インタビュー記事「フィクション」2
サルサのレタスチャーハンを自作した画像
お椀にぎゅうぎゅうに詰めてお皿にポンっです。サルサソースを乗せて、最後に黒胡椒を挽くと周りに散らばるのでこのような見た目に完成。
チリパウダーを使うのでメキシコぽい風味。
さて、こんばんはフィクションの時間ですリクエストありがとうございます。
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ニューオリンズジャズ
新宿の喫茶店から一度事務所へ戻る。
電車に乗れば数分程度の距離だが私はアルタ前から西口へ渡り20分ほどの距離を歩いた。
古いマンションの2階、軋むドアの蝶番。
ソファに深く腰を掛けると淹れたてのコーヒーを目の前に先ほどの録音を聞いてみる。
やはりエルヴィンとの会話は要領を得ない。
私はPCの電源を入れると使い慣れたwordを立ち上げ録音の文字起こしを始めた。
文字起こしをすることで俯瞰し、前提や固定観念・既成概念に縛られることなく問題と向き合う。モヤモヤとした時、私は必ずこうして文字起こしをしてみる。
エルヴィン…彼はカバールについて「陰謀論」や「都市伝説」を持ち出した。
それらは私が日本で「日本語検索」をした結果と同じような内容、幼稚な少年漫画のような内容であった。
私の知っている彼はリアリストだ。願望や感情よりもまずエビデンス、それが数百回に及ぶ彼とのメールのやりとりで感じたことだ。
ではリアリストである彼がなぜ。
つまり先ほどの内容、それ自体には意味がない。しかし”それ”を私に話すことに意味があった?
私はそう考えることにし、体を伸ばしてから何となくニューオリンズジャズを聴いてみる。
メキシコ湾沿い、ルイジアナ南部の町ニューオリンズ。
「ニューオリンズの文化は音楽無しには語れない」これは路上でサックスを吹いていたジェフ・ノーマンと名乗る老人の言葉だ。
この地はアフリカ・メキシコ、そしてスペイン・フランス…ネイティブアメリカ、つまり歴史的背景から多文化共生、それぞれの個性が入り交ざった場所。
それらの共存共栄に貢献したのが音楽で、そうしてニューオリンズジャズが生まれた。
ジェフはこうも言った。「音楽にも絵にも国境はない。世界中がジャズで溢れるべきだよ」
陽気で優しいニューオリンズジャズはインスタントコーヒーの味も変える。本来であればバーボンのロックを傾けながら聴きたいところだが…
エルヴィン…カバールについて先に口にしたのはエルヴィンだった。
メールのやり取りの中で私が少し興味を持った素振りをしたので、それは彼なりの優しさだったのかもしれない。
そう。彼にとって私に「カバールについて」を語るメリットは何かあるだろうか?
そもそも彼は私に会いに来たわけではなく旅行に来ているのだ。つまり「ついでに」私に会っただけだ。
エルヴィンは私に話すつもりがないのかもしれない。話すつもりはないが、友人である私が興味を持っていると分かっている事柄について、無視するわけにもいかない。
つまり「君の興味を尊重しているよ(しかしカバールについて話すつもりはない)」という答えなのかもしれない。
だとすればこのまま正面から問うたところでエルヴィンは受け流すだけだろう。であれば私は攻め方を変える必要がある。
…陰謀論? 都市伝説?
そのような娯楽を与えられて私が納得するわけがないということはエルヴィンだって承知をしているはずである。
その上で私にそれを投げかけたのであれば私は敢えてその遊びに乗ってやろう。もしかすれば、彼はそれを待っているのかもしれない。
一旦そう考え、私は自ら打ち込んだ文字起こしを眺めた。
「世界のURでは、イルミナティやロスチャイルド、ロックフェラーを頻繁に目にするね。」
「フリーメーソンやイギリス王家も。」
「天皇。」
「それとアトランティスのような幻の大陸や国家、古代文明。」
「ああ、君がお気に入りのそれらもそうだね。あとはエイリアンもそうだ。火星人? ではこれらの中でどれが現実であるか君には分かるかい?」
イルミナティ…ロスチャイルド。エルヴィンが最初にそれらを口にしたことに理由はあるのだろうか。
…ロックフェラーとも言っていた。
もちろん知っている。
それらが何を示すものであるのかも何となくは知っているが、私はそういった近現代の陰謀論・秘密結社などにはあまり興味を持ったことがなく、エルヴィンの言う通り古代・民族、また時間や空間に関する重力やエネルギーなどに私の興味は寄っていた。
そもそもエルヴィンと出会ったのも後者、SNSのそういった集まりだった。
そうだ。私たちはあまりこういった話をしたことがなかった。だからこそ私は興味を持ったのだ。
現状は雲を掴むような状態…
と、丁度1曲目が終わったタイミングでインターフォンが鳴った。
3和音のチープなメロディ。この時間、この音を私に聞かせてくるのは取り立ての催促か、…彼しかいない。
ドアチェーンを外し鉄板のようなドアを開く。ギィ…と軋む蝶番。
「今日はサーモンとケッパーのマリネだ」
アダム・ヴァイスハウプト
山中義孝。
彼は国立大の史学科から銀行マンとなり、30歳を機に脱サラ。2年の放浪後、西新宿の高層ビルの谷間、ビル風の強い路地裏で”ニューオリンズカフェ”というバーを始めた。もう10年も前の話だ。
何しろ彼と出会ったのがニューオリンズで、その縁で私はこの西新宿5丁目に事務所を置くことに決めたのだった。
そうして彼は週に1、2度…いや多いときは毎日、こうして食材と酒を持って私の事務所を訪れる。
「ケッパーとシャルドネが合うんだ。グラス頼む。」
「今日は朝まで仕事だろう?」
最近は人手不足で彼が朝まで現場に入ることが多い。金払いは良いが自由奔放な彼の性格についていける従業員はそういないだろう。
私は何だか変わり者同志と言うことで歳は少し下だが気が合うらしい。また彼の考古学の知識や金融の話は非常に興味深いものがあるため、彼と話すことは単純に楽しいのだ。
私は狭いキッチンスペースへ入る。ワイングラスと氷を張ったバケツを用意しながら先ほどのエルヴィンとの出来事を彼に話した。
「ああ。イルミナティは現実に存在した組織だ。」
彼によるとイルミナティは18世紀、1776年に神聖ローマ帝国の中南部、現在のドイツ南部バイエルンでイエズス会の修道士によって設立された秘密結社だと言う。
しかし彼らの無政府主義思想が危険であると判断され1785年にはバイエルン政府によって禁止、解散が命じられた。
つまりイルミナティという秘密結社は僅か9年間の存在であったらしい。
1785年…230年も前に解散した組織が現代に甦った理由は何だ。
イルミナティの起因は封建制や宗教への反発であるのだろうと言う。
ヨーロッパでは大航海時代を終え、その後の新しい体制は迷走し混乱を招いていた。
大航海時代を振り返れば15世紀末、ヨーロッパでは王に権力が集中し封建社会が成り立たなくなる。
そうして貨幣が主流となったヨーロッパの人々は、富と労働力の獲得を目指し海へと出た。それは封建制の崩壊が明確に始まった頃だと言えるだろう。
1492年、クリストファー・コロンブスが西インド諸島を発見、これは西インドではなくアメリカ大陸東部のバミューダ諸島であった。
この出来事によってキューバなどカリブ海の島々と中南米がスペイン人によって支配され植民地となった。
夢や希望を持ち、新大陸を求めたヨーロッパの人々。
実際に現地で行われたことは侵略、凌辱、虐殺。そして奴隷貿易。こうした潮流がアステカやインカ、マヤを滅亡させた。
「文明の滅亡、それはほとんどの場合、暴力が始まりだ。」
カリブ海や中南米で暴力の限りを尽くしたヨーロッパの人たち。しかしその結果ヨーロッパは急速に発展を遂げた。
死体の上に成り立つ富。
「一世を風靡した大航海時代も17世紀には終焉。この頃のヨーロッパでは30年戦争やピューリタン革命、フロイドの乱などが起こった。メソアメリカでの虐殺に飽きた彼らは今度はまた自分たちで殺し合ったんだ。一体何をしたかったんだ?」
そこに追い打ちをかけるように気候不順も重なり、社会は再び混沌としたと言う。
いくつもの主権国家が重商業政策で覇権を争い始め、18世紀にはついに啓蒙主義が広まった。
アジア進出も活発となりいくつもの国が多くの植民地を持った。
ヨーロッパ・アメリカ・アフリカの三角貿易を通じて、ヨーロッパには物資だけではなく「情報」がもたらされ、世界はヨーロッパ中心主義となっていく。
その中で生まれたイルミナティ。反政府・反宗教的思想。
「つまりイルミナティは科学や論理的整合性を是とする自由思想の普及を図ったんだ。創設者はアダム・ヴァイスハウプト。
法学者でイエズス会の修道士でもあったヴァイスハウプトは1776年5月1日、現在のドイツ南部に当たるバイエルンでイルミナティを創設。最初のメンバーは自身の受け持つ学生たちだ。
反政府活動に自分の受け持つ学生を使ったんだ。ひどい先生だろ?」
イルミナティでは3つの階級を設けたが、それはフリーメーソンという組織を参考にしたらしい。
これは以前エルヴィンからも聞いたことがあった。
友愛団体フリーメーソン。
そのフリーメーソンを参考にしたという3階級だがこの階級制はイルミナティ内部ではあまり浸透しなかった。
「ヴァイスハウプトは組織を学ぶべくフリーメーソンに加入したんだ。そこで宮廷に努めるアドルフ・クニッゲという男と知り合う。
このアドルフの協力によってイルミナティに独自の階級や儀式・儀礼、教団ネーム、用語などが考案されイルミナティはドイツ・オーストリアで一大ムーヴメントを起こした。」
瞬く間にヨーロッパ中に広まったイルミナティはフリーメーソンからの会員も多く、とくにドイツ南部からオーストリアのフリーメーソン会員のほとんどがヴァイスハウプトとイルミナティに賛同した。
このことによりイルミナティはヨーロッパの一大ムーヴメントとなりヴァイスハウプトはカリスマとなった。
バイエルン政府は陰謀論による爆発的ブームに危機感を覚え、1784年6月22日にバイエルン大公が「秘密結社の会合の禁止」を発布。
これにはイルミナティを恐れたイエズス会やローマ・カトリック教会などが暗躍したと言われているらしい。
1785年、バイエルン政府はイルミナティを名指しで否定、この時には地下に潜っていたイルミナティだがすぐに追い込まれた。解散を命じられたイルミナティはここで消滅をした。
会員は投獄、公職追放、資産の没収となり、創始者であるヴァイスハウプトはドイツ北部のゴーダへ亡命…
「ヴァイスハウプトは世界を作り替えようとした。神にでもなるつもりだったのかねえ。当時の活動家は総じて幼稚だ。」
彼によればイルミナティの掲げる新世界秩序は、
・既成政府の廃絶
・世界単一政府の樹立
・全ての財産の放棄
・愛国心と民族意識の根絶
・家族制度(結婚制度の撤廃
・子供のコミューン教育
・全ての宗教の撤廃
そしてこれは後に生まれる「共産主義」の元だと言われている。
18世紀に於ける共産革命の芽。
「この後すぐにフランス革命が起こる。これにはイルミナティの根強い信者やフリーメーソンが黒幕であるとする陰謀論があるが、これは資料がある。彼らは生き残りを懸けて新しいムーヴメントに乗っかったのだろう。」
私はすっかり忘れていたワイングラスを持ち上げる。
シャルドネ…このフランス・ブルゴーニュ原産の白ブドウは爽やかな甘み、切れのある爽快感が特徴。世界中で栽培されており、土や生産者によって味わいはそれぞれだ。
彼が今日持ってきたものは南アフリカで作られたものらしい。
さて…230年前の秘密結社、9年で消滅したイルミナティ。
あ、そういえば…
「イルミナティ創始者であるヴァイスハウプトは亡命後どうしたんだ?」
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という2回目のフィクションでした。また要望があれば続けますし、なければ気が向いた時に書くかもしれないし書かないかもしれません信じるか信じないかはあなた次第。
次回はフリーメーソンさんの六本木にあるグランドロッジで総理大臣と大統領に会った話をします。では。
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