろう。
 一点目の方は、解決は難しい。
 何故なら、相手がどう思っているかどうかを知る術がないからだ。
 だから、

「でも、人間は他人の心をのぞき見ることができません。だから、その部分はどう頑張っても、こちらには分からないんです。そこを気にしていても、答えは一生分からない。だから私が思うに、そこは気にしなくていいことなんじゃないですかね? えっと、気にしなくていいだと語弊があるかな? なんて言ったらいいんだろ? こう、要するにですね……良く思ってもらえるように、自分から積極的に働きかけないとって感じですかね?」

 分からないものを知ろうとして悶々とするくらいなら、分からないものは分からないまま、目的の形に変えられるように頑張る……そうできたら、素敵だと思うのだ。

「だから、『しいな』さんが気になっている、その子の悩みの解決の方に、アクションを起こしてみてはどうでしょうか? それでもし、その子の悩みが少しでも解決したら、きっとですけど、その子が『しいな』さんを見る目も、変わると思うんですよね?」

 偉そうに、そんな風に語って、私は最後に「『しいな』さん! 頑張ってくださいね! 応援しています!」とラジオ越しに語りかけた。

 そして、そんな『しいな』さんへの応援と声援の意味を込めて、一曲を選んで流すのだった。

 ラジオのポニーちゃんの言葉。
 僕には物凄く響いた。
 分からないことを気にしてもしょうがない。分からないそれを変えるために頑張る。
 そんなメッセージに勇気を貰って、僕は椎名さんに声をかけて見ることにした。


 つづく

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