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マリノスのIT化の歩み

スポーツトレーニングの科学的アプローチというと、昔はロッキー4のドラゴのイメージだった。国家的なプロジェクトで、なんとなく非人間的な手法。アナログで人間味溢れるロッキーがそれを打ち破るのが醍醐味だった。でも今やすっかり身近になり、むしろ精神論を排除した科学的アプローチこそ人間的であると言うイメージに変わった。

HOP   IT化の第一歩

マリノスのIT関連のニュースを見ると思い出すのが2011年のiPad導入ニュース。

「ワシが何とかしちゃる」と言って就任した木村和司監督の2年目始動時のニュースで、iPadはまだ前年に発売されたばかりで世の中的にも珍しかった。当時マリノスの改革に取り組んでいた嘉悦社長の意思の表れか、それを他チームに先駆けて使ってみようという動きはファンとしてもちょっと嬉しかったなあ。

iPadは17日にクラブに到着。木村監督は18日の練習で早速、小坂コーチが編集して取り込んだ画像を見せながらサイドバックに修正点を説明した。「パッと気づいたことを画像で見せられる。すぐ見せられるから便利だし効果的」と指揮官。実際に画像を見たDF波戸は「映像だとかなり分かりやすい」と早くもiPad効果を口にしていた。

コーチが編集して取り込んだ画像を見せる
パッと気づいたことを画像ですぐ見せられる

今読むと、この2つの文にある、果てしなく大きなギャップに笑ってしまう。小坂コーチどんだけ仕事早いんだよ。広いピッチの片隅で小さなiPadを覗き込むサイドバック陣を思い浮かべる。しっかり空気を読んで前向きにコメントする波戸選手も流石です。

ガジェットを買っただけで何か最先端のITを導入した気になってしまうのは、一般企業のIT導入でも一番駄目なパターン。どうせホワイトボード代わりに使う程度じゃないのとか、当時もそんな感想だった記憶あり。それでも何となくカッコ良いイメージだった。


横浜Mの木村監督が18日、携帯情報端末「iPad」を使った選手への指示伝達に乗りだしました。練習中にサイドバック陣を集め、動画を使って動き方などを説明。「ええなあ、あれは。言葉でいうより分かりやすい」とご満悦だったそうです。

言葉でいうより分かりやすい

これを読んだ時は正直、木村監督がiPadで波戸を殴っているイメージしか浮かばなかった。当時のiPadの性能では、そんなにスムーズには動画を見せられなかったんじゃないかなぁ。


STEP   IT化の第二歩

記事内には、マリノスは2000年からフィジカルトレーニングのデータベース作りを開始したと書いてある。とは言え、それを本格的に利用し出したのは、2013年末に導入したadidasのシステムからなのだろう。樋口監督の下、リーグで2位、天皇杯で優勝した時のことだ。


miCoach eliteを構成するのは「プレーヤーセル」「テックフィット」「ベースステーション」という三つのアイテムと、クラウド上で提供される分析アプリケーション、それに「miCoach eliteダッシュボード」と呼ばれるiPadアプリケーションだ。

最初のiPad導入から3年後である。世界に誇るマリノスタウンで、こんな最新のシステムを使えば絶対に強くなると期待していたなあ。ところが…

「プロ選手は肉体的に完成されているため、トレーニング手法に関しては理論が確立されています。ところが、これはジュニア世代となると違って来るんです。ジュニアからのサッカー選手育成プログラムは欧州で開発が進んでおり、そのノウハウも共有されていますが、日本人と成長曲線が欧州人とは異なるからです」

改めて記事を読むと、プロ選手は(こんなの無くても)トレーニング理論が確立していて、むしろジュニア世代に適用したいと書いてある。頑固な職人肌のプロ選手達が、なかなか言うことを聞いてくれなかったのかと邪推してしまう内容だった。

別の記事ではこんな話もあった。


選手からもっと練習をしたいと言われた時に、これだけやっているから今日はもういいんじゃないか、といったふうに使っている

いやぁ、、、なんと前向きな使い方…どの選手のことなのか想像してしまう。居残り練習こそサッカー小僧の拘りであり、プロフェッショナルな姿勢であると思っていた時期が僕にもありました。でもその後の進化に向けては、このステップが必要で且つ重要だったのだなぁ。

ボール回しなどによって前転しなければならなくなると(背中に付けたGPSが)痛いので、今は横周りしている

そう言えば、ドリブルが引っかかるとよく前転する選手がいた記憶あり。もしかしてスランプの原因はこれか⁈


JUMP  IT化の第三歩

adidas のシステムを導入したのと同じ2014年にCFGがマリノスの株主になった。CFGに入って、様々な面で欧州の最先端のシステムが利用できるようになったが、本当に使いこなして成果が出てきたのはまさにここ数年のことである。

この記事を最初に読んだ当時は、そんなものかなぁという感想だったが、今は嘉悦社長の先見の明に驚く。


あのレベルを日本に持ち込むと、カルチャーショックみたいなのもあるはずなので、まず消化不良を起こすでしょうね。人間は、情報が多すぎると判断できない生き物です。まずはフィルターを通さないと。

そんな悠長なことを言わず、もっとドラスティックに改革を進めて、早く優勝してくれよ!というのがファン目線での本音だった。でも今のマリノスのIT化の浸透度を見ると、当時のこの判断が正しかったと実感できる。



私の経験してきたものをベースにマリノスでは(分析を)やらせてもらっていますが、マリノスにきて変わったのは “見せ方”のところですね。

ハードウェア、ソフトウェア、データベース、と順番に揃えてきて、最後はそれを運用する人の能力を獲得した。選手の世代も変わって、受け取る側もITネイティブになっている。SNSを使いこなし、WebExでオンラインでトレーニングする。

単にCFGに入ったから強くなったのではない。マリノスにそれを消化するベースがあったからこそ強くなれたのだと思う。CFGもまた、提携先の選定にあたってそんな土壌を見極めたのではないだろうか。マリノス最高だよ!ありがとう嘉悦さん!(相変わらず大した結論なし)

#応援したいスポーツ


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